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カテゴリー「094 ドイツバロック」の55件の記事

2023年12月29日 (金)

やっぱりたられば

歴史の「たられば」を語りだしたらキリがない。何冊も本が書けるはずだ。私ごときが思い付く「たられば」なんぞ、すでに語り尽くされてもいよう。それでもと思い詰めて今日記事にする。「もしルターがいなかったら」と。

もしルターがいなかったら誰か代わりの者が宗教改革を成し遂げたのだろうか。

何故ドイツに宗教改革が起きたのだろう。キリスト教を後ろ盾に西欧を統一したカール大帝に最後まで抵抗した異教徒ザクセンの地が、宗教改革の中心なのは、はたして偶然なのか。

音楽を信仰の後ろ盾にと欲したしたルターは、その後の欧州音楽史に決定的な影響を与えたという自覚があるのか?いったい何人がルターに賛同し、賛美歌にテキストや旋律を供給したことだろう。あらゆることを先進地イタリアから吸収しながら、なおドイツが独自性を保ち続けた原因を、プロテスタント信仰に立脚するコラール群の存在としたらそれは言い過ぎか。プロテスタントコラールをイタリア人にとっての「オペラ」になぞらえることはできまいか。

そしてバッハ。ルターがかくあれと欲した「信仰と音楽の融合」の頂点にして到達点。

ドイツ史上では、30年戦争をはじめとするいくつかの戦争が、キリスト教新旧の対立に由来すること周知の通りで、そこでは庶民のおびただしい犠牲があった。その代わりに残された愛すべき音楽という図式を飲み込み切れずにいる。

入院の間ずっと考えていた。

2022年8月22日 (月)

Sonate representiva

ハインリヒ・イグナーツ・フランツ・フォン・ビーバーの作品。「描写ソナタ」とでも訳せばいい。シュメッルツァーの弟子と言われている。バッハが手本にしたとされているから中期バロックだ。

このソナタ集は序奏とフィナーレに挟まれた7曲小品集である。

  1. Allegro
  2. Nachtigal(ナイチンゲール)
  3. Cucu(カッコウ)
  4. Fresch(カエル)
  5. Die Hahn und der Hann(雄鶏と雌鶏)
  6. Die Wachtel(うずら)
  7. Die Katz(ねこ)
  8. Musqetir Mars(歩兵の行進)
  9. Allemande

中間の7曲は愉快。すぐにわかる。2曲目から7曲目までは動物園だ。

2022年7月 3日 (日)

無意識の結晶

音楽作品は作曲家の創意の結晶である。これは疑えない。それが注文による作曲であったにしてもだ。もちろんその楽譜上に記載される楽語の選択も含めて、作曲家その人の意思の発露である。作品を世に問う手段としての楽譜出版の位置づけが重みを増せば増すほど、楽譜上に記される楽語の重要性もまた高まっていくことは確実だ。

さて、そうした作品がある程度たまってきたとして、作曲家はそれを手元において常に参照しただろうか。もっというならそこで用いられた楽語をカウント集計していただろうか。

おそらく答えは「No」だ。つまり作品自体はそこに書かれる楽語含めて意思の反映であるのに対し、作品群中の楽語の使用頻度までは意識されてはいるまい。250年後の極東日本の愛好家がまさか数えるとは思ってもいないはずだ。

だから楽語使用の頻度は、作曲家の無意識の反映だ。だからこそヴィヴァルディの「ALA」への固執は、個性の反映であると解し得る。

 

 

 

 

2022年6月11日 (土)

シャコンヌは例外か

「教会ソナタ」と「室内ソナタ」を隔てる「舞曲の有無」という条件について、「オルガン自由曲」における舞曲の不存在を根拠に「教会での舞曲の拒絶」という可能性を取り上げた。

少なくともバッハのオルガン自由曲に「アルマンド」「クーラント」「サラバンド」「ジーク」「ブーレ」「シャコンヌ」は現れない。舞曲は教会での演奏にそぐわぬという不文律の存在を提起したつもりである。

しかし、バッハに先行するドイツオルガン界の巨星二人、ブクステフーデとパッヘルベルは「オルガン自由曲」の中に「シャコンヌ」がある。

ブクステフーデは、BuXWV159ハ短調とBuXWV160ホ短調の2曲。パッヘルベルは6曲ある。

周知の通り「シャコンヌ」は舞曲起源だから、「教会が舞曲を拒絶した」という仮説には都合が悪い。

ブクステフーデやパッヘルベルの時代、教会でない場所に設置されたオルガン、つまり世俗オルガンがあり得たのか。あるいは単にバッハとの時代の違いなのか。

「シャコンヌ」は、舞曲だがもともとキリスト教文化圏の舞曲だったからという落としどころが透けて見える。

 

 

 

 

2022年6月 8日 (水)

教会ソナタ考

バロック時代のソナタが教会ソナタと室内ソナタに分けられていること周知のとおりだ。表面上の違いは「舞曲の有無」だ。教会ソナタには舞曲は含まれない。

ここまで考察を重ねてきた「舞曲の配列」は、室内ソナタに限った話となる。その室内ソナタには「世俗ソナタ」という別称もあるので、舞曲の有無が聖俗の分岐点になっていると見受ける。

意外なことにネットや書籍でいろいろ探しても、「教会ソナタ」のネーミングの由来は明らかにならないから下記の通り想像をめぐらせる。

  1. 教会で演奏したから
  2. 教会の関係者が演奏したから
  3. 教会の関係者が作曲したから

この程度しか浮かばない。

さらに奥に鎮座する疑問がある。「なぜ、舞曲の有無が分岐点なのか」「その結果、舞曲を含まぬ側が、なぜ教会ソナタなのか」

先に想像したようにネーミングの由来がわかればこの疑問の答えも見つかるものと思うのだが。

 

 

2022年6月 6日 (月)

ソナタとパルティータ

チェロ組曲とともにバッハ無伴奏作品の双璧を形成する無伴奏ヴァイオリン作品はソナタとパルティータ各々3曲から構成される。このうちソナタは言わゆる「教会ソナタ」で舞曲を含まない一方、パルティータは舞曲の集合体だ。記事「Hortus musicus」で、ラインケンの室内楽の代表作に言及した中で、その楽章構成を下記の通り指し示した。

  1. ソナタ(序奏→フーガ→アンダンテ→フィナーレ)
  2. アルマンド
  3. コレンテ
  4. サラバンド
  5. ジーク

第2楽章以下がフローベルガーの定義を満たしていると書いた。

この第一楽章と残り4つの楽章が分割されたのが、ソナタとパルティータだということだ。古来両者は一体だったのだが、やがてソナタ部分と舞曲部分に分離独立したということだ。バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータは分離の過渡期がそのまま保存された化石のようだ。

ソナタ、パルティータ各3曲で、調性の不一致に目をつむればソナタとパルティータ各1曲一組とみなしうる。前半部分は後継の舞曲に対する序奏が起源だから舞曲を含まぬのは当然だ。ここに教会ソナタの名称が奉られたものと推察される。序奏ソナタに離脱された後半分は舞曲の集合体となり、やがては「室内ソナタ」と称されるに至る。

最大の疑問は、分離の前半部分、つまり舞曲を含まぬ方に「教会ソナタ」と命名し、後半部分、つまり舞曲の集合体側が「室内ソナタ」になったのかだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2022年6月 3日 (金)

ドイツローカル

フローベルガーを論ずるさまざまなソースを見るに、組曲における舞曲配置を決めたのがフローベルガーだとする論説の一方で、フローベルガー自作における逸脱を疑問として提示する指摘も存在する。

「アルマンド」「コレンテ」「サラバンド」「ジーク」という配列のことだ。

ところが、CDのブックレット頼りに様々な作曲家について調べると、必ずしも守られていない。ドイツ系といわれている作曲家については60%の作品で順守されているのだが、イタリアではほぼ無視されている。さまざまなソースが、フローベルガーの自己矛盾だけを指摘する一方、イタリアで無視されていることには不思議と言及が見られない。

伝フローベルガー作のこの順序は、ドイツ語圏でのみ有効と解される。当時の音楽の本場がイタリアだったかどうかはともかく、このルールはドイツのローカルルールであったと結論づけたい。

 

 

 

 

 

 

2022年6月 1日 (水)

やはりACSG

ブクステフーデの「Wachet auf」のCDに興味深い演奏が混入していた。ヨハン・ハインリッヒ・エルレバッハのソナタ6番ヘ長調。ピッコロヴァイオリンとガンバと通奏低音のためのソナタだ。

先のCDは、バッハとブクステフーデの聞き比べが出来るとほくそ笑んだが、地味に混入していた同ソナタの可憐ないでたちにハッとさせられた。慌ててブックレットを読み込んだところ以下の5楽章から成り立つとわかった。

  1. Affettuoso
  2. Allemande
  3. Courante
  4. Sarabande und variation
  5. Gigue

なんということか。「アレマンド」「クーラント」「サラバンド」がこの順番で並ぶ上に「ジーク」がフィナーレに来ているではないか。先にさんざん話題にし、「単なるドイツのローカルルール」と結論付けた「ACSG」そのままだった。作曲者エルレバッハはバッハより28歳年長のドイツの作曲家だから、「ドイツローカル」という仮説を補強する材料だ。

まあ、しかし作品の可憐さに比べれば枝葉末節だ。

 

 

2022年5月29日 (日)

イタリアの実態

ドイツには下記定義を2つとも満足する組曲配置が多いと検証した。

  1. 「アルマンド」「クーラント」「サラバンド」がこの順で連続する。
  2. 終曲に「ジーク」を据える。

ヴィヴァルディやコレルリがちっともこの定義を満たさないとわかったから、他のイタリア作曲家についても所有CDのブックレットを頼りに確認してみた。結論から先に申すなら、我が家所有のCDに関する限り、イタリア人のバロック作曲家の組曲に上記2つの定義を満たす作品は1つもなかった。確認した作曲家は下記のとおり。

  1. Vivaldi
  2. Correlli
  3. Tartini
  4. Veracini
  5. Geminiani
  6. Farini
  7. Pandorfi

ついでに申すなら、パーセルにもルクレールにもなかった。

貧弱な我が家のコレクションだから、サンプルの絶対数に不安があるのはご指摘を待つまでもない。がしかし、コレクションが薄いのは何もイタリアバロックに限った話ではない。ドイツバロックだって薄いのだ。それでいてドイツとの差はいったいなんだ。開票率がまだ低いのに当確を出す感じににている。

フローベルガーの定義はドイツにのみ有効であると。

 

 

2022年5月27日 (金)

ドイツ側の実態

組曲の舞曲配置についての下記定義を、ヴィヴァルディもコレルリも顧慮していないと書いた

  1. 「アルマンド」「クーラント」「サラバンド」がこの順で連続する。
  2. 終曲に「ジーク」を据える。

同時にフローベルガー提唱といわれるこの定義が、イタリアにまでは及んでいないと推測した。しからばバッハ以外のドイツではどうなっているのかという話だ。手元のCDのブックレット頼りの簡便法で確認してみた。上記定義を2つとも満足する作品が下記の通り発見できた。

  1. テレマン ニ長調ソナタ TWV41:D1
  2. テレマン ロ短調ソナタ TWV41:h1
  3. テレマン イ短調ソナタ TWV41:a1
  4. テレマン イ長調ソナタ TWV41:A1
  5. ブクステフーデ 変ロ長調ソナタ BuxWV273
  6. ブクステフーデ 組曲5番イ長調 BuxWV230
  7. ブクステフーデ 組曲11番イ長調 BuxWV236
  8. ブクステフーデ 組曲19番イ長調 BuxWV243
  9. ブクステフーデ 組曲ト長調 BuxWV242
  10. ブクステフーデ 組曲ホ短調 BuxWV235
  11. ブクステフーデ 組曲ハ長調 BuxWV226 
  12. ブクステフーデ 組曲ニ短調 BuxWV233
  13. ブクステフーデ パルティータホ短調 BuxWV179
  14. エルレバッハ ソナタニ長調
  15. エルレバッハ ソナタホ短調
  16. エルレバッハ ソナタハ長調
  17. エルレバッハ ソナタ変ホ長調
  18. エルレバッハ ソナタヘ長調
  19. ヨハン・ヤコプ・ワルター 組曲9番ハ短調
  20. ヨハン・ヤコプ・ワルター 組曲20番ホ短調
  21. パッヘルベル チェンバロソナタNo26ニ短調
  22. パッヘルベル チェンバロソナタNo29ホ短調
  23. パッヘルベル チェンバロソナタNo34ト長調

CDのブックレット頼みの簡便法でこの大漁ぶりだ。イタリア側とのあまりの差に、フローベルガーの確立した舞曲配置は、ますますドイツのローカルルールだという気がしてきた。

 

 

 

     

 

 

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