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カテゴリー「076 ドイツ方言」の65件の記事

2017年7月20日 (木)

方言総集編

方言特集が終わった。

  1. 5月17日 ドイツの方言
  2. 5月18日 方言特集
  3. 5月19日 ヴェンカー
  4. 5月20日 ベンラート線
  5. 5月21日 ドイツを切る
  6. 5月22日 ザクセン官庁語
  7. 5月23日 ドイツ語圏
  8. 5月24日 線マニア
  9. 5月25日 ドイツの語源
  10. 5月26日 Dutch
  11. 5月27日 高地オランダ語
  12. 5月28日 ふるさとの言葉
  13. 5月29日 ブラームスの話した言葉
  14. 5月30日 フランスの右肩
  15. 5月31日 民話と方言
  16. 6月01日 民謡と方言
  17. 6月02日 地名と方言
  18. 6月03日 ストラスブールの盟約
  19. 6月04日 最後の授業
  20. 6月05日 作曲家たちの母国語
  21. 6月06日 文豪たちの話した言葉
  22. 6月07日 方言詩人
  23. 6月08日 クラウス・グロート
  24. 6月09日 早生まれ
  25. 6月10日 ホルシュタイン人
  26. 6月11日 ホルステン
  27. 6月13日 決意の理由
  28. 6月14日 ラインフランケン
  29. 6月16日 ライン扇状地
  30. 6月17日 ザーレの東
  31. 6月18日 地名語尾「itz」の分布
  32. 6月19日 地名語尾「bach」の分布
  33. 6月20日 ハイムとハウゼン
  34. 6月21日 大胆過ぎる仮説
  35. 6月23日 イングとインゲン
  36. 6月24日 線の一致
  37. 6月27日 梨とリンゴ
  38. 6月28日 支那のリンゴ
  39. 6月29日 産地語尾「er」
  40. 6月30日 キッシンジャー
  41. 7月01日 ドイツ系アメリカ人
  42. 7月02日 ヴァイオリニストの系譜
  43. 7月04日 イッケ
  44. 7月05日 ケルン方言
  45. 7月06日 お宝地図
  46. 7月10日 ベルギー
  47. 7月11日 オーデルの向こう側
  48. 7月12日 「r」は母音か
  49. 7月17日 Diminutiv
  50. 7月18日  訛り懐かし
  51. 7月19日 シュヴァーベン訛り
  52. 7月20日 本日のこの記事

2017年7月18日 (火)

訛り懐かし

お国訛りが郷愁を誘うことは古今東西を問わぬのだと思う。少なくとも日本ではそうだ。ドイツでもそうなのだと思う。ブラームスは民謡詩の中の方言が厄介だと嘆く。あまり郷愁を感じている素振りは見せていない。

民謡のテキストを調べていて面白いことに気付いた。「Da unten im Tale」のテキストだ。訳語が「私は」になっているところのドイツ語が「Ich」になっていない。「i」になっているのだ。

「別れ」という邦題で名高い「Muss i denn」にも見られる。これらの民謡の解説を見て驚いた。どれもみなシュヴァーベン地方の民謡だ。どうやら彼の地では「Ich」が「I」(イ)と訛るようだ。

2017年7月17日 (月)

Diminutiv

「縮小辞」とでも訳せるドイツ語。「Allegro」を「Allegretto」にする「-etto」や、「Andante」を「Andantino」にする「-tino」は、イタリア語における縮小辞だと言える。ドイツ語でも良く見かけるから、ブラームスの伝記からも拾える。

ブラームスは第三交響曲の規模が小さいこと指して「シンフォニッヒェン」と呼んでいた話、あるいはクララに対してしばしば「クレールヒェン」と呼びかけていた話などが知られている。前者は意味の縮小なだのが、後者は親愛の表現で「クララちゃん」くらいのニュアンスになる。

この縮小辞にも北部型と南部型がある。ブラームスが愛用していたくらいだから「-chen」は北部型だ。南部では「-el」になるのがお約束。シュヴァーベンでは「-ele」、スイスでは「-eli」になる。これが標準語になると「-lein」になる。「フロイライン」はこのパターン。

さらに厄介なことに、南ドイツ方言では「語頭に来ない」かつ「アクセントがない」かつ「前後を子音に挟まれる」場合「e」は標記されない。語末に来る「del」は「dl」、「den」は「dn」と綴られる。縮小辞「-el」は、結果として大量の「子音+l」を発生させる。

2017年7月12日 (水)

「r」は母音か

ドイツ語の単語において語中に出現する「r」は、しばしば「ア」と発音されている気がする。

首都Berlinは、カタカナで「ベルリン」と標記されるが現地では「ベァリン」に近いという。ブラームスの親しい女性リーズルは「ヘルツォーゲンベルク」と標記されるがこれも「ヘァツォーゲンベルク」らしい。語中でしかも子音が続かないことが条件で実質「ア」になっているようだ。

いまさら「ベァリン」でもなさそうなおかげで見逃されている。

2017年7月11日 (火)

オーデルの向こう側

ドイツ方言学上の重要な線、ベンラート線がアーヘンからフランクフルト・アム・オーデルまで繋がっていると書いた。平地ドイツ語と高地ドイツ語の境界を形成する。

一方ベルギー国内でフランス語圏とオランダ語圏を分かつ境界線の東端がアーヘンで、ベンラート線と接続するとも書いた。

これら言語学上の重要な線が、接続するという偶然を驚いたつもりだったが、少し考えが変った。これはもしかすると必然かもしれないと。フランス語の方言分布を調べていると、六角形状の国土の6つの隅に少数言語が分布するのだが、その一つベルギー系方言と本来のフランス語の境界線が、リールの南あたりで、先の境界線と接するからだ。元々はフランスからベルギーを経てドイツを横断する一つの線が、下記の通り言語圏によって役割を変えているように見える。

  1. フランス国内ではフランス語とベルギー系フランス語の境界
  2. ベルギー国内では、オランダ語とフランス語の境界。ローマ人の居留区に侵入したフランク人の勢力の南限。
  3. でドイツ国内では高地ドイツ語と平地ドイツ語の境界。

これらの3つの境界線を繋げると中央ヨーロッパの北部を東西に横断する一本の線になるということだ。

ここまで来たからには当然の疑問が湧く。先のドイツを東西に横切ったベンラート線のその先はどうなっているのだろう。オーデル川沿いのフランクフルトで、オーデル川に到達した線は、ポーランド領に入ると忽然と消滅するのだろうか。そんなハズは無い。その手の言語学方言学上の境界線の方が、現代の国境線よりもずっと根強いと思わねばならない。

不気味な符合がある。ベルギーにおける同線が、「ローマ人居住区に侵入したフランク人勢力の南限だ」という話がある。これがオランダ語とフランス語のつまりはゲルマンとラテンの境界だというのだが、ポーランド側もでも同じではないのか。その線がフランクフルトを通っているのが偶然にしては恐ろしい。フランクフルトという地名がフランク人に関係が深いというのは暗示的だ。

ポーランドの方言地図が調べたくなった。

2017年7月10日 (月)

ベルギー

ブラームスはしばしばベルギーへの演奏旅行に出かけている。赴いた街はブリュッセルやアントワープだ。ベルギー国内では、3つの言語が用いられている。オランダ語(フランドル語)、フランス語(ワロン語)、ドイツ語。このうちドイツ語はルクセンブルクの北側一帯、ドイツとベルギーが国境を接するあたり。

オランダ語とフランス語の境界は、リエージュという街からほぼ真西に向かう直線。首都ブリュッセルの南およそ30kmの地点を東西に走るとも言える。ローマの時代には現在のベルギー一帯は既にローマ人が侵入していたが、10世紀までに東や北からフランク人が侵入した。このときのフランク人の侵入の南限が、言語境界線と一致しているというから、1000年の由緒ある線だということになる。

この境界線を東に延長し、ドイツ国境に到達するとそこにはアーヘンがある。ベルギーの言語を南北に分かつ境界線は、ベンラート線と接続するということだ。

ベンラート線は、「第2次子音推移」の影響をこうむった地域とそうでない地域の境界だった。ベルギー側の境界はフランク人侵入の南限だ。これがアーヘンで接続するとは恐れ入った。

2017年7月 6日 (木)

お宝地図

方言特集に入ってドイツ語の辞書を引くようになった。ところがこれが電子辞書ばかりだった。最近方言地図を探して学生時代の辞書をめくっていてお宝にめぐり合った。巻末にドイツの地図が載っている。およそ30cm四方のコンパクトな地図。私が大学に入ると同時に買い求めた辞書だから、当然ドイツは東西に分かれていたころの地図である。

道路や鉄道は省略されていて川と街が記載されている。土地の高低が緑色と茶色のグラデーションで表現されている。ドイツの地理を大まかに頭に入れるにはちょうどいい。シュワルツワルトやボヘミアの森、テューリンゲンの森も薄茶色で描かれている。

裏面にはドイツの方言地図のほかにドイツの行政区分が載っている。行政区分図は旧東ドイツの州がキチンと描いてある。今の州よりも少々細かい。方言分布図に近い感じになる。

こんな便利な資料が持ち腐れになっていた。もっと早く探していれば良かった。さっそく私のデスクの横に貼り出した。

2017年7月 5日 (水)

ケルン方言

サッカーの話題。ちょっと前の話。元ドイツ代表ルーカス・ポドルスキーという選手が、Jリーグ・ヴィッセル神戸に移籍という報道があった。たしか3月だった。

むかしむかし彼は所属するケルンの扱いに不満を持ち、移籍希望を公言したことがあった。有力選手になるとそういうこともある。

その談話の中で、移籍先は国外がいいと言った。「ボクはドイツ語に加えて英語もポーランド語もできる上に、ケルン方言も操れるから、大抵の国でやって行ける」と付け加えた。

おお。彼はポーランド出身だから、ポーランド語は驚くにあたらないものの最後に付け加えた「ケルン方言」という一言がジョーク感をかもし出している。ケルン方言の使い手であることが、どれだけ移籍の幅を広げるかは不明だが、彼がキャリアのほとんどをケルンで積み上げたことを考えると納得がいく。標準的なドイツ語よりもケルン方言の方に愛着があるに違いない。同時にケルンへの愛をもこめられていると見た。

ヴィッセル神戸への入団会見の席上で、「おおきに」とでも言ってくれれば相当なウイットの持ち主だとわかるのだが。

2017年7月 4日 (火)

イッケ

無理やりスペリングすれば「Icke」なのだろう。1990年代のドイツ代表を支えたミッドフィルダーのトーマス・ヘスラー。キャリアをスタートさせたのは、ケルンなのだが彼はベルリンの出身だ。インタビューなどの公の場でもベルリン訛りを隠そうとしなかった。「私は」に相当する場面で、「Ich」(イッヒ)と言わずに、ベルリン訛りの「Icke」(イッケ)を連発したことから、いつしか彼は「イッケ」と呼ばれるようになった。

2017年7月 2日 (日)

ヴァイオリニストの系譜

古今の大ヴァイオリニストを列挙論評する記事ではないことを予めお断りする次第である。

ドイツ語でヴァイオリニストは「ガイガー」(Geiger)なのだが、実はもう一つ「Fiedler」と引いてもヴァイオリニストと出てくる。「Fiedler」は「Fidel」を弾く人の意味。「Fidel」は中世に存在した弦楽器でヴァイオリンの祖先にあたるという。その名残で「Fiedler」がヴァイオリニストの意味になっている。

「Geiger」と「Fiedler」どちらもドイツ人の苗字になっている。数の上では「Fiedler」が優勢で0.08%を占め、苗字ランキングの140位。「Geiger」は同ランキング180位で、0.06%を占める。

興味深いことに、この両者は地域で棲み分けられている。ドイツ南部は「Geiger」で北部が「Fiedler」だった。ルクセンブルクとの国境に近いトーリアから、チェコのプラハに向かって東西の直線を引く。その線がチェコとの国境に到達したら、真南に折る。この線以南と以西で「Geiger」が優勢となる。

ちなみにオーストリアでもウィーンを含む東部は「Fiedler」で、ザルツブルク以西は、スイスまで含めて「Geiger」だ。

語尾に「er」を伴っているが、これは産地語尾ではない。英語とも共通する「~する人語尾」だ。

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