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カテゴリー「119 テキスト」の48件の記事

2017年9月22日 (金)

間投詞Ja

またまた「永遠の愛について」op43-1の話題。第一節を引用する。

Dunkel, wie dunkel in Wald und in Feld!

Abend schon ist es,nun schweiget die Welt.

Nirgend noch Licht und nirgend noch Rauch,

Ja, und die Lerche,sie schweiget nun auch

4行目冒頭の「Ja」は、言ってみれば間投詞。「そう、ひばりも今は黙っている」くらいの意味。この「Ja」は軽い順接。興味深いのはブラームスがこの「Ja」に与えたフレージングだ。前行末尾の「Rauch」から4度跳躍で連なっているように聞こえる。「Ja」の後に続く「und die」の前には四分休符が挟まっているから、「Ja」は直前の「Rauch」とのつながりの方が密接に聞こえてしまう。「Rauch」は、4行目末尾の「auch」と韻を踏んでいるから「Ja」のフレージングは異例だ。2コーラス目の同じ場所ではこの跳躍は封印され、ピアノ伴奏が同じ音をなぞるだけだ。

実はこの「Ja」こそが曲前半の聞かせどころになっている。歌手たちの個性がにじみでるポイントだ。

2017年9月20日 (水)

かまどの煙

万葉集巻1舒明天皇の御製。

大和には群山あれどとりよろふ

天の香具山登り立ち国見をすれば

国原は煙立ち立つ海原は鴎立ち立つ

うましくにそ秋津島大和の国は

国見の歌だ。為政者が高いところから領地を検分する行事。言霊信仰にも関連があるとされている。聖なる王者が誉めることにより豊穣祈願の予祝行為とも思われる。「国原から立ち上る煙」がとりわけ重要だ。主に炊煙であることがポイント。どんなに譲っても稲わらを焼く煙までだ。中には煙の立ち上りが少ないことを見て減税をした王もいるという。煙は人々の営みの反映。立ち上る煙の本数はもしかすると世帯数だ。

ブラームスの歌曲にもこの意味の煙が出現する。至宝「永遠の愛について」op43-1に「Rauch」として現れる。

Dunkei, wie dunkel in Wald und in Feld!

Abend schon ist es,nun schweiget die Welt.

Nirgend noch Licht und nirgend noch Rauch,

Ja, und die Lerche,sie schweiget nun auch

3行目の末尾に鎮座する。「暗い暗い森も野も」「はや夜が更けてものみな静まる」「いずこにも灯りは見えず、煙も途絶え」「ひばりも今は押し黙る」と歌われる。「暗い森と野」は恋人を家に送る道中の描写であると同時に、2人の置かれた状況の暗喩にもなっている。その暗さを補強するのが3行目「灯りも煙も無く」というフレーズ。この煙はタバコや火災ではあり得ない。十中八九かまどの煙だ。人々の営みが途絶えている様子の描写と見て間違いない。舒明天皇の国見歌と同じである。

2017年7月19日 (水)

シュヴァーベン訛り

記事「訛り懐かし」でシュヴァーベン地方の方言では、一人称「ich」の代わりに「i」が使われると書いた。類似の現象がブラームスの歌曲のテキストにもあった。

「Die Schwalble ziehet fort」(ツバメは飛び去ってゆく)op7-3と「Die Trauernde」(悲しむ娘)op7-4だ。

前者では、「ich」に該当する箇所が「i」になっている他に「ist」が「isch」にすりかわっている。

後者「悲しむ娘」はさらに興味深い。

  • mein→mei 
  • kein→kei
  • mich→mi
  • Mutter→Mueter
  • nicht→net

これら全部シュヴァーベン訛りである可能性が高い。

2017年7月18日 (火)

訛り懐かし

お国訛りが郷愁を誘うことは古今東西を問わぬのだと思う。少なくとも日本ではそうだ。ドイツでもそうなのだと思う。ブラームスは民謡詩の中の方言が厄介だと嘆く。あまり郷愁を感じている素振りは見せていない。

民謡のテキストを調べていて面白いことに気付いた。「Da unten im Tale」のテキストだ。訳語が「私は」になっているところのドイツ語が「Ich」になっていない。「i」になっているのだ。

「別れ」という邦題で名高い「Muss i denn」にも見られる。これらの民謡の解説を見て驚いた。どれもみなシュヴァーベン地方の民謡だ。どうやら彼の地では「Ich」が「I」(イ)と訛るようだ。

2017年6月 6日 (火)

文豪たちの話した言葉

記事「作曲家たちの話した言葉」でドイツ系の有名作曲家たちがどのような方言で話していたかを推測した。同じ事を作家でやったみた。ただやるだけではつまらないのでブラームスにテキストを供給した詩人たちに限ることにした。

  1. Bodenstedt,Friedrich von ハノーファー生 西低地ドイツ方言
  2. Candidus,Karl August シュトラスブルク生 上部アレマン方言
  3. Daumer,Georg Friedrich  ニュルンベルク生
  4. Eichendorf,Joseff Freiherr  シレジア地方ルヴォビッツ生 シュレジーエン方言
  5. Freminng,Paul ツヴィッカウ生 ザクセン方言
  6. Goethe,Johan Wolfgang von フランクフルト・アム・マイン生 ヘッセン方言
  7. Grohe,Melchior  マンハイム生
  8. Klaus Groth ハイデ生まれ 低地ザクセン方言(平地ドイツ方言)
  9. Herder Johan Gottfried  東プロイセン生 プロイセン方言(東部低地ドイツ方言)
  10. Hayse,Paul von  ベルリン生
  11. Fallersleben,Hoffman von  ファーラースレーベン生
  12. Hollty,Ludwig Christoph Heinrich  ハノーフアー生 西低地ドイツ方言
  13. Kopisch,August ブレスラウ生 シュレジーエン方言
  14. Morike,Eduard  シュヴァーベン生 シュヴァーベン語
  15. Platen,August Graf von アンスバッハ生
  16. Reinick,Robert  ダンツィヒ生
  17. Schack,Adolf Friedrich Graf von  シュヴェリン生
  18. Simrock,Karl  ボン生
  19. Tieck,Johan Ludwig  ハレ生
  20. Uhland,Ludwig  テュービンゲン生

これらの詩人たちは故郷の方言を話しているとすると上記のとおりになる。ブラームスに届けられたテキストが方言で書かれているとは限らない。話し言葉であることが方言の定義であるなら、むしろ文学作品は標準語で書かれている可能性が高い。ブラームス作品のテキストを読んでそれが、方言かどうか判定できるようになったら凄いと思う。

2014年12月24日 (水)

コーヒー見つけた

ブラームスの声楽作品のテキストに「コーヒー」が出てくる。おそらく一箇所だ。「49のドイツ民謡集」WoO33の27番。以前に「雪山讃歌」と似ていると指摘した作品。

一人の乙女が3人の男から意中の人を選ぶ筋書き。一人目は左官、二人目は大工、結局三人目の軽騎兵を選ぶ。軽騎兵は当時としては、あこがれの職業。最後に乙女が軽騎兵を選ぶのは、ベタな展開だが致し方あるまい。その男が毎日早起きしてコーヒーを飲むと歌われる。

バッハの名高い「コーヒーカンタータ」ほどの重要な位置付けではなくて単なる小道具だが、正規の歌曲には出現しないので貴重。

2012年3月20日 (火)

クォドリベート再考

バッハの「ゴールドベルク変奏曲」の第30変奏が気に入っていると何度も書いてきた。さまざまな旋律が同時に鳴らされるという特異な形式が、「Quodlibet」(クォドリベート)と呼ばれている。「みんなで一緒に」程度の意味だ。

昨今ずぶずぶとはまっている学生歌だが、そのキッカケともいえる「ガウデアムス」のテキストを調べていて驚いた。4番の歌詞だ。

Viva academia,vivant professors 大学万歳、先生万歳

Viva academia,vivant professors  大学万歳、先生万歳

vivat membrum quodlibet,vivant membra quaelibet 同胞万歳、すべての同胞万歳

semper sint in flore 永久に栄えあれ

semper sint in flore 永久に栄えあれ

3行目に「quodlibet」が出てくる。和訳と無理にこじつけると「全ての」くらいの意味に落ち着けそうだ。あるいはその前行と前々行の大学や先生をも含めた「全て」の意味かもしれない。

出てくる単語が「そういえばわかるような気がする」というスペリングなのが笑える。特に4、5行の「sempr」は、音楽用語の「sempre」と関係があるに違いない。

2012年3月18日 (日)

tenerae amabiles

大学祝典序曲のラストを飾る学生歌「Gaudeamus」はラテン語の歌詞を持っている。大抵は4コーラスだ。各々のコーラスの意味は下記の通り。

  1. 青春時代を楽しめ
  2. 大学に栄光あれ
  3. 乙女たちよ健やかなれ
  4. 祖国よ永遠なれ

その3番目は婦人礼賛のテキストだ。「乙女たちよたおやかで愛らしくあれ」と歌われるその場所こそが本日のタイトル「tenerae,amabiles」だ。ブラームス愛好家は「ハハーン」となる。「tenerae」は「teneramente」、「amabiles」はもっとストレートに「amabile」を思い浮かべるに決まっている。インテルメッツォop118-2冒頭に鎮座する「Andante teneramente」は至高の指定で一般に「優しく」と解される。ヴィオラソナタ第2番の冒頭とイ長調ヴァイオリンソナタに「Amabile」があって「愛らしく」と訳される。

音楽用語はイタリア語だから中にはラテン語の語彙がストレートに反映していることがあっても不思議は無い。語源学的には興味深いが、ブラームスが楽譜上に「teneramente」や「Amabile」と記すときに、こうした語源的由来を考慮したかどうかは不明。慎重な取り扱いが必要だ。

2012年3月17日 (土)

ラテン語

ローマ帝国の公用語だ。その後も教会や学問の世界で使われ続けたが、公用語として使われることは無くなった。19世紀まで欧州では初等中等教育の中にラテン語の授業があったという。

クラシック音楽の世界ではしばしば遭遇する。ミサ曲のテキストはラテン語であることが多い。ブラームスにもけして多くはないがラテン語歌詞を持つ作品もある。

昨今のめり込んでいる学生歌にも、ラテン語の歌詞が見られる。代表格「ガウデアムス」の他にも「エルゴ・ビバムス」などが名高い。ドイツ語の歌詞の中にラテン語やイタリア語が混入するチャンポンも見られる。一般人にはなじみの薄いラテン語の歌詞で歌うことが一体感の醸成に役立っていたのかもしれない。

学生歌の歌詞以外にも、学士会関連の語彙にはラテン語起源のものが目立つ。たとえば「Corona」だ。「日輪」の意味がある他、音楽用語として「フェルマータ」の意味が派生しているけれど、学士会用語としては「ご一同」の意味だ。酒宴への参列者一同を表している。「Hoch Corona」と言えば「一同起立」あるいは「乾杯」の意味だという。見事なチャンポンだ。

学生歌には独唱と合唱で交互に歌う曲がある。それらの楽譜や歌集の中、合唱で歌う部分に「Corona」と書かれていることがある。器楽で言う「Tutti」みたいなものだろうが、実に収まりが良い。

2012年3月14日 (水)

美しい整合性

昨年9月16日の記事「未刊の民謡たち」を思い出して欲しい。マッコークルに記載された民謡の手書き譜は、ほとんどが刊行されていない作品のものだった。それでも何とか手掛かりがないかと考え我が家所有の民謡のCDの中に収録されてはいないかマッチングしてみると4曲がヒットした。あの日はそれをじっと喜ぶだけで終わっていた。列挙した4曲の中の1番目に「Alles schweige! Jeder neige」があった。

これは歌い出しの部分だ。この作品のタイトルを見て驚いた。最近滅多に驚かない癖がついているのだが、これには参った。

「Der Landesvater」だった。「国の親」と訳される学生歌だ。大学祝典序曲に引用されている学生歌の一つだ。手書きされた時期は1870年代の終わり頃らしい。大学祝典序曲の作曲時期と近い。民謡としては、未刊行なのも道理である。大学祝典序曲のための準備の一環だったと考えたい。

ブラームスにまつわる調べ物をしていて、この種の思いがけない整合性に出会うのは快感だ。

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