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カテゴリー「084 お盆」の52件の記事

2022年7月15日 (金)

お盆のファンタジー49

ディースカウ先生は起きてくるなり「大体読み終えた」と切り出す。昨日さしあげた「ブラームスの辞書」のことだ。

「興味深く読めました」と言ってくれた。「作曲家別音楽用語辞典という着想が斬新です」「全ての作曲家でやりたくなりますね」特にここにご本人がいるけれど、ブラームスさん自身が気づいていないことも多くて驚いたとも。無意識でありながらこれだけの傾向が統計的に表れてしまうのが凄いというか、意外というか。

「ディースカウ先生のようなネイティブのドイツ語話者でも楽譜上ではイタリア語よりドイツ語の方が解釈が難しくなるとご著書にありましたが」と水を向けると、うなずきながら「そうだ」と。「あなたがブラームスの辞書で書いている微調整語がからむと特にな」。「ziemlich」「nicht zu」「etwas」のことだろう。イタリア語で「poco」「piu」「non troppo」とされればたちまち理解できるのにと嘆いておられた話だ。

「ブラームス先生が楽譜上でのドイツ語の使用について自主規制をかけていたというお説には賛成じゃ」「ドイツ語は声楽パートに限ると統計的に証明されてみると思い当たる節も多くてな」と。

感心したのはコンチェルトの独奏楽器が総奏に埋もれないようにダイナミクス表示が工夫されているのに比べて、声楽パートは大管弦楽が伴奏の時でさえ配慮されないという指摘じゃな。「人の声は埋もれない」というブラームス先生のお考えの反映かという提示は印象的だ。ご本人はとぼけて答えてくれない。」 そういえばブラームス先生はさっきから聞こえないふりをしている。

「ディースカウ先生のドイツレクイエムでは特にです」と。生まれて初めて買ったドイツレクイエムのレコードがディースカウ先生の独唱だった話に移った。「私のキャリアを始めた曲だからね」と遠くを見る目つきだ。とくに「4つの厳粛な歌」と「ドイツレクイエム」はドイツの宝。シューベルトさんが残した余白をブラームスさんがきっちり埋めてくれているという感覚だと、ディースカウ先生は淀みがない。ブラームス先生は耳まで真っ赤にしている。

「ブラームス先生に対して欲をいえば」とディースカウ先生が切り出した。私はもちろんブラームス先生もドキッとした。

「欲をいえば、オペラが歌いたかった」

ディースカウ先生ならではオチで、さっきゆうゆうと帰っていった。

 

 

 

 

2022年7月14日 (木)

お盆のファンタジー48

シューベルトネタが全然途切れない2人の間に割って入りながら「ディースカウ先生にプレゼントがあります」と私が「ブラームスの辞書」を差し出す。

ディースカウ先生は「ほえ」と首を傾げたままフリーズ。ブラームス先生が補足説明に入る。「わしの全作品に現れる音楽用語を全部抜き出してアルファベット順に羅列して、使用箇所を添えた代物じゃ」「用例に加えてコメントもある」とどこで聞いたのかやけに詳しい。

今度は私がたたみかける。「先生のご著書シューベルトの歌曲をたどっての中に興味深い個所をみかけました」「ディースカウ先生はMassig
をmoderatoと断言してらっしゃいます」「Etwas~、ziemlich~、nicht zu ~をさして正解テンポにたどり着くのが難しいともおっしゃっています 」「私もその本の中でそういう解釈をしています」「先生はシューベルトから、私はブラームス先生の作品を分析する中から同じ結論に達しているのがうれしくて」と。「もしかして気が合うのではないかと思ったもので」と悪乗り。

あきれ顔のまま我に返ってパラパラとめくっている。「うーん」「ふー」「ほー」「えっと」としか言わない。

「これをくれるのか」とやっと絞り出す。

「もちろん」です。「その代わり先生がシューベルトの辞書を書いたら1冊ください」

一同爆笑となったが、ディースカウ先生の目は笑っていなかった。

2022年7月13日 (水)

お盆のファンタジー47

昨夜遅くまで盛り上がっていたというのにフィッシャーディースカウ先生もブラームスさんも早起きだ。ずっと話し込んでいる。耳を澄ますとどうやら話題はずっとシューベルトだ。ブラームス先生にそう水を向けると、「そらそうじゃろ。こんな機会は滅多にない」「シューベルトでならずっと語っていられる」と目を細める。時折ピアノも歌も織り交ぜながら議論が尽きない感じ。申すまでもなく話題の中心には歌曲がある。次から次へと話題を変えて違う作品の話になるが、ブラームス先生はほぼ楽譜なんかなしで伴奏を付ける。どこで打ち合わせてきたのか、アーティキュレーションの細かなニュアンスまでピタリと寄り添っている。

ほれっと言いながら始まったのは「夜と夢」だ。「あんたの好きな曲だろ」とブラームスさんが弾きながらウインクを寄越すと、もうディースカウ先生はレガートをかぶせる。

調子に乗った私が、「王と王子の12番歌合せ 」の話をした。

  1. 糸を紡ぐグレートヒェン D118 ゲーテ
  2. 永遠の愛について op43-1 ヴェンツィヒ
  3. 月に寄す D193 ヘルティ
  4. 五月の夜 op43-2 ヘルティ
  5. 連祷 D343 ヤコビ
  6. サッフォーの頌歌 op94-1
  7. 幸福 D433 ヘルティ
  8. セレナーデ op106-1 クグラー
  9. 子守歌 D498 ?
  10. 子守歌 op49-4 子供の不思議な角笛
  11. ます D550 シューバルト
  12. 雨の歌 op59-4 グロート
  13. 水の上で歌う D774 シュトルベルク
  14. あの娘のもとへ op48-1 ボヘミア民謡
  15. 夕映えの中で D799 ラッペ
  16. エーオルスのハープに寄せて op19-5 メーリケ
  17. 夜と夢 D827 コリン
  18. 野に一人いて op86-2 アルメルス
  19. ノルマンの歌 D846 シュトルク
  20. 領主フォンファルケンシュタイン op43-4 ウーラント
  21. シルヴィアに D891 シェークスピア
  22. 調べのように op105-1 グロート
  23. 提菩樹 D911-5 ミューラー
  24. 日曜日 op47-3 ウーラント

「隣り合う2曲一組の歌合せですわ」と説明するとディースカウ先生の顔色が変わった。奇数がシューベルト先生、偶数がブラームス先生になっていますと付け加えた。「私個人としては5勝4敗3引き分けでシューベルト先生の勝ち 」でしたと水を向けるとブラームス先生は「わしならシューベルト先生の全勝じゃわ」と口をとがらせる。

ディースカウ先生は「4つの厳粛な歌が入っていないのは不公平ではないかね」といきなりの鋭い質問。「いやいやシューベルト先生側に4つの厳粛な歌に見合う作品がないので」と私が即答。歌合せのペアリングとはそういうものですと。ディースカウ先生は深々とうなずきながら「良い見識です」と同意してくれた。「全体によい趣味です」とほめてくれたばかりか、ブラームスさんに目配せをかますと「糸を紡ぐグレートヒェン」を歌い始めるではないか。ディースカウ先生てのグラムフォンの全集には入っいないのに、聞かせてくれた。「これは本来女性が歌わねばならんのじゃが」と言い訳も忘れないディースカウ先生だ。

あれよあれよという間に全部聞かせてくれた。ディースカウ先生も「おおむねそんなもんだ」と5勝4敗3分に同意してくれながらも4つの厳粛な歌がないことにはアスタリスクを頼むと念を押された。

2022年7月12日 (火)

お盆のファンタジー46

いやはや「日本がこんなに暑いとは」と言いながら2人がそそくさと上がり込んできた。今年ばかりはブラームスさんが誰を連れてくるか見当がついていた。フィッシャーディースカウ先生を得意顔で紹介してくれた。

「ディートリヒ・フィッシャーディースカウです」と右手を差し出す。「ディダと呼んでくれ」とすぐに付け加えてくれた。普通の会話なのにやっぱりちゃんとしたバリトンなので驚いた。「そんなことよりご令嬢の結婚おめでとう」とブラームスさん。長女の巣立ちのことをさっそく切り出すとは、相変わらず目端が利く。「大模様替えで電子ピアノを処分したと聞いて、今日は持ってきたぞ」と意味あり気に切り出す。「今日ばかりはピアノがないと話にならん」といってディースカウ先生の方をみてウインクをかますや否や、ブラームス先生がピアノに向かい何やら弾き出す。「それではお嬢様の結婚を祝して」と前置きしてディースカウ先生が歌いだす。「Se voul ballare signor Contino…」

!!!

「フィガロの結婚」第一幕からフィガロのカヴァティーナだ。先生はもとより伴奏のブラームスも暗譜。我が家のCDではディースカウ先生は伯爵ばかり歌っているのでフィガロが聴けてうれしい。いやもう極楽。

その後、延々と1幕を全曲歌っちまった感じ。ブラームスは「いや適当じゃよ」と言いながらなんとか通す。でディースカウ先生は男役は全部歌えるんだそうだ。先生はバルトロを歌ってもバジーリオを歌っても様になるばかりか、裏声で伯爵夫人やスザンナも悠々とこなす。

私もつられて「もう飛ぶまいぞ」を歌わせてもらった。終わりの方は3人で合唱になった。

フィガロが一段落したところで、今度はディースカウ先生がピアノの前に座る。ブラームスさんは打って代わって神妙な顔をして「身内にご不幸が重なったようですね」と私の顔を覗き込んだ。急な展開に戸惑うばかりだが「はい。1月と5月に伯母と叔父を相次いで亡くしました」と私。ブラームスは意を決したようにディースカウ先生に合図を送る。

ディースカウ先生が音取りの1音を出すや否やブラームスさんが歌いだした。

「4つの厳粛な歌」の第3曲「おお死よ、そなたはなんと苦しいことか」だ。心に響くとはこのことだ。「ありがとう」と絞り出すのがやっとの私。「ここまでの道中サプライズを考えてきたんですよ」とディースカウ先生。そりゃ「私の伴奏でディースカウ先生が歌ってはサプライズにならんじゃろ」としゃしゃり出るブラームスさんだった。たしかに。でもディースカウ先生のピアノすごい。ピアノと声が2拍差でカノンになるところ、ご自身で歌っているかのよう。

「ブラームス先生、僕よりうまい」とうなずくディースカウ先生だった。

 

 

 

 

 

2021年7月15日 (木)

お盆のファンタジー45

座はやがて即席演奏会になっていた

みなでシューベルト先生の作品を次々と歌う。「ます」「魔王」「菩提樹」「死と乙女」「子守歌」「アベマリア」「セレナーデ」など続く。ブラームス先生はどの曲もとっさに伴奏をつける。これにはシューベルト先生も驚いた。「まじ暗譜しとるんか」と。それには答えずに「次は?」と聞いてくるブラームスだ。

それではと私がブラームス先生の「五月の夜」を歌い始めたが、「その手のつまらん作品は暗譜していない」とブラームス先生。ブラームス先生が伴奏をしようとしないのにシューベルト先生は「あれ?」という表情だ。「そのテキスト、ヘルティ?」と真顔で質問する。「ばれたか」とブラームス先生。「さっきのドイチュ番号表の194番にあるじゃろ」と言う。シューベルト先生と同じテキストに作曲しちまったんだ。「ヘルティ先生のテキストはいいよね」と言うとシューベルト先生は「言える言える」と嬉しそうだ。「有節歌曲としての収まりっぷりだけなら最高だ」とはしゃぐ。

五月ならぬ七月の夜が深々と更けていった。

「さてお二人におみやげがあります」と私。出来立ての「ブラームス歌曲私的ベスト24 」のCDを渡した。これに喜んだのはシューベルト先生だ。「私がいくら貴殿の作品の話をしようと言っても全く取り合ってくれないんで」とブラームスを横目で見ながらチクリだ。「道中ずっと私の作品の話ばかりで王子の作品の話が出来なかったよ」どうやらシューベルト先生はブラームスの歌曲を聴きたいのだ。

「帰りの道中は是非お楽しみください」と私が言うと、ブラームス先生は「しょーがねーなー」という表情だ。

さっきかえって行った。

 

 

 

 

2021年7月14日 (水)

お盆のファンタジー44

音楽の三要素と言えば一般に「旋律」「リズム」「和声」とされとるが、ドイツ音楽伝統のリートに限ればこれに「テキスト」が加わると申していい。とブラームスが話を変える。ドイツリートは必ずテキストが先行する。テキストに接した作曲家の脳内に起きるインスピレーションこそが始まりだ。これはどうあっても不動だ。作曲家によるテキストの取り扱いが見どころ聴き所となる。和声、リズム、伴奏によりテキストのイメージを具体化するわけじゃな。

シューベルト先生の飲み物はいつの間にかワインに変わっていたが、相変わらずにこにことうなずいている。

テキストに関して作曲家が出来ることは限られていると感じる。次の3つくらい。とブラームス先生がドイチュ番号表の余白に鉛筆で書き出す。

  1. テキストの採用不採用 その詩に曲をつけるかどうか。
  2. テキストの詩節の省略 オリジナル4節にうち1節省くとか。
  3. リフレイン オリジナルにない語句の繰り返し。

シューベルト先生から学んだのは特に2と3じゃな。テキストが有節歌曲として様になるかと自問する。2と3で上手に処理すれば大抵は有節歌曲になる。「それでもだめなら不採用ですね」と我が意を得たりの風情でシューベルト先生が続けた。「加えて」とまたまたブラームス先生が続ける。「テキストが持つ詩としての抑揚やフレージングに合わせて適切な音を当てていく」「ここに無理は禁物じゃ」「なあにテキストに心から共感できていれば、容易いこと」「気の利いた伴奏や転調は勝手に湧いてくる」

「だから」とシューベルト先生が続ける。「つくづく1番のテキスト選びが大切なんだ」と。「作者の知名度にはほぼ相関関係はない」「最初の直感が大抵正しくて、後からいじくりまわすと悪くしてしまうことが多い」

独訳聖書からこれと思う語句を選んで曲をつけるという「4つの厳粛な歌」の手法は斬新ですねと私が横やりを入れる。「おお。確かに」とシューベルト先生が同意する。「チョイスもまた芸術ですね」

 

 

2021年7月13日 (火)

お盆のファンタジー43

「歌曲の王子」と無茶ぶりされて顔を赤らめたブラームス先生だったが、ここまでずっとにこにこと話を聞いているだけだったシューベルト先生が興味深そうに乗り出してきた。「して、歌曲の王とは私のことですか?」と、とぼけまくった質問にブラームス先生はビールを少し吹いた。口元をぬぐいながら「いかんいかん道中肝心な話をしていなかった」「とっくに知っているかと思った」と。考えれば後世の歴史家や研究家の評価なんぞ本人は知るはずもない。

そりゃあ、声楽作品は神代の昔から山ほどある。しかしドイツ語の詩作を題材にピアノ独奏の伴奏と1人の声楽というジャンルの創始者は間違いなくシューベルト先生じゃな。そりゃあモーツアルト、ベートーヴェンの両巨頭にだって定義を満たす作品が無いわけではないがね。ゲーテ先生とシューベルト先生の出会いが全ての始まりだったとわしはにらんでおる。「誰にでも歌える」がモットーだったプロテスタントの賛美歌と違って、歌手にもピアニストにもそれなりの技量を要求する。オペラと教会以外に歌手たちの働き所を作った功績は量りしれん。

とまあ立て続けだ。黙って聞いていたシューベルト先生がボソっと口を開いた。「私が王で、あなたが王子ということは、あなたが歌曲においての私の正当な後継者という意味なのですか?」これにブラームス先生はジョッキを持ったまま凍り付いた。

「そうなんです」と乗り出す私。「間違いありません」。最近それが確認したくてシューベルト先生の作品を浴びるほど聞きましたが、仮説はもはや確信に変わりました。作品の総数こそシューベルト先生の3分の1程度ですが。

「何故そう考える」とシューベルト先生とブラームス先生が同時につぶやく。

総数およそ600曲で、さまざまな領域に及ぶシューベルト先生に対し、その一部を正当に継承していると感じます。一部とは「有節歌曲」です。その繊細な変形まで加えればこれがブラームス先生の歌曲創作の根幹にあります。とりわけ短い作品を多く生み出しています。ディテールに富んだ伴奏や調性の繊細な取り扱いなどにDNAを感じます。これに対しレチタティーヴォ付歌曲や長大なバラードはには背を向けています。狭い意味での「リート」は「有節歌曲」だった歴史的な意義をじっくりトレースしているのがブラームスさんです。

私が一方的にここまでまくしたてて、一瞬座が沈黙した。

そうした歩みの果てに最後にたどりついたのが「4つの厳粛な歌」だと感じます。おずおずと私。

「シューベルト先生には例のない独訳聖書からのテキストじゃの?」とブラームス先生がおもむろに口を開く。「ウイーン生まれのシューベルト先生はカトリックで、わしはルター派と言いたいんじゃな?」と付け加えた。「むしろシューベルト先生の倍も長生きされた結果かと」私が控えめに反論する。

「そっちか」と大笑いのブラームスさんだった。

 

 

 

 

 

2021年7月12日 (月)

お盆のファンタジー42

「今年の流れで、彼以外を連れてきたら、あとあと何を言われるかわからんからな」とマスクのブラームスは、いきなりのどや顔で紹介してくれた。

「シューベルトです。握手は控えますか?」と空気を読めるシューベルトさんだ。見覚えのある丸メガネは音楽室の肖像通りだ。「わしらは楽友協会で職域接種をすませたところじゃ」とブラームスさんが割り込む。「我が家は母だけが接種済みですが」と両手で握り返すと「フランツと呼んでくれ」とフレンドリーな返事が返ってきた。「現在ブログ上で事実上のシューベルト特集を展開中なんだ」と、はしゃぐと、お見通しのブラームスさんは「道中フランツとその話をしてきたところだ」とどや顔の上塗りである。

「ここだけの話、シューベルト先生の魔王は、あれは病魔だ」「我々の時代、コレラやスペイン風邪などたびたびパンデミックに襲われている」「魔王のテキストは庶民にとって遠くの話ではないんじゃ」「あれがop1でいいんだか悪いんだか」とブラームス節が早くも全開だ。

立ち話もなんなんでとリビングに招き入れてビールを用意した。ジョッキを持って立ち上がったブラームスさんがいきなり歌い出した。すぐにシューベルトさんも唱和して「プロジット」と盛り上がる。「大丈夫19時までには飲み終わる」と訳知り顔のブラームス。「TrinkLiedじゃ」と教えてくれた。「テキストはシェークスピア」と付け加えるのも忘れない。私が「D888ですね」というと二人とも「はて?」という顔付き。「D番号はシューベルト先生の作品を整理する番号ですわ」と説明するとブラームスさんは興味深そうに身を乗り出して「バッハ先生のBWVみたいなもんかの」とさすがのつっこみ。

その間シューベルト先生はにこにこと笑っているだけだ。

次女が2階から降りてきて「はい。これ」と言ってシューベルト先生のD番号のリストを二人に差し出した。「オットーエーリヒドイチュ先生によってこのリストが出来たのは1914年なのでブラームス先生が知らないのも無理はありません」と説明した。「これは便利なものがあるな」とブラームス先生。「BWVのようにジャンル別なのとどちらがいいかと言われれば、わしなら作曲順を採る」と独り言。鉛筆で何やら印をつけていると思ったら、あっというまにこちらに向き直って「リート全てに印をつけておいたよ」と。「タイトルだけ見てわかるのですか」と次女が目を丸くして尋ねる。「ああ」とこともなげのブラームスさんだ。「旋律が思い浮かぶどころかピアノ伴奏まで頭に入っているわい」と付け加えた。

「楽譜は無いのか」とブラームスさんが次女に向かって尋ねる。「ブラームス先生の楽譜なら全てそろっているのですが、シューベルト先生の作品はまだそろっていません」と次女。「三大歌曲集と一部の歌曲抜粋だけですわ」と私がポリポリと頭を掻く。

ブラームス先生はすぐにスマホを取り出して電話するや早口で何か言っている。あっという間にこちらに向き直って「ウイーンのマンディに言ってさっそく楽譜を送らせるよう指示したから。ラインではなかなか既読つかんからな」と言う。「仕事はやっ」と次女。「膨大な量になるのでとりあえずリートだけじゃよ」とブラームス先生。「わしは全部暗譜してるが、盛り上がるには楽譜があったほうがいい」とまたまたどや顔だ。

「歌曲の王と王子に乾杯!」と今度は次女が勢いよく立ち上がった。

歌曲の王子は耳まで真っ赤にして飲み干した。

 

 

2020年7月16日 (木)

お盆のファンタジー41

さて腹が減ったころだ。長男がかねて用意のランチを持ってきた。

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ザウアークラウトとソーセージのサンドイッチだ。パンはライ麦のあくまでもドイツ風。「東京千駄木の鴎外先生の旧居跡にあるカフェの名物です」という説明の終わる前にもうかぶりついたブラームスさんだ。鴎外先生は「千駄木?」と懐かしそうだ。「はい。私は小倉のお宅にも、ミュンヘンの下宿にもお邪魔したことがあります」というと、「そりゃ熱心な」と。

さっき帰っていった。

「今年は音楽の話にならなかったな」「でも満足だ」「いただいた歌集からいくつかに曲が付けられるかもしれない」「できたらリモートで送るから」とはしゃぐブラームスさんだった。

 

2020年7月15日 (水)

お盆のファンタジー40

5杯目を飲み干してブラームスさんが「ところで源実朝って誰じゃ?」と聞いてきた。鴎外先生が「いかんいかんまだ説明出来とらん」と頭を掻く。「あなたを生涯の作曲家と決めて40年、このほどようやく生涯の歌人を決めました」「それが源実朝です」と即答する私。

「いやいや実朝某を私になぞらえているのでな」とブラームスさんが身を乗り出す。歌人と作曲家を紐付けた試みのことだ。

  1. 大伴家持   662 バッハ
  2. 紀貫之      718 モーツアルト
  3. 源俊頼     1055 ハイドン
  4. 藤原俊成  1114 ベートーヴェン
  5. 西行        1118 シューベルト
  6. 藤原家隆   1158 ショパン
  7. 藤原定家  1162 ワーグナー
  8. 九条良経  1169 メンデルスゾーン
  9. 後鳥羽院  1180 シューマン
  10. 源実朝     1192 ブラームス
  11. 藤原為家  1198 チャイコフスキー
  12. 後嵯峨院  1220 ドヴォルザーク
  13. 京極為兼  1254 ドビュッシー
  14. 伏見院     1265 マーラー
  15. 足利義政  1436 シェーンベルク

「日本の有名歌人たちの位置づけを急ぎ飲み込むにはうってつけの資料だな」とブラームス先生。「ブラームス先生が遅れてきたロマン派である点やバッハ先生への傾倒、シューマン先生との関係、ワーグナー先生の位置づけ、もろもろ全て熟考の成果です」と私がどや顔気味にまくしたてる。「ブルックナー先生やリスト先生にあてていたら、その歌人の位置づけはすぐにばれますよね」と付けくわえた。

「シューマン夫人やマーラー夫人がいないのが残念だ」とブラームスさん。「いやいやそうは申しても」と鴎外先生が割って入る。「女流歌人の位置づけは女流作曲家の位置づけよりも格段に高いんじゃよ」と。「そういえばわしが曲をつけた詩人は男性ばかりだった」とブラームスさんが感心しきりだ。

私が次女に合図を送った。次女がいそいそと二人に包みを差し出す。「開けてください」と私。

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「令和百人一首書籍版をマスクのお礼に差し上げます」と次女が高らかに言い放つ。「表紙は源実朝なんですよ」と付け加えた。

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ぴったりサイズの特製ケース入りだ。パラパラとめくっていた鴎外先生が奥書きを見て驚いた。「10部印刷なのか?」と。「製版代もばかにならんじゃろ」と出版事情にも詳しいブラームスさんが割って入る。「まあオンディマンド印刷ですわ」と私。限定10部の1番を鴎外先生に用意しましたと。「わしのは7番になっとるわい」とブラームスさん。「一応お誕生日に合わせました」と控えめなどや顔の私。

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ブラームスの辞書写真集

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    はじめての自費出版作品「ブラームスの辞書」の姿を公開します。 カバーも表紙もブラウン基調にしました。 A5判、上製本、400ページの厚みをご覧ください。
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