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カテゴリー「084 お盆」の64件の記事

2024年8月15日 (木)

お盆のファンタジー59

さてとブラームスが向き直る。今日はこの人をお連れしたわ。「ベルタ・ファーバーさんだ」

お祝いに誰を連れて行くのがいいかと少し考えたよ。とまたまたトークが止まらんブラームス先生だ。この人の出産を祝ってお贈りした子守歌がやけに有名になってしまってな。

「このたびはまことにおめでとうございます」とファーバー先生が握手を求めてきた。

ブラームス先生がファーバー先生に目配せするともうピアノが鳴りだした。

  1. シューベルト 子守歌
  2. モーツアルト 子守歌
  3. バッハ 「眠れ疲れた眼よ」BWV82より
  4. バッハ アリア ゴールドベルク変奏曲より
  5. ブラームス 「砂の精」
  6. ブラームス 「子守歌」

あっという間にこれを2人で演奏してくれた。4曲目はブラームスさんの独奏でファーバーさんの休憩にもなっていた。「なあに最後の2つが余計じゃがの」と謙遜しきりのブラームス先生だ。「本当は自作はやらないとおっしゃっていたのですが、それはだめと私が説得しました。とファーバー先生が小声で打ち明ける。

「てへ」とブラームス先生。「自作をやるのを認める代わりに、なんとかアルトの曲も歌ってはくれぬかとソプラノのファーバー先生を説得したわ」と。「???」意味が飲み込めない私にブラームス先生が楽譜を差し出した。「聖なる子守歌」op91-2ではないか。アルト用の独唱歌曲だが、珍しいことにヴィオラとピアノが伴奏につく作品だ。

「ほらおじいちゃん、さっさとあんたのヴィオラを持ってきなさい」とブラームス先生が得意げに促す。「私がアルトのパートを歌いますから、三人で一緒にやりましょう」とファーバー先生もせきたてる。

古いスコットランドの子守歌の旋律をヴィオラが受け持つ。楽譜を見てるのは私だけ。ブラームス先生もファーバー先生も楽譜なんか見ずに私の顔をのぞき込みながら悠々と演奏している。

ありがとうございます。と絞り出すのがやっとの私の肩を抱きながら「今日の演奏すべて、貴殿の好きなUSBとやらに録音しておいたから、お嬢様に渡してくれ」とウインクをかますブラームス先生だ。ファーバー先生はただにこにこと笑っているだけだった。

2024年8月14日 (水)

お盆のファンタジー58

ところで貴殿のお嬢様は安産だったのですか?とブラームス先生が話題を切り替えてきた。「おかげさまで」と私。ブラームス先生が懐からごそごそと何か取り出す。

これ天国からメッセージを預かってきたと。

  • クララ・シューマン
  • ユーリエ・シューマン
  • マリア・バルバラ・バッハ
  • アンナ・マグダレーナ・バッハ
  • コジマ・ワーグナー
  • アンナ・ドヴォルザーク
  • アルマ・マーラー

出産の経験があるご婦人たちからメッセージを預かってきたんじゃ。だいたい作曲家奥様会の連中じゃよ。みんな心配していたわ。いくら説明されてもわしにはわからんが。とまくしたてるブラームス先生だ。特にシューマン先生のお嬢様のユーリエは、産後の肥立ちが悪くてご苦労があったと聞いているからと訳知り顔だ。

「ありがとうございます」と私。よく見るとワーグナー先生の奥様までおるではないか。とぼけているがブラームス先生はあちこち駆け回ってくれたに違いない。

娘にどう説明するかちょっと難しい。

2024年8月13日 (火)

お盆のファンタジー57

「貴国のお盆という風習には新旧の区別があるのかね」と息を切らしながらブラームスが入ってきた。つい1ヶ月前に来たばかりなのにと驚きながらも「はい。ご指摘の通りです」と私。「新旧があるとはバッハの楽譜みたいじゃの」と鋭く切り返してくるブラームス先生だ。「お言葉ですが、バッハの楽譜は旧が先で新が後なのですが、お盆は新が7月に来たあと、旧が8月に来るのです」と私がやりかえす。

「おお」と爆笑するブラームス先生。

汗も拭かずに「初孫誕生おめでとう」とハグしてきた。「これが言いたくて旧盆とやらを利用させてもらったわ」「来年の7月では間が抜けるからのう」と相変わらず目端の利くブラームス先生である。「元気のいい男の子じゃの」とどこで見たのかなコメント。

「どうだい。おじいちゃんになった気分は?」と真顔で切り出してきた。「かわいくてかわいくて」「噂には聞いていましたがそれ以上ですわ」と返す私。「ですがこまったことに、どうにも旗色が悪くて」ともじもじしているとブラームス先生は「はて?」といぶかしげだ。

「私の初孫にはちがいないのですが、母にとってはUrenkelなのです」「日本語でひ孫といいますが、初孫よりは明らかに稀少なので、話題がそちらに行きがちなのです」

「そりゃ気の毒に」「ひ孫が孫より格上なのはドイツでも同じじゃがの」とまた爆笑のブラームス先生だ。

2024年7月16日 (火)

お盆のファンタジー56

ところでと、話を切り替えてきたのはリヒター先生だった。「貴殿の職場にオーケストラができたのかね?」と。

「はい」と私。「まだまだメンバーが集まりませんが」と付け加えた。「ほほう」とブラームス先生も乗り出し気味だ。「木管楽器はほぼそろいましたが、金管楽器は各1名程度で打楽器はゼロですわ」「で肝心の弦楽器はヴァイオリンは第一第二各4名程度、ヴィオラは私を入れて3、チェロ4にコントラバス2です。

「昨今のピリオド様式のバッハさんなら十分の構成じゃの」とリヒター先生。「ですがバッハさんの作品を取り上げる予定はまだありません」と私。「もっというとブラームス先生の作品も無理なんです」「なんたってホルンが足りません」「それでも名簿上のメンバーが増えてきて弦楽器の一体感はうれしい限りですわ」

「で、メンバーにはご婦人もおられるのかね?」とはブラームス先生の真顔の質問だ。「はい。もちろん」「それどころか弦楽器はほぼご婦人です」「しかもしかも私の娘らの年頃のご婦人まで少なくありません」

「それに練習の後の飲み会が必ずセットになっているのが楽しみです」と申しあげるとリヒター先生とブラームス先生が「ブラボー」と声を上げた。9割のメンバーが練習後飲み会に流れます。「てことは、つまり、あんたは毎回ご婦人に囲まれて飲んでいるんじゃな」とは察しのいいブラームス先生だ。「ばれたか」と頭をかく私。「恥ずかしながら私が最年長なんですわ」と付け加えた。

いつか演奏会をと決めています。

身内にだけ公開かもしれません。仲間にこの一体感が伝えられればと考えています。とマシンガントークが止まらぬ私を制しながら、「ほほう、それでは一度練習にお邪魔してもいいかな。アマチュアの指導には興味があるもんで」とリヒター先生が割り込んできた。

「コンサートマスターに伝えておきます」とお茶を濁しておいた。

ユーロで早々にドイツがやられたのですっかり長居になったとさっき帰っていった。

 

 

2024年7月15日 (月)

お盆のファンタジー55

「その研究とやらの成果を盛り込む主旨で、バッハ先生存命時の演奏の再現を意図する演奏が多くてげんなりしているのですが」と私。「バッハの時代はこうだったはずだ」という演奏のことです。

「ほうほう」とはブラームス先生の相づち。

「ここ最近バッハ先生の作品はそういう演奏ばかりですわ」「きれいだと思えないのはリヒター先生の演奏になれすぎているからではないのかね」とは、珍しく取りなし調のブラームス先生。時代劇の校証ではあるまいしと私のふくれっ面を見てブラームス先生は「音楽だから聴いて美しくないとな」とまたまた仲裁系。

「隙間なく成熟した市場に割って入る後発マーケティングによくあるロジックじゃな」とブラームス。「当時はこうでした」は典型的なフレーズじゃよ。優れた演奏によって飽和した中に、必ずしも腕の立たぬ人が入るにはそこそこの理屈はこねんとな。とはまた手厳しい。

そんなにバッハ時代を再現したいならCDやDVDにしてはいかんじゃろ。バッハ回帰を歌いながら録音だけは例外ですとはいいとこどりにも見えますな。

「バッハは進取の気性に富んだ人で、よい楽器あるいは新しい機能があれば進んで取り入れていました」とやっと口を開くリヒター先生だ。「当時の楽器に限界も不満もあったはずですが、黙々とその制約の内側で使命を全うしていました」「昨今のピリオド全盛の風潮はそうしたバッハが感じていた限界や不満も再現していることになるのではありませんか。

晩年、ピリオド楽器の台頭を肌に感じたリヒター先生だというのにあくまで淡々と冷静だ。

ブラームス先生に言わせると「ご自分の仕事に自信があるんじゃと」とのことだった。

 

2024年7月13日 (土)

お盆のファンタジー54

「いきなり核心ですみません」と恐る恐る私。「やはり楽譜は旧バッハ全集ですか?」と。きょとんとするのはブラームス先生だ。無理もない。ブラームス先生は1950年刊行の新バッハ全集を知らないからだ。「バッハの楽譜に新旧があるのか」とは「もっともな質問」だ。

「はい。ブラームス先生」と元気よくリヒター先生が応じる。「ブラームス先生18歳の1851年からライプチヒバッハ協会より刊行が始まって1897年まで延々46年かかって完成したのですが、その第1巻をシューマン夫人から贈呈されていますね」とすらすらだ。「そうとも」とブラームス。「その後は刊行の都度予約購読で全巻そろえたわ」とこちらもすらすらだ。

1950年になってバッハ没後200年を記念して新版が計画され、そこまでの最新研究の成果を盛り込んだバージョンが刊行されたために、最初のものが「旧バッハ全集」と呼ばれることになった経緯は、またまたリヒター先生の独壇場だ。

「このときにBWV番号も考案されたという訳ですね」と申しあげると「BWV?」とブラームス先生がはてな顔だ。「おおそれは、バッハ先生の全作品を網羅する作品番号とでもお考えください」とまたまたリヒター先生。「バッハ先生の場合作曲年代がわからないものが多いので、作曲順にはならんのですわ」と私。いろいろ異論も聞きますが、個体識別の機能という意味では役に立ちますわとリヒター先生。

「で、それでもやはり旧全集ですか」と大真顔のブラームス先生が割って入る。

「はい。」と即答したリヒター先生がジョッキを空けた。

お代わりを注いで戻ってみるとブラームス先生とリヒター先生の議論が白熱している。

「旧版の方が音符の印刷がきれい」「銅版印刷の痕跡まで美しい」など音楽の本質とまでは言えないような論点をあげている。「楽譜のみてくれがきれいというのは、それはそれで重要だからの」とブラームスも同意らしい。「研究とやらはあくまでも実用の妨げになってはいかんがの」と付け加えた。

 

2024年7月12日 (金)

お盆のファンタジー53

「そりゃあんた、今年はこの人しかおらんやろ」とドヤ顔のブラームスさんだ。後ろにいる紳士を「マエストロ・リヒターだ」と言って紹介してくれた。おおおおお。昨年末から「カンタータでたどる教会暦」という企画が進行中で、リヒター盤をその主役に据えているのもすっかりお見通しという風情だ。

「よろしく」と手を差し出すリヒター先生。「実は」ともったいを付けながら「私の本名はカール・フェリクス・ヨハネス・リヒターなんです」と名乗りだした。おおおってなもんだ。「それはメンデルスゾーンとブラームス先生にあやかっているのですか?」と真顔の私に、「もちろんです」と即答のリヒター先生だが、「本当は偶然かも」と小声でしゃしゃり出るブラームスさんだ。

「バッハの伝道師とも賞賛されるリヒター先生のミドルネームにメンデルスゾーンとブラームスが関わっているのはド納得ですね」と私が切り出すと「わしならヨハネスをはずしてセバスチャンをからめるがな」とブラームス先生も譲らない。リヒター先生はこのやりとりをにこにこと聞いている。

「そりゃ私だって今年はリヒター先生がおいでになるかもと予想してましたわ」と私がドヤ顔の番。

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ミュンヘンのリヒター先生をもてなすならシュパーテンですわいと付け加えた。

ブラームス先生とリヒター先生が顔を見合わせていたが、不意にブラームス先生が「バッハに乾杯」と言ってジョッキを高々とさしあげた。

「ビールはミュンヘン、音楽はバッハですな」と上機嫌のブラームス先生だ。「僕の好みをよくご存じで」とはリヒター先生。ミュンヘンのビールの中でもシュパーテンがお気に入りらしく「アウクスティーナーかシュパーテンばかり飲んでました」と地元っぽく笑う。

何からお話しましょうかと学者っぽい仕草のリヒター先生だ。

2023年7月18日 (火)

招待の人選

7月14日にお盆のファンタジーが50本に達した。そこでお盆のファンタジー のこれまでの流れを誰が来てくれたかを中心に取りまとめた。

<2006年> ブラームス単独。当時はまだ「お盆のファンタジー」というタイトルを付していなかった。

<2007年> バッハ。最初の同行者がバッハさんとはお目が高い。→こちら

<2008年> シューマン夫妻。→こちら

<2009年> ヨアヒム。→こちら

<2010年> ドヴォルザーク。→こちら

<2011年> ジムロック。震災見舞い。→こちら

<2012年> ビューロー。次女ドイツ公演。→こちら

<2013年> ボロディン。次女引退公演。→こちら

<2014年> 2度目のドヴォルザーク。→こちら

<2015年> チャイコフスキー。→こちら

<2016年> マーラー。→こちら

<2017年> シベリウス。→こちら

<2018年> 何故か単独。→こちら

<2019年> ブクステフーデ、テレマン、パッヘルベル。2度目のバッハ。→こちら

<2020年> 森鴎外。→こちら

<2021年> シューベルト。→こちら

<2022年> ディートリヒ・フィッシャーディースカウ。→こちら

<2023年> 源実朝。→こちら

以下所感。

当初はこんなに続くとは思っていなかった。2010年までは1年に1記事だった。ブラームスがやってくるのは早くて11日。たいてい12日か13日だから今年の14日は平年より遅い方。牛車だからという設定だが、実際には7月13日が「記事6666本目」と重なったせいだ。

お帰りは15日か16日である。なんだか梅雨入りと梅雨明けみたいだ。最初2006年といえばブログ開設の翌年だ。そこからブラームス本人は18年連続で来てくれている。2度来てくれているのはドヴォルザークとバッハの2人だけだ。女子はクララだけ。

暑いのに難儀なことだが、もうやめられぬ。やめる方が大変だ。続ける方が楽。

 

 

2023年7月17日 (月)

歌物語テイスト

恒例の「お盆のファンタジー」は昨日までの3日で本年分を終えた、めでたく50本に達したこともあって、このほど新趣向に挑んだ。それが歌物語である。古典文学の1ジャンルで、代表作はと問われれたら「伊勢物語」と答えておけば大滑りはしないと思われるが、正確な定義となるとやや手に余る。源氏物語だって進行の要所に歌が配置されているし、日記文学にだって歌が出てくることもある。

この度源実朝を扱ったお盆のファンタジーには3日の間に歌を6首配置した。

  • 1 大麦の香りほどろに立つる泡盛りて弾けて揺れて飲むかも (実朝師匠)
  • 2 麦かもす黄金立ちたるギヤマンに揺り越すほどぞ泡もほどろに (私)
  • 3 毒消しの験と麦酒飲み干して心慰むこの夕べかも (ブラームス先生)
  • 4 南蛮の楽の匠と思ひきや和歌の浦にも立ち慣れにけり(実朝師匠)
  • 5 しろがねの槐と敢へて名付くるにためらはぬ我右府の愛弟子(私)
  • 6 やよ励め水と清きを競ひつつ山と高きを争へや君 (実朝師匠)

<1> ビールの泡を見た実朝師匠の驚きの反応。もちろん師匠の絶唱「大海の磯もとどろに寄する波割れて砕けて裂けて散るかも」を本歌取りしたものだ。実朝師匠自身の歌という設定のため、本歌取りの定義をはずれるが、「大海」を「大麦」に、「波」を「泡」にすり替えたという趣向だ。(えっへん)

<2>師匠の即詠を受けた弟子である私が慌てて唱和した感じ。古典和歌としては「ギヤマン」はいささか浮くけれど酒の席の即興とあればペナルティキックとまでは行くまい。結句「泡もほどろに」を指して師匠が「旅人風」と言ってくれたのはお咎めなしのサインだ。万葉集の大伴旅人作「淡雪のほどろほどろに降りしけば奈良の都し思ほゆるかも」を踏まえた軽い本歌取りであるとわかってくれる師匠という設定。もちろん「淡雪」の「淡」は、ビールの「泡」とかけられているのは、師匠も私も脳内共有を終えている。「淡は泡でしょ」(どやっ)

<3>あっとおどろくブラームス先生の詠作。こちらは直前のやりとりが大伴旅人風だったことを受けて、その息子大伴家持の「我が宿のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕べかも」を軽く念頭に置いている。当然それに気づく実朝師匠だ。(ぼーぜん)

<4>はブラームス先生の即興の作やお歌の知識に実朝師匠が心底驚いた様子。「南蛮」は「異国の」くらいのニュアンス。「楽の匠」と合わせてブラームスのことを指す。「異国の音楽の巨匠とばかり思いこんでいたけれど、どうしてどうして和歌にも精通されていますね」くらいのニュアンス。かつて慈円が父頼朝をほめた歌を記憶している実朝という含み。(きりっ)

<5>私が未来の自分の歌集に「銀槐和歌集」と名付けたいという申し出を快諾してくれた喜びを込めた感じ。「右府」は「右大臣」のことで鎌倉右大臣・源実朝を指す。(サクッ)

<6>帰りがけに私に気合を注入する師匠の歌。「精進しなさい」と言い置いて帰って行ったということだ。(ウルッ)

いやいや楽しい。本歌取りをメインに据えて推進力を借りた感じ。本歌取りは古典和歌の根幹をなす技法ながら、実際の歌集では、歌の前後の詞書きにそのことが記されることはない。「誰それのあの歌を本歌に取りしています」などとやらぬのがお約束。野暮というものだ。今回一連の種明かしは例外中の例外である。本来そんなことをするのは恥ずかしいことなのだ。当時は詠み手も受け手も先行する膨大な歌の知識が十分あったから、野暮は言わぬのがお約束だった。学習目的でのみなんとか許される感じ。

この6首すべて私の自作である。歌物語の作者は進行に合わせて登場人物が詠む歌を自作せねばならない。「お盆のファンタジー」に歌物語テイストを付与しようと思ったら、それは歌の自作を意味する。当然のことながら緊張した。

 

2023年7月16日 (日)

お盆のファンタジー52

すっかり意気投合した二人に私が割って入る。

「いつの日かお歌を作りためて私歌集を出したいのですが、その題名を銀槐和歌集にしてもいいですか」と。

実朝先生はビクンとこちらを向き直って私の目を見る。「いいですよ」と言ってほほ笑んでくれた。「その代わり、出版前に私が合点を付して差し上げますよ」と先生の口ぶりでおっしゃる。

嬉くて一首「しろがねの槐と敢えて名付くるにためらはぬ我右府の愛弟子」「槐」は「えんじゅ」と読む。いぶかるブラームスさんには「師匠の歌集が金槐和歌集なので、私は銀ですから」と説明したら、実朝先生が「銀は金より良いと書くけどな」としゃしゃり出るおかげで、ブラームスさんはますます混乱していている。漢字の成り立ちを説明するのはあきらめた。

ブラームス先生がふと私に向き直って、「昨年だったか貴国の公共放送で話題になった鎌倉殿の13人とやらに実朝先生は出ていたのか」と聞いてきた。「おおっ」てなもんだ。「いやいや主役級でしたわ」と実朝先生が割って入る。「言いたいことは山ほどあるがの」とため息も混じる。「ですよね」と私「ありゃあ北条目線ですわ」とついムキになる。「まあでもフィクションと割り切ればな」と実朝先生。まさか実朝先生がなだめ役に回るとは思わなかった。

やりとりを聞いていたブラームスさんは、「その13人は最後の晩餐に関係がおありか」と真顔の質問。「いやいや私らの国で13人といえば半ば自動的に最後の晩餐を連想するんでな」と。「お説興味深くはありますが、偶然です」と私が説明すると、実朝先生は「いやどちらも裏切りがテーマですから」としたり顔で切れ込んできた。

するどい。大喜利なら座布団がもらえる。

さっき牛車で帰っていった。出がけに歌をさらさらと書きつけて渡してくれた。

やよ励め水と清きを競ひつつ山と高きを争へや君

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ブラームスの辞書写真集

  • Img_0012
    はじめての自費出版作品「ブラームスの辞書」の姿を公開します。 カバーも表紙もブラウン基調にしました。 A5判、上製本、400ページの厚みをご覧ください。
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