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カテゴリー「084 お盆」の57件の記事

2023年7月18日 (火)

招待の人選

7月14日にお盆のファンタジーが50本に達した。そこでお盆のファンタジー のこれまでの流れを誰が来てくれたかを中心に取りまとめた。

<2006年> ブラームス単独。当時はまだ「お盆のファンタジー」というタイトルを付していなかった。

<2007年> バッハ。最初の同行者がバッハさんとはお目が高い。→こちら

<2008年> シューマン夫妻。→こちら

<2009年> ヨアヒム。→こちら

<2010年> ドヴォルザーク。→こちら

<2011年> ジムロック。震災見舞い。→こちら

<2012年> ビューロー。次女ドイツ公演。→こちら

<2013年> ボロディン。次女引退公演。→こちら

<2014年> 2度目のドヴォルザーク。→こちら

<2015年> チャイコフスキー。→こちら

<2016年> マーラー。→こちら

<2017年> シベリウス。→こちら

<2018年> 何故か単独。→こちら

<2019年> ブクステフーデ、テレマン、パッヘルベル。2度目のバッハ。→こちら

<2020年> 森鴎外。→こちら

<2021年> シューベルト。→こちら

<2022年> ディートリヒ・フィッシャーディースカウ。→こちら

<2023年> 源実朝。→こちら

以下所感。

当初はこんなに続くとは思っていなかった。2010年までは1年に1記事だった。ブラームスがやってくるのは早くて11日。たいてい12日か13日だから今年の14日は平年より遅い方。牛車だからという設定だが、実際には7月13日が「記事6666本目」と重なったせいだ。

お帰りは15日か16日である。なんだか梅雨入りと梅雨明けみたいだ。最初2006年といえばブログ開設の翌年だ。そこからブラームス本人は18年連続で来てくれている。2度来てくれているのはドヴォルザークとバッハの2人だけだ。女子はクララだけ。

暑いのに難儀なことだが、もうやめられぬ。やめる方が大変だ。続ける方が楽。

 

 

2023年7月17日 (月)

歌物語テイスト

恒例の「お盆のファンタジー」は昨日までの3日で本年分を終えた、めでたく50本に達したこともあって、このほど新趣向に挑んだ。それが歌物語である。古典文学の1ジャンルで、代表作はと問われれたら「伊勢物語」と答えておけば大滑りはしないと思われるが、正確な定義となるとやや手に余る。源氏物語だって進行の要所に歌が配置されているし、日記文学にだって歌が出てくることもある。

この度源実朝を扱ったお盆のファンタジーには3日の間に歌を6首配置した。

  • 1 大麦の香りほどろに立つる泡盛りて弾けて揺れて飲むかも (実朝師匠)
  • 2 麦かもす黄金立ちたるギヤマンに揺り越すほどぞ泡もほどろに (私)
  • 3 毒消しの験と麦酒飲み干して心慰むこの夕べかも (ブラームス先生)
  • 4 南蛮の楽の匠と思ひきや和歌の浦にも立ち慣れにけり(実朝師匠)
  • 5 しろがねの槐と敢へて名付くるにためらはぬ我右府の愛弟子(私)
  • 6 やよ励め水と清きを競ひつつ山と高きを争へや君 (実朝師匠)

<1> ビールの泡を見た実朝師匠の驚きの反応。もちろん師匠の絶唱「大海の磯もとどろに寄する波割れて砕けて裂けて散るかも」を本歌取りしたものだ。実朝師匠自身の歌という設定のため、本歌取りの定義をはずれるが、「大海」を「大麦」に、「波」を「泡」にすり替えたという趣向だ。(えっへん)

<2>師匠の即詠を受けた弟子である私が慌てて唱和した感じ。古典和歌としては「ギヤマン」はいささか浮くけれど酒の席の即興とあればペナルティキックとまでは行くまい。結句「泡もほどろに」を指して師匠が「旅人風」と言ってくれたのはお咎めなしのサインだ。万葉集の大伴旅人作「淡雪のほどろほどろに降りしけば奈良の都し思ほゆるかも」を踏まえた軽い本歌取りであるとわかってくれる師匠という設定。もちろん「淡雪」の「淡」は、ビールの「泡」とかけられているのは、師匠も私も脳内共有を終えている。「淡は泡でしょ」(どやっ)

<3>あっとおどろくブラームス先生の詠作。こちらは直前のやりとりが大伴旅人風だったことを受けて、その息子大伴家持の「我が宿のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕べかも」を軽く念頭に置いている。当然それに気づく実朝師匠だ。(ぼーぜん)

<4>はブラームス先生の即興の作やお歌の知識に実朝師匠が心底驚いた様子。「南蛮」は「異国の」くらいのニュアンス。「楽の匠」と合わせてブラームスのことを指す。「異国の音楽の巨匠とばかり思いこんでいたけれど、どうしてどうして和歌にも精通されていますね」くらいのニュアンス。かつて慈円が父頼朝をほめた歌を記憶している実朝という含み。(きりっ)

<5>私が未来の自分の歌集に「銀槐和歌集」と名付けたいという申し出を快諾してくれた喜びを込めた感じ。「右府」は「右大臣」のことで鎌倉右大臣・源実朝を指す。(サクッ)

<6>帰りがけに私に気合を注入する師匠の歌。「精進しなさい」と言い置いて帰って行ったということだ。(ウルッ)

いやいや楽しい。本歌取りをメインに据えて推進力を借りた感じ。本歌取りは古典和歌の根幹をなす技法ながら、実際の歌集では、歌の前後の詞書きにそのことが記されることはない。「誰それのあの歌を本歌に取りしています」などとやらぬのがお約束。野暮というものだ。今回一連の種明かしは例外中の例外である。本来そんなことをするのは恥ずかしいことなのだ。当時は詠み手も受け手も先行する膨大な歌の知識が十分あったから、野暮は言わぬのがお約束だった。学習目的でのみなんとか許される感じ。

この6首すべて私の自作である。歌物語の作者は進行に合わせて登場人物が詠む歌を自作せねばならない。「お盆のファンタジー」に歌物語テイストを付与しようと思ったら、それは歌の自作を意味する。当然のことながら緊張した。

 

2023年7月16日 (日)

お盆のファンタジー52

すっかり意気投合した二人に私が割って入る。

「いつの日かお歌を作りためて私歌集を出したいのですが、その題名を銀槐和歌集にしてもいいですか」と。

実朝先生はビクンとこちらを向き直って私の目を見る。「いいですよ」と言ってほほ笑んでくれた。「その代わり、出版前に私が合点を付して差し上げますよ」と先生の口ぶりでおっしゃる。

嬉くて一首「しろがねの槐と敢えて名付くるにためらはぬ我右府の愛弟子」「槐」は「えんじゅ」と読む。いぶかるブラームスさんには「師匠の歌集が金槐和歌集なので、私は銀ですから」と説明したら、実朝先生が「銀は金より良いと書くけどな」としゃしゃり出るおかげで、ブラームスさんはますます混乱していている。漢字の成り立ちを説明するのはあきらめた。

ブラームス先生がふと私に向き直って、「昨年だったか貴国の公共放送で話題になった鎌倉殿の13人とやらに実朝先生は出ていたのか」と聞いてきた。「おおっ」てなもんだ。「いやいや主役級でしたわ」と実朝先生が割って入る。「言いたいことは山ほどあるがの」とため息も混じる。「ですよね」と私「ありゃあ北条目線ですわ」とついムキになる。「まあでもフィクションと割り切ればな」と実朝先生。まさか実朝先生がなだめ役に回るとは思わなかった。

やりとりを聞いていたブラームスさんは、「その13人は最後の晩餐に関係がおありか」と真顔の質問。「いやいや私らの国で13人といえば半ば自動的に最後の晩餐を連想するんでな」と。「お説興味深くはありますが、偶然です」と私が説明すると、実朝先生は「いやどちらも裏切りがテーマですから」としたり顔で切れ込んできた。

するどい。大喜利なら座布団がもらえる。

さっき牛車で帰っていった。出がけに歌をさらさらと書きつけて渡してくれた。

やよ励め水と清きを競ひつつ山と高きを争へや君

2023年7月15日 (土)

お盆のファンタジー51

実朝先生とブラームス先生はいつしか本歌取りを話題にしていた。先人の作を踏まえて自作に織り込む技法のことだという実朝先生の説明を聞いたブラームスさんの目がきらりと輝いた。ビールを飲みほしてほっと息をついたあと「変奏じゃな」とつぶやく。

本歌取りは盗作とは完全に一線を画する。盗作は引用元がばれると困るが、本歌取りは「知っているかなあ」とばかりに読み手に投げる。歌い手と読み手どちらの側にも膨大な数の過去の作品をそらんじているという状況が根底にある。読み手はそりゃ誰それのお歌の本歌取りだと見破ったうえで、ならではの歌を返す。返す側も返された側もそれで満足する。

「根底にあるのは先達への敬意さ」という実朝先生の説明で我が意を得たりとブラームス先生が立ち上がった。本歌を構成する様々な要素のうち、どことどこを残すか、あるいはどことどこを変えるかの着眼こそが肝じゃなとしたり顔のブラームス。

南蛮の楽の匠と思ひきや和歌の浦にも立ち慣れにけり」とは実朝先生の詠。

「残念ながら」とブラームスが切り出す。「ドイツ語という言語の枠組みではどうにもならぬ」

一つは漢字と仮名。一文字にひとつひとつ意味のある漢字がどうにもすごい。そこに一文字一音の仮名が加わって表現が格段に深まるようじゃの。と続ける。「してその心は」と実朝先生。「それはじゃ」「膨大な数の同音異義語の存在だ」とブラームス。

たとえば昨日話題になった「泡」と「淡い」じゃ。見ての通りそれは名詞と名詞にとどまらぬから、「秋と飽き」「松と待つ」もかとブラームス。こうした組み合わせの数だけ「掛詞」が成立するじゃろ。ドイツ語ではそうはいかん。表向きの意味とは別の意味合いを裏で走らせることが出来る。序詞、掛詞、歌枕、縁語など総動員すれば二重三重に含みを持たせることも可能じゃ。まさに対位法じゃなと。

あとは文末決定性。日本語では最終的な意味の決定が文末になる。だから意図的に文末まで言わない体言止めが技法として成立するんじゃな。雄弁一方かと思うと言わぬが華の文末省略で、結論を受け手の感性に委ねるとでもいうかの。

あれよあれよという間に二人は意気投合している。「わしも作曲を習わねば」と真顔の実朝先生だった。

「まずは変奏曲になさいますかな」とブラームスがお茶目なウインクをかました。

2023年7月14日 (金)

お盆のファンタジー50

いつもの夏に比べて遅い到着だった。「牛に引かせる車は遅くてな」と汗を拭き拭きあがってきた。「鎌倉の右大臣・源実朝殿じゃ」とブラームス先生が振り向く。「おおっ」てなもんだ。ラフな狩衣姿の精悍な紳士だ。「昨年は私の生誕830年を話題にしてくれてありがとう」と手を差し伸べてきた。昨年ブログで展開した源実朝特集のことだ。今年はこの方をお連れするかベートーヴェン先生をお連れするか迷った。乗り物は牛車をとおっしゃるので従ったが、やけに時間がかかったとあきれ顔のブラームスさんだ。「おかげで和歌とやらのレクチャが受けられたわ」と付け加える。

音楽のブラームス、歌の実朝の訪問を受け、茫然とするばかりの私に気付いてブラームス先生が「ビール、ビール」と切り出す。

揺り超すばかりの泡を見て実朝先生が目を丸くしている。

大麦の香りほどろに立つる泡盛りて弾けて揺れて飲むかも」とさっそく即興の一首。キャーってなもんだ。

そこで私も

麦醸し黄金たちたるギヤマンに揺り超す程ぞ泡もほどろに」と即詠で師匠に切り返す。

「ほどろには万葉っぽいな」と真顔の実朝先生だ。「はい先生。旅人テイストです」と私。「酒の場での座興に、即詠のやりとりとは嬉しい限りだ。」と実朝先生に褒められた。

さっきからブラームス先生は何やら指を折っている。「五七五七七」を数えているのだろう。相変わらず律儀だ。「ネイティブの日本語スピーカーなら、数えんでも大体五七調になるんですわ」と私が説明すると「ほんとだ」と感心している。

こんなんでどうじゃろとブラームス先生がおずおずと切り出す。

毒消しの験と麦酒飲みほして心慰むこの夕べかも」

実朝先生も私も凍り付いた。ブラームス先生が即詠とは。しかも結句に「この夕べかも」を配してさっき話題になった旅人の息子大伴家持テイストになっているではないか。「なあにあんたのブログを読んでいて勉強させてもらったからな」と涼しい顔で言い放つ。我々の驚きをよそに、ブラームス先生は「そんなことより、これにどういう旋律をあてるかだな」と思案顔だ。

2022年7月15日 (金)

お盆のファンタジー49

ディースカウ先生は起きてくるなり「大体読み終えた」と切り出す。昨日さしあげた「ブラームスの辞書」のことだ。

「興味深く読めました」と言ってくれた。「作曲家別音楽用語辞典という着想が斬新です」「全ての作曲家でやりたくなりますね」特にここにご本人がいるけれど、ブラームスさん自身が気づいていないことも多くて驚いたとも。無意識でありながらこれだけの傾向が統計的に表れてしまうのが凄いというか、意外というか。

「ディースカウ先生のようなネイティブのドイツ語話者でも楽譜上ではイタリア語よりドイツ語の方が解釈が難しくなるとご著書にありましたが」と水を向けると、うなずきながら「そうだ」と。「あなたがブラームスの辞書で書いている微調整語がからむと特にな」。「ziemlich」「nicht zu」「etwas」のことだろう。イタリア語で「poco」「piu」「non troppo」とされればたちまち理解できるのにと嘆いておられた話だ。

「ブラームス先生が楽譜上でのドイツ語の使用について自主規制をかけていたというお説には賛成じゃ」「ドイツ語は声楽パートに限ると統計的に証明されてみると思い当たる節も多くてな」と。

感心したのはコンチェルトの独奏楽器が総奏に埋もれないようにダイナミクス表示が工夫されているのに比べて、声楽パートは大管弦楽が伴奏の時でさえ配慮されないという指摘じゃな。「人の声は埋もれない」というブラームス先生のお考えの反映かという提示は印象的だ。ご本人はとぼけて答えてくれない。」 そういえばブラームス先生はさっきから聞こえないふりをしている。

「ディースカウ先生のドイツレクイエムでは特にです」と。生まれて初めて買ったドイツレクイエムのレコードがディースカウ先生の独唱だった話に移った。「私のキャリアを始めた曲だからね」と遠くを見る目つきだ。とくに「4つの厳粛な歌」と「ドイツレクイエム」はドイツの宝。シューベルトさんが残した余白をブラームスさんがきっちり埋めてくれているという感覚だと、ディースカウ先生は淀みがない。ブラームス先生は耳まで真っ赤にしている。

「ブラームス先生に対して欲をいえば」とディースカウ先生が切り出した。私はもちろんブラームス先生もドキッとした。

「欲をいえば、オペラが歌いたかった」

ディースカウ先生ならではオチで、さっきゆうゆうと帰っていった。

 

 

 

 

2022年7月14日 (木)

お盆のファンタジー48

シューベルトネタが全然途切れない2人の間に割って入りながら「ディースカウ先生にプレゼントがあります」と私が「ブラームスの辞書」を差し出す。

ディースカウ先生は「ほえ」と首を傾げたままフリーズ。ブラームス先生が補足説明に入る。「わしの全作品に現れる音楽用語を全部抜き出してアルファベット順に羅列して、使用箇所を添えた代物じゃ」「用例に加えてコメントもある」とどこで聞いたのかやけに詳しい。

今度は私がたたみかける。「先生のご著書シューベルトの歌曲をたどっての中に興味深い個所をみかけました」「ディースカウ先生はMassig
をmoderatoと断言してらっしゃいます」「Etwas~、ziemlich~、nicht zu ~をさして正解テンポにたどり着くのが難しいともおっしゃっています 」「私もその本の中でそういう解釈をしています」「先生はシューベルトから、私はブラームス先生の作品を分析する中から同じ結論に達しているのがうれしくて」と。「もしかして気が合うのではないかと思ったもので」と悪乗り。

あきれ顔のまま我に返ってパラパラとめくっている。「うーん」「ふー」「ほー」「えっと」としか言わない。

「これをくれるのか」とやっと絞り出す。

「もちろん」です。「その代わり先生がシューベルトの辞書を書いたら1冊ください」

一同爆笑となったが、ディースカウ先生の目は笑っていなかった。

2022年7月13日 (水)

お盆のファンタジー47

昨夜遅くまで盛り上がっていたというのにフィッシャーディースカウ先生もブラームスさんも早起きだ。ずっと話し込んでいる。耳を澄ますとどうやら話題はずっとシューベルトだ。ブラームス先生にそう水を向けると、「そらそうじゃろ。こんな機会は滅多にない」「シューベルトでならずっと語っていられる」と目を細める。時折ピアノも歌も織り交ぜながら議論が尽きない感じ。申すまでもなく話題の中心には歌曲がある。次から次へと話題を変えて違う作品の話になるが、ブラームス先生はほぼ楽譜なんかなしで伴奏を付ける。どこで打ち合わせてきたのか、アーティキュレーションの細かなニュアンスまでピタリと寄り添っている。

ほれっと言いながら始まったのは「夜と夢」だ。「あんたの好きな曲だろ」とブラームスさんが弾きながらウインクを寄越すと、もうディースカウ先生はレガートをかぶせる。

調子に乗った私が、「王と王子の12番歌合せ 」の話をした。

  1. 糸を紡ぐグレートヒェン D118 ゲーテ
  2. 永遠の愛について op43-1 ヴェンツィヒ
  3. 月に寄す D193 ヘルティ
  4. 五月の夜 op43-2 ヘルティ
  5. 連祷 D343 ヤコビ
  6. サッフォーの頌歌 op94-1
  7. 幸福 D433 ヘルティ
  8. セレナーデ op106-1 クグラー
  9. 子守歌 D498 ?
  10. 子守歌 op49-4 子供の不思議な角笛
  11. ます D550 シューバルト
  12. 雨の歌 op59-4 グロート
  13. 水の上で歌う D774 シュトルベルク
  14. あの娘のもとへ op48-1 ボヘミア民謡
  15. 夕映えの中で D799 ラッペ
  16. エーオルスのハープに寄せて op19-5 メーリケ
  17. 夜と夢 D827 コリン
  18. 野に一人いて op86-2 アルメルス
  19. ノルマンの歌 D846 シュトルク
  20. 領主フォンファルケンシュタイン op43-4 ウーラント
  21. シルヴィアに D891 シェークスピア
  22. 調べのように op105-1 グロート
  23. 提菩樹 D911-5 ミューラー
  24. 日曜日 op47-3 ウーラント

「隣り合う2曲一組の歌合せですわ」と説明するとディースカウ先生の顔色が変わった。奇数がシューベルト先生、偶数がブラームス先生になっていますと付け加えた。「私個人としては5勝4敗3引き分けでシューベルト先生の勝ち 」でしたと水を向けるとブラームス先生は「わしならシューベルト先生の全勝じゃわ」と口をとがらせる。

ディースカウ先生は「4つの厳粛な歌が入っていないのは不公平ではないかね」といきなりの鋭い質問。「いやいやシューベルト先生側に4つの厳粛な歌に見合う作品がないので」と私が即答。歌合せのペアリングとはそういうものですと。ディースカウ先生は深々とうなずきながら「良い見識です」と同意してくれた。「全体によい趣味です」とほめてくれたばかりか、ブラームスさんに目配せをかますと「糸を紡ぐグレートヒェン」を歌い始めるではないか。ディースカウ先生てのグラムフォンの全集には入っいないのに、聞かせてくれた。「これは本来女性が歌わねばならんのじゃが」と言い訳も忘れないディースカウ先生だ。

あれよあれよという間に全部聞かせてくれた。ディースカウ先生も「おおむねそんなもんだ」と5勝4敗3分に同意してくれながらも4つの厳粛な歌がないことにはアスタリスクを頼むと念を押された。

2022年7月12日 (火)

お盆のファンタジー46

いやはや「日本がこんなに暑いとは」と言いながら2人がそそくさと上がり込んできた。今年ばかりはブラームスさんが誰を連れてくるか見当がついていた。フィッシャーディースカウ先生を得意顔で紹介してくれた。

「ディートリヒ・フィッシャーディースカウです」と右手を差し出す。「ディダと呼んでくれ」とすぐに付け加えてくれた。普通の会話なのにやっぱりちゃんとしたバリトンなので驚いた。「そんなことよりご令嬢の結婚おめでとう」とブラームスさん。長女の巣立ちのことをさっそく切り出すとは、相変わらず目端が利く。「大模様替えで電子ピアノを処分したと聞いて、今日は持ってきたぞ」と意味あり気に切り出す。「今日ばかりはピアノがないと話にならん」といってディースカウ先生の方をみてウインクをかますや否や、ブラームス先生がピアノに向かい何やら弾き出す。「それではお嬢様の結婚を祝して」と前置きしてディースカウ先生が歌いだす。「Se voul ballare signor Contino…」

!!!

「フィガロの結婚」第一幕からフィガロのカヴァティーナだ。先生はもとより伴奏のブラームスも暗譜。我が家のCDではディースカウ先生は伯爵ばかり歌っているのでフィガロが聴けてうれしい。いやもう極楽。

その後、延々と1幕を全曲歌っちまった感じ。ブラームスは「いや適当じゃよ」と言いながらなんとか通す。でディースカウ先生は男役は全部歌えるんだそうだ。先生はバルトロを歌ってもバジーリオを歌っても様になるばかりか、裏声で伯爵夫人やスザンナも悠々とこなす。

私もつられて「もう飛ぶまいぞ」を歌わせてもらった。終わりの方は3人で合唱になった。

フィガロが一段落したところで、今度はディースカウ先生がピアノの前に座る。ブラームスさんは打って代わって神妙な顔をして「身内にご不幸が重なったようですね」と私の顔を覗き込んだ。急な展開に戸惑うばかりだが「はい。1月と5月に伯母と叔父を相次いで亡くしました」と私。ブラームスは意を決したようにディースカウ先生に合図を送る。

ディースカウ先生が音取りの1音を出すや否やブラームスさんが歌いだした。

「4つの厳粛な歌」の第3曲「おお死よ、そなたはなんと苦しいことか」だ。心に響くとはこのことだ。「ありがとう」と絞り出すのがやっとの私。「ここまでの道中サプライズを考えてきたんですよ」とディースカウ先生。そりゃ「私の伴奏でディースカウ先生が歌ってはサプライズにならんじゃろ」としゃしゃり出るブラームスさんだった。たしかに。でもディースカウ先生のピアノすごい。ピアノと声が2拍差でカノンになるところ、ご自身で歌っているかのよう。

「ブラームス先生、僕よりうまい」とうなずくディースカウ先生だった。

 

 

 

 

 

2021年7月15日 (木)

お盆のファンタジー45

座はやがて即席演奏会になっていた

みなでシューベルト先生の作品を次々と歌う。「ます」「魔王」「菩提樹」「死と乙女」「子守歌」「アベマリア」「セレナーデ」など続く。ブラームス先生はどの曲もとっさに伴奏をつける。これにはシューベルト先生も驚いた。「まじ暗譜しとるんか」と。それには答えずに「次は?」と聞いてくるブラームスだ。

それではと私がブラームス先生の「五月の夜」を歌い始めたが、「その手のつまらん作品は暗譜していない」とブラームス先生。ブラームス先生が伴奏をしようとしないのにシューベルト先生は「あれ?」という表情だ。「そのテキスト、ヘルティ?」と真顔で質問する。「ばれたか」とブラームス先生。「さっきのドイチュ番号表の194番にあるじゃろ」と言う。シューベルト先生と同じテキストに作曲しちまったんだ。「ヘルティ先生のテキストはいいよね」と言うとシューベルト先生は「言える言える」と嬉しそうだ。「有節歌曲としての収まりっぷりだけなら最高だ」とはしゃぐ。

五月ならぬ七月の夜が深々と更けていった。

「さてお二人におみやげがあります」と私。出来立ての「ブラームス歌曲私的ベスト24 」のCDを渡した。これに喜んだのはシューベルト先生だ。「私がいくら貴殿の作品の話をしようと言っても全く取り合ってくれないんで」とブラームスを横目で見ながらチクリだ。「道中ずっと私の作品の話ばかりで王子の作品の話が出来なかったよ」どうやらシューベルト先生はブラームスの歌曲を聴きたいのだ。

「帰りの道中は是非お楽しみください」と私が言うと、ブラームス先生は「しょーがねーなー」という表情だ。

さっきかえって行った。

 

 

 

 

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ブラームスの辞書写真集

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    はじめての自費出版作品「ブラームスの辞書」の姿を公開します。 カバーも表紙もブラウン基調にしました。 A5判、上製本、400ページの厚みをご覧ください。
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