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カテゴリー「074 地名語尾」の133件の記事

2022年2月14日 (月)

女帝

日本なら「女性の天皇」の意味。欧州なら「女性の皇帝」だろう。

オーストリア・ハプスブルク家で申せばほぼ「マリア・テレジア」の代名詞だ。ドイツ語では「Kaiserin」という。「Kaiser」の女性形だ。しかししかし、カイザーというのは王の中の王だ。神聖ローマ帝国は「女帝」を認めていないから、彼女は厳密に言うと皇帝ではなく、女帝とは言えない。

「事実上の女帝」である。皇帝はあくまでも婿のフランツ1世である。プロイセンにいちゃもんを付けられたが、実質的には家事から国事まで全てを掌握してた国の母であった。

オーストリアの地図を開く。首都ウィーンの南およそ40kmの場所に「Theresiendorf」という地名があるほか、「Maria」または「Marien」で始まる地名がオーストリアには大変多い。

 

 

2021年11月25日 (木)

Die Ruh

思うに恋歌最高峰。「Du bist die Ruh」D774のことだ。テキストはリュッケルト。8分の3拍子なので例の「惚れ込み4原則 」の定義からは外れるけれど、雰囲気だけはピタリとはまる。男性の立場から愛する女性のことを描写しているにはしているのだが、なんだか超越している。愛の情熱を題材にしながら、その表現はひたすら内面的。おそらくその原因は「Ruh」というドイツ語だ。もっぱら「やすらぎ」と訳されるが、ニュアンスには相当注意が要る。静溢なアルペジオのイントロだけで、あっという間にシューベルトワールドに引き込まれる。3拍子のうちの2拍目にうっすらとアクセントが来るのでほんのりサラバンド風味。なだらかなメロディラインに終始するが間奏部になると少々の起伏が暗示される。

5節からなるテキストのうち5節目においてのみ、多分Cesdurに触れることで全体がキュッと引き締まる感じ。

2019年11月 1日 (金)

地図ウォッチャー

ロベルト・シューマンはライン川に投身した後、エンデニヒの病院に入院したが、妻のクララは面会を許されなかった。ブラームスはクララに代わってロベルトを見舞い、様子をクララに報告した。

あるときロベルトの求めに応じて地図を差し入れた。後日訪問するとロベルトは地図を眺めて地名をアルファベット順に抜き出すことに熱中していたと伝えられている。大抵の伝記では病の進行ぶりを匂わせるニュアンスで描かれている。

困った。地図を眺めて地名を丹念に拾うことが異常だとするなら、私もとっくに異常の仲間入りである。地名語尾や方言への興味は地図への没頭なくしてはあり得ない。

2017年7月 1日 (土)

ドイツ系アメリカ人

昨日、キッシンジャー元国務長官がドイツの出身だと書いたばかりだが、ドイツからの移民を先祖に持つアメリカ人のこと。これがちっとも舐めたモンではなくて、場合によっては米国民の20%と見積もる人もいる。ペンシルバニア州や五大湖沿岸を中心に北東部に多く住んでいる。

独立戦争の際、英国軍にはヘッセンの出身者が多かった話を思い出した。19世紀までに10万人がアメリカに渡ったとされている。アイゼンハワー大統領の名前も何やらドイツっぽい。

メジャーリーグやフットボールの中継を観ていてもドイツっぽいと感じる名前が出てくる。たとえばニューヨークヤンキースの永久欠番3番と4番だ。3番ベーブルースの本名はGeorge Herman Ruth だ。ドイツ風に読むと「ゲオルグ・ヘルマン・ルート」で、最後の「Ruth」は、開墾地を表す「Reuth」や「Roth」との関係を伺わせる。4番はルーゲーリッグだ。Gehrigという綴りがいかにもな感じである。

かの地では「ドイツ訛りの英語」あるいは「英語訛りのドイツ語」が話されている。ドイツ語の一方言として捉える研究者もいるらしい。

2017年6月30日 (金)

キッシンジャー

ヘンリー・キッシンジャーはアメリカの政治家で、ニクソン、フォードの両大統領の時代に国務長官を務めた。1923年5月27日ドイツ・バイエルン州フュルトの生まれだ。

そのバイエルン州の北部にバートキッシンゲンという、古くからの温泉保養地がある。原文では「Bad Kissingen」とつづる。地名語尾「ingen」だ。これに産地語尾「er」をつける場合、お約束で末尾の「en」を取り除いてから「er」をつける。つまり「Kissinger」だ。

まさにキッシンジャー元国務長官と同じつづりになる。彼が生まれたフュルトは、地名語尾「ingen」と「ing」のすみわけで申せば、「ing」地区になる。おそらく祖先の誰かが「キッシンゲン」に関係があるかもしれない。

2017年6月29日 (木)

産地語尾

ニュルンベルク特産のこぶりのソーセージは「ニュルンベルガー」と呼ばれている。ウィーン名物のホイップを浮かせたコーヒーは「ウインナコーヒー」だ。ファストフードの王者はハンバーガーで、元々は「ハンブルガー」だ。

つまりこうだ。

地名の後ろに「er」を添えることで、地名が形容詞化するのだ。だから「er」を産地語尾と呼ぶことにしている。

名高いオケ、ベルリンフィルは本来「ベルリナーフィルハーモニカー」だし、ウィーン名物のワルツは「ウインナワルツ」である。意外と頻繁に使われているものだ。ミュンヘン北郊の名高い小麦ビール産地はエルディングだから、そのビールは「エルディンガー」となるなどビールのブランド名はほぼこのパターンである。

ところが、大きな例外がある。

ゲッティンゲンに産地語尾「er」をつける場合には語尾の「ingen」の末尾「en」を取り除いてから「er」をつける。「ゲッティンゲナー」とならずに「ゲッティンガー」となる。これは地名語尾「インゲン」をともなう地名に共通する特徴だ。不思議なことに語尾に「en」を伴う「ドレスデン」は、「ドレスデナー」だ。語尾の「en」が必ず脱落するわけでもないところが悩ましい。

産地語尾[er」を付与する場合、地名語尾「イングとインゲン」では、出来上がりに差がないということだ。

2017年6月24日 (土)

線の一致

地名語尾の分布図を何枚か引用した。

地名の出現それ自体は点である。地名語尾の出現に濃淡の偏りがあることを直感として気づいていたが、これを客観的に捉えたくて、道路地図の巻末索引を頼りに図上にプロットした結果、分布が目に見えるようになった。

分布図には点の集合の結果、いくつかの線が確認できた。そうした線のいくつかが、方言分布地図に現れる境界線と一致する。

地名と方言に深い関係がある証拠である。地名は命名当時の現地方言を色濃く反映する。

2017年6月23日 (金)

イングとインゲン

道路地図の巻末索引を頼りに、地図上にプロットする作業は本当に楽しい。かれこれ80種の地名語尾についてやってみた。地名の数が少ないと散漫な結果になるにはなるのだが楽しさは無限だ。

地名語尾として「~のところ」を意味する「イング」と「インゲン」にも鮮やかなすみわけがある。ブラームスとの交流で名高い「マイニンゲン」も、アガーテと出会った「ゲッティンッゲン」もドナウ川の水源として名高い「ドナウエッシンゲン」も「インゲン」の仲間だ。

まずはそのインゲンの分布から。

20170609_104434
これは、先に話題にした「ザーレの東」には分布しないというパターンだ。ラインの西、ドナウの南と断言できないところもいわくありげで楽しい。まずこれをご記憶いただいたうえで「イング」の分布を示す。

20170609_104502

ミュンヘン近郊に分布する。バイエルン方言の分布と鮮やかにシンクロする。小麦ビールで名高い「エルディング」が思い浮かぶ。

2017年6月21日 (水)

大胆過ぎる仮説

グリム兄弟が編んだ「ドイツ伝説集」下巻に登場する話の舞台が、ドイツの南部か西部に偏っている話は既にしておいた。その領域がカール大帝の勢力圏と一致する可能性については、グリム兄弟自身が序文で言及している。いやはや、この序文は面白い。本文に負けないくらい貴重な情報が埋もれている。

既に私は地名語尾「heim」の分布が、カール大帝に何らかの関係があるのではないかと述べた。本日はそこから話を一歩進める。

「ドイツ伝説集」下巻収載のエピソードの分布域と、地名語尾「heim」の分布域が似ているのだ。どちらも南あるいは西に手厚い。ドナウ・ライン両大河の流域に分布する。

2017年6月20日 (火)

ハイムとハウゼン

「Heim」「Hausen」どちらも「家」を意味する。ドイツ語のネイティブな使い手でもない限り、これらの区別は難しい。これらが地名末尾に据えられるケースがある。「インゲルハイム」「ザンクトゴアハウゼン」などだ。

例によって毎度毎度の道路地図の巻末索引を頼りに分布図を作成した。まずは地名語尾「heim」から掲示する。

20170609_104541

見ての通りだ。南部とりわけライン川流域、ワインの産地で言うラインヘッセンに特異的に分布する。カール大帝の御所があったインゲルハイム近郊にと申したらお叱りを頂戴するだろうか。

20170609_104529

次いで地名語尾「hausen」の分布。「heim」とのすみわけが美しい。地名語尾「ハイム」の密集域(赤囲み)が見事に空白になっている。

「蝸牛考」に従うなら、インゲルハイム近郊が「京都」だ。あとから起こったハイムに、旧来のハウゼンが駆逐され、僻遠の地に残るという図式が容易に思い起こされる。

こうした地名の分布が何らかの歴史的事実や方言分布の反映でないとしたら恐ろしい。

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