お盆のファンタジー63
無伴奏チェロ組曲を弾ききったブラームスが「おっと、失礼。貴殿も何か弾いてくれ」とこちらに向き直った。
3月からヴィオラの先生についてレッスンをしてもらっている。仕事をやめて一生ヴィオラを弾いてすごそうと決めたところだが、自己流は良くないと思い詰めた話をした。うんうんとうなずいてくれている。一生バッハだけ弾いていたいとも付け加えた。ブラームス先生は「それはいい」「本当におすすめだ」と予想以上のノリ。「わしの曲よりずっといいわい」と毎度毎度の謙遜。「で、今レッスンで何をやっているの?」と身を乗り出す。
ほれとばかりに私がガンバソナタの楽譜を差し出すと、やってみようとなった。へ?とたじろぐ私。
「何番をご所望で?」と聞いてくるブラームス。おずおずと「1番ト長調ですが」と答えるとOKという合図。
さっそく第一楽章に取りかかる。またまた暗譜だ。
通る。そりゃあドアマチュアに合わせて手加減もしてくれてはいるのだろうが、何より楽しく通る。音外すとこちらをゆるくガン見してくる。響きがはまると「ひゅー」と口笛も聞こえる。ガンバソナタ3曲ぜーんぶ。やった。特に特にだ。3番の第二楽章をブラームスの所望で2度やった。「わしゃあこれが大好きでのう」とお茶目な言い訳を聞いた。「最高のBdur」と手放しだ。「あんたがピアノ弾けるなら、わしがヴィオラを弾きたいくらいだわい」と。
長男がビールをもって「反省会反省会」と言いながら割り込んでこなければ3度目が始まったはずだ。
反省会は案の定盛り上がった。
「譜読みだけは、進んでいるようですね」がブラームス先生の第一声だった。「ですが楽器の能力を引っ張り出す途上のようです」「巨大な楽器ですがあなたに合っているので、もっとテンポを落としてきれいな音を出すことを心がけましょう」「よい弓に変えたのだから少し張り気味にして、しっかり音を出しましょう」「楽器鳴らすのは必ずしもフォルテを意味しませんよ」「基礎ちゃんとしておくと、いつかはカラリと弾けますよ」
耳は痛いが返す言葉はない。
「楽しい」「バッハすごい」「ヴィオラ万歳」の3点についてはブラームス先生と完全に意見が一致した。
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