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カテゴリー「076 ドイツ方言」の18件の記事

2017年1月11日 (水)

ゲッティンゲンの7人

女性の王位継承を認めないサリカ法のせいで、ヴィクトリア女王はハノーファー王位に就けなかった。代わりにとハノーファー王になったのがエルンスト・アウグストという人物。ヴィクトリア女王の叔父にあたる。同国は英国の影響もあって民主的な政治が行われており、ブラームスが生まれた1833年には新憲法が採択されていたほどだ。

ところが、1837年の即位早々の王エルンスト・アウグストがこの新憲法の破棄を宣言してしまったことから、世論が沸騰する。迂闊に抵抗できない市民に代わってという形で、ゲッティンゲン大学の教授7名が、抗議書を公表した。これがゲッティンゲン7教授事件である。このとき抗議書に署名した7人を「ゲッティンゲンの7人」という。ドイツ語では「Gottinger Sieben」と呼ばれている。西部劇「荒野の7人」がこれに影響されていはいないか真剣に考えているところだ。大学関係者が尊厳をかけて権力に抵抗する事件があると、これにちなんだ言い回しをされることがアメリカでも起きているから西部劇への影響も突飛とは言えまい。

この7人の中にグリム兄弟がいた。

世論は7人に共感したが、皆失職の憂き目にあう。グリム兄弟のライフワーク「ドイツ語辞典」は失職中に構想されたものだが、1840年プロイセン王フリードリヒ・ウィルヘルム4世によってベルリン大学に招聘される。

2016年9月 8日 (木)

Limes

異民族の侵入を柵で止めようという発想は、どうも東西共通らしい。中国の万里の長城程ではないが、欧州にも似たような遺跡がある。これを「Limes」(リーメス)と呼んだ。ローマ人がゲルマン人の侵入に備えた柵だ。

一般にローマ人とゲルマン人の勢力範囲はライン川とドナウ川を境界線として均衡したとされているが、それだけでは説明に苦しむ時もある。ライン以東やドナウ以北にローマ人の遺跡が見つかることもあるからだ。このとき「Limes」を想定すると説明がし易くなるという。

ライン沿岸のボンの東南からドナウ沿岸のレーゲンスブルクまでおよそ550kmにわたる長大な柵である。方言や一部地名の分布が「Limes」と一致するケースが見られる。

2015年1月28日 (水)

茶飲み話

「お茶を飲みながらのおしゃべり」の意味。あるいはそこでの「話題」のこと。やはり日本は「お茶の国」だ。コーヒー消費量世界上位ではあるのだが、日本語の語彙の上では「お茶」優勢だ。

ドイツ語で「茶飲み話」に相当する単語を集めてみた。

  1. Kaffeedurch 「コーヒーを飲みたい気持ち」のこと。
  2. Kaffeefahrt 「コーヒーを飲みに出かけること」
  3. Kafeegesellschaft 「コーヒー飲みの集まり」とりわけ午後の場合を指す。「Gesellschaft」は会社だから、少々大袈裟な表現。
  4. Kaffeeklasch 「コーヒーの飲みながらのおしゃべり」
  5. KaffeeKranzchen 「コーヒーを飲みながらのおしゃべり」。ただし時間帯は午後で、参加者は女性に限られた表現。
  6. Kaffeepause 英語のコーヒーブレークにもっとも近い言い回し。
  7. Kaffeeschlacht 「コーヒーを飲みながらのおしゃべり」「Kaffeeklasch」より口語的。
  8. Kaffeeschwester 「コーヒー好きの女性」。茶飲み話に熱中する女性のこと。
  9. Kaffeestundchen 「午後のコーヒータイム」のこと。

おしゃべりに限れば何だか午後限定が多い。時間帯を選ばぬのは、4番と6番くらいか。

2014年6月 2日 (月)

グリュックアウフ駅

Gluckauf(uはウムラウト)は、鉱山関係者間の挨拶。これから坑内に入ってゆく鉱夫たちに「無事でお帰り」と声掛けするニュアンス。ドイツブンデスリーガ所属の強豪シャルケは、鉱夫たちを集めたのがクラブの始まりだった。だから昔彼らのホームスタジアムは「グリュックアウフシュタデュオン」だった。ドイツの民謡にもなっていることは既に取り上げた。

何とこれが駅名になっていた。ヘンデルの故郷として名高いハレの西南西およそ100kmの位置にゾンデルスハウゼンがある。「Sondershausen」と綴る。街の中央にハウプトバーンホフがあって、その隣の駅が「Sondershausen-Gluckauf」駅だった。駅の北側には廃鉱山の印が3つ4つある。むしろ当然だ。鉱山との関連無しに「Gluckauf」が駅名になることなど有り得ない。

また、前に何もつかない単なる「Gluckauf」駅も発見できた。旧東ドイツでポーランド国境にも近いコットブス市内の狭軌鉄道線に「Gluckauf」駅があった。近くに鉱山のマークは見当たらないが、街自体が鉱山の街なので納得できる。

ドイツ国内は、彼らの産業革命を支えた鉱山が沢山あった。今は廃坑になっているものも多いけれど、地名や駅名に力強く痕跡をとどめている。

2014年1月 4日 (土)

Gruss Gott

2年前のドイツ旅行最後の夕食はニュルンベルクだった。洞窟風の居酒屋。最後の夕食とあって多くの人がビールを注文した。しばらくしてウエイトレスさんが両手一杯にジョッキを持ってきた。「Bier」といいながら長男と私の間からテーブルにビールを置く。ドイツ語にも慣れてきたメンバーが「Danke」と声をかけている。

私は長男と示し合わせた実験を試みた。ビールを置いてテーブルを離れようとするウエイトレスさんに「Gruss Gott」と声をかけた。「u」はウムラウトになる。カタカナで無理やり表すと「グリュースゴット」という感じ。バイエルン方言で「こんにちは」の意味とされるが、利用範囲はもっと広くて挨拶のシチュエーション全般で使える万能語。列車内の狭い通路ですれ違うときにも使える。車掌が検札のために車内に入って来るときも。駅の案内所で係りの人に声をかけるときも「すみません」のニュアンスでピッタリだ。別れ際「ありがとう」の意味でも違和感が無い。

私から「Gruss Gott」と声がけされたウエイトレスさんの反応は劇的。満面の笑顔でこちらに振り向いて「Gruss Gott」と答えてくれた。長男と顔を見合わせて効果の程を喜んだ。彼らからすれば日本人がバイエルン方言で呼びかけてくれるなど想定外だったに違いない。事前にこのバイエルン方言については調べていたが、やっぱり現地方言で声をかけると喜ばれる。なんだかビールがうまかった。バイエルン地方にお出かけの予定がある方はご記憶を。

2013年10月 5日 (土)

アインベック

「Einbeck」と綴られるニーダーザクセン州の都市。ハノーファーの南50kmという位置は微妙だ。ベンラート線よりギリギリで北にある。もし南にあったら「Einbach」となっていた可能性が高い。

既に14世紀から上面発酵でビール醸造が始まっていたとされており、ハンザ同盟の諸都市では評判の高いビールだった。当時まだ単なる田舎ビールの産地だったバイエルンにおいてもすこぶる評判がよく、飛ぶように売れた。バイエルン宮廷でも膨大な量が消費された。当地のバイエルン公国はビール代の支払いに悲鳴を上げるありさまだった。対外債務である。

1589年バイエルン公国のウィルヘルム5世は一計を案じ、アインベックから職人を招いて同ビールを領内で醸造することにした。バイエルン領内では下面醸造に転換されて完成したのが、「Bock」と呼ばれる独特のビールで、これがやがて本家アインベックを凌ぐ人気を獲得する。ブラームスの時代はボックといえばバイエルンという世間の認識になっていたハズだ。

「Einbeck」の語頭「Ein」が冠詞とみなされた結果、語幹の「Beck」が独立し、バイエルン風に訛って「Bock」になったという。「Bock」は「雄羊」だから、ラベルに雄羊がデザインされていることが多いという。

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2013年7月13日 (土)

暑さの単位

ミュンヘンっ子たちは、夏の間ビアガーデンで飲みながら涼を取るのが普通だ。その席での重要な話題が「本日の暑さ」だったという。そのときの暑さの単位は、今の日本なら「猛暑日」とか、「熱帯夜」という単語に凝縮されるが、ミュンヘンにはならではの言い方がある。

「ビール1杯の暑さ」とか「ビール2杯の暑さ」とか、暑さの程度を表すのに、涼を取るのに必要なビールの量で示すと言うことだ。

2013年6月26日 (水)

首都アーヘン

アーヘンは「Aachen」と綴る。ボンのほぼ真西ベルギーとの国境沿いにある。Aachenは、水辺語尾「au」や「川」を意味する「Ache」に関係があるとされている。

カロリング朝カール大帝の首都と位置付けられている。もちろん現代における首都とは意味が違う。当時は皇帝と言えども一箇所にとどまっていなかった。在任中征戦に明け暮れたから、首都の機能はカールの移動と共に移転した。ライン南岸のインゲルハイムもその一つだ。カール大帝がもっとも長く滞在したのがアーヘンだ。

アーヘンがあるのはライン川とマース川に挟まれたあたり。ベルギーやオランダの一部を含むこの地域が、カールを育んだカロリング家の出身地だ。カールがアーヘンに長く滞在し、半ば首都の様相を呈したのは、そこが王朝にとっての父祖の地だからと解すると納得が行く。

さらに決定的なことがある。カールの孫の代で3人の王子が国を分割した時、長男のロタールが押えた中央フランクの領域にこのアーヘンが属しているということだ。大帝カールゆかりの地である、カロリング朝の出自の地を長男が領有するのは自然なことだと思われる。

次男三男による密約ではなく、単に長男が一番おいしい選択をした考える根拠である。

2013年4月 5日 (金)

街の形

地名語尾「stadt」は「街」と解して疑われることはないのだが、以下の通り様々なヴァリエーションがある。

  1. staadt ラインラントプファルツ州に「Kastelstaadt」がある。
  2. stade ニーダーザクセン州にそのものズバリ「Stade」が存在する。
  3. stadt いわゆる「ウエストライン」とベンラート線の間の西寄りに分布する。
  4. stadt 「a」にウムラウト一個がつくだけで分布域が「stadt」の東側に変わる。
  5. statt バーデンビュルテンベルク州とバイエルン州に散在。つまり南部だ。
  6. stedt エルベ川下流域およびザクセンアンハルト州に集中する。
  7. stett バーデンビュルテンベルク州「Althengstett」1箇所。
  8. stetten Limesの南に集中する。

オランダ語、ノルウエィ語、スウェーデン語では「stad」になる。見事なものだ。変化形が無闇に使われている訳ではなかった。ユトランド半島の付け根に集中する地名語尾「by」は、デンマーク語で「街」に相当する。この地域がデンマーク語の影響を受けていると考えてよさそうだ。地名語尾「by」は英国においては「Derby」や「Rugby」などの地名にもなっている。

2013年3月12日 (火)

森の分類

「森」という漢字の成り立ちを見るだけで「木」の集合だと判る。木が集団で繁茂する場所だ。日本語でもヴァリエーションがある。「林」「木立」「茂み」などだが、森の国ドイツではさらにたくさんの言い回しがあり、それらが地名語尾に反映している。本日はそれらを列挙してみる。

  1. bog ブランデンブルク州「Juterbog」。デンマーク語で「ブナ」の意味がある。
  2. bok シュレスヴィヒホルシュタイン州「Ahrensbok」。スウェーデン語で「ブナ」の意味がある。
  3. buche ドイツ語でブナの意味がある。
  4. busch 北部ドイツに5箇所あるが木の集合というにはやや無理か。
  5. forst これといった特色も無く3箇所。「wald」は原生林だがこちらは「人の手が入った森林」という感じ。英語の「forest」に通じる。
  6. gau 33箇所。中央ドイツを空白にしたドーナツ型分布。「水辺の森林」の意味だが、ゲルマン人の土地統治単位だったという説もあるので要注意。
  7. hag 森、木立。地名語尾「hagen」の一部はこちらに起因するのではとも思う。
  8. hain 「gau」の空白区を埋めるようにも見える。中央ドイツに39箇所。「囲いのある林」の意味。
  9. hau 3箇所。森林の中の伐採区を指す。
  10. heide 荒地・原野を指すが、未開墾地という意味では森をも含む。森が乱伐された結果としての荒野でもある。
  11. hoe シュレスヴィヒホルシュタイン州「Jurrishoe」1箇所。
  12. holz 丸太。森そのものとはいえないが密接不可分。
  13. horst ザクセンアンハルト州を南限として北部に集中。「forst」からの転訛か。
  14. loh 12箇所が北部に分布。ザクセン神話の「聖林」に相当する。
  15. lohe もちろん「loh」と同一で5箇所。
  16. lohn これも「loh」の変化形で3箇所。全てニーダーザクセン州。
  17. tann バーデンビュルテンベルク州「Buhlertann」1箇所。「樅の木」あるいは「鬱蒼たる森林」の意味。
  18. tanne ザクセン州「Lichtentanne」1箇所。
  19. thann 3箇所全てバイエルン州。もちろん「tann」の変形。
  20. wald 43箇所。ほぼドイツ全土。原生林でとりわけ山に近い意味もある。
  21. walde 36箇所。原則として北部。エルベの東に分布するが無視しえぬ例外もある。申すまでも無く「wald」の変形。

いやはや多彩。「開墾地」の16箇所を上回る。ブタの放牧地でもあり薪の供給元でもある。人々の生活になくてはならない森だからその土地ごとに言い回されてきたと判る。

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