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カテゴリー「119 テキスト」の76件の記事

2021年9月24日 (金)

いわば本歌取り

ヘルティの詩にはブラームスも下記の通り曲を付けている。シューベルト への供給状況との比較が興味深い。

  1. 口づけ op19-1
  2. 五月の夜  op43-2
  3. 忘却の水をたたえた杯 op46-3
  4. 夜鶯に op46-4
  5. すみれに op49-2
  6. 恋歌 op71-5

お気づきの方も多かろう。昨日「五月の夜」について述べたが、上記の赤文字の作品はシューベルトにもあった。順にD194、D196、D428だ。先行作品へのリスペクトを柱に自分の情感を巧みに盛り込むという点で、和歌の世界の「本歌取り 」に通ずるものがありはしないか。先行するシューベルトにとっては預かり知らぬ話だが、追随するブラームスにとっては、思い入れも一入のはずだ。バレて困るのが盗作である一方、本歌取りは見破ってもらわねば困るのだ。シューベルトへのオマージュとしての本歌取りに、ヘルティはうってつけの素材だ。

ブラームスの「本歌取り」がヘルティのテキストに集中する現象は心にとめておきたい。

 

2021年9月22日 (水)

ヘルティラヴ

「月に寄せて」D193のテキストをシューベルトに供給したのはヘルティLudwig Christoph Heinrich Horty(1748-1776)だ。ハノーファー生まれでゲッティンゲン大学に進んだ。やや憂鬱ながら純粋で滑らかな口調の作品を書いたが、28歳で没した。シューベルトへのテキストの供給は以下の通り。

  1. 墓堀人の歌 D44
  2. 月に寄せて D193
  3. 五月の夜 D194
  4. 夜鶯に D196
  5. りんごの歌 D197
  6. 嘆息 D198
  7. 恋する人 D207
  8. 尼僧 D212
  9. 夢 D213
  10. 緑影 D214
  11. 春の歌 D398
  12. 夜の鶯の死に D399
  13. 幼年時代 D400
  14. 冬の歌 D401
  15. 恋歌 D429
  16. 幼い恋 D430
  17. 花の歌 D431
  18. 幸福 D433
  19. 収穫の歌 D434
  20. 嘆き D437
  21. 月に D468
  22. 五月の歌 D503

以上。見ての通りおそくも1816年までだ。そりゃあ知名度はもちろん採用数ではゲーテやシラーには劣るのだとは思う。けれども本当に佳品が多い。有節歌曲の枠内にとどまるならとても優秀な素材だと思える。

 

2021年9月21日 (火)

月に寄せて

シューベルト歌曲の月の歌最高位にはなんといっても「An den mond」D193を推す。テキストはヘルティ。ニ短調8分の12拍子の部分がヘ長調2分の2拍子を挟む3部形式と申しては理屈が過ぎよう。イントロ部、右手に出現する上行3連符の分散和音がひそやかな感じ。左手が低いところで奏でる波のせいで、ここが8分の12拍子だと刻印されているのだが、そこを棚上げにすれば何かに似ている。

そうだベートーヴェンの月光ソナタ第一楽章冒頭の有名な月光の描写だ。命名のもとは詩人レルシュターブの「ルツェルン湖云々」のコメントだ。この詩人シューベルトにもテキストを供給しているから妄想は膨らむ一方だ。作品の成立は月光ソナタに遅れること10年であるから、シューベルトがそのイメージを拝借したかもしれない。

フィッシャーディースカウ先生もご著書の中でこの類似を指摘しておられる。しかし、待ってほしい。レルシュターブの先のコメントは1832年のことなのでシューベルトもベートーヴェンも没した後だ。となると世間がベートーヴェンの嬰ハ短調ソナタを「月光」ともてはやす前に、シューベルトが上行3連符を自作「月に寄す」のイントロに採用したことになる。その方がよほど恐ろしい。レルシュターブのコメント自体がシューベルト「月に寄す」の伴奏音型が着想の根源かとも思えてくる。「月光ソナタ」の命名者がシューベルトに遡りかねない話。

本日中秋の名月。

2021年9月13日 (月)

ヴィトマンの証言

Josef Viktor Widmann(1842-1911)は、スイスの作家、評論家。父は牧師だったが本人の記憶によればかなりな音楽一家に生まれたとある。ホームコンサートの演目にシューベルトがあったという。母はベートーヴェンと交友があり、父はシューベルトと交友があったという羨ましい境遇。で、このヴィトマン本人はブラームスと交流した。結婚を機にスイス・ヴィンタートゥールに住みそこでブラームスとの交友が始まり、その様子が出版されている。ブラームスがいくつかの夏をスイス・トゥーンで過ごしたのはヴィトマンの存在が大きい。避暑の間以外の交友は主に文通だった。

同時代の文学者に対するブラームスの評価が話題になった。ヴィトマンはブラームスが評価する作家の顔ぶれがどうにも保守的だという。しかしこれは食わず嫌いではなく、作品に触れた上でのブラームスなりの評価であったと補足する。同時に世の中の一般的な傾向として、作曲家は同時代の作家には得てして冷淡だとする。文脈からそれが歌曲へのテキストの供給状況を含むと解してよさそうだ。続いてさらに興味深い指摘が続く。作家の方も、同時代の音楽には冷淡だったからお互い様だというのだ。その例として「魔王」に触れたときのゲーテの冷淡な態度を挙げている。

 

 

2021年9月10日 (金)

イェンナーの証言

グスタフ・イエンナー(1865-1920)は恩師マルクセンに頼まれてという事情もあってか事実上唯一の作曲の弟子だ。1895年に1年間ウィーンに滞在してブラームスの教えを受けた。その回想録は音楽之社刊行の「ブラームス回想録集3」に訳出されている。その226ページに「ブラームスと歌曲」と題された章があり、「有節歌曲」という副題がついている。

そこでは作曲の教材として「有節歌曲」が有効だというブラームスの持論が証言されている。シューベルトの作品群のうちとりわけ有節歌曲を好んだというブラームスの嗜好と一致する。テキストを見つけたら、それが有節歌曲として成立するかをまず確認しなさいという指導を証言する。ここでのしくじりは必ず厳しく叱責されたという。有節歌曲になるかならないかの判断にシューベルトの歌曲がよい手本になるという言葉を噛みしめている。シューベルトの歌曲全てを綿密に研究してみろともいわれている。「シューベルトの歌曲ならばどんなものでも何か学べるよ」など、もうシューベルトネタのてんこ盛りである。有節歌曲をベースにテキストの内容に即した少々の気の利いた逸脱まで含めて推奨している。

イエンナーの見解によればシューベルト最高の有節歌曲は「恋人のそばに」D162だという。

2021年9月 7日 (火)

Bach好き

今時「Bach好き」などというタイトルは誤解を招きかねないが今しばらくご辛抱いただいてまずは、以下のリストをご覧いただきたい。

  1. 小川のほとりの若者 D30
  2. 小川のほとりの若者 D192
  3. 春の小川 D361
  4. 小川のほとりのダフネ D411
  5. 小川への感謝 D795-4
  6. 水車小屋と小川 D795-19
  7. 小川の子守歌 D795-20

これらはタイトルに「小川」が出て来る。オリジナルでは「Bach」となっている。そもそも三大歌曲集の1番目「美しき水車小屋の娘」は小川抜きには語れまい。タイトルに小川が現れないにしても小川の存在が前提である。名高い「ます」D550には「Bach」の愛称形「Bachelein」が出て来るほか、頻発する「漁師」(Fischer)関連の作品のいくつかにも「Bach」が出て来る。護岸工事の施されていないのどかな清流のイメージだ。

なぜこんなことを申すかと言えば、ブラームスにはタイトルに「Bach」を含む作品は無い。だからシューベルトの「Bach」好きが際立つ。

 

2021年8月30日 (月)

トカイ賛

名作ひしめくゲーテ&シューベルトの中でひときわ異色なのが「トカイ賛」D248だ。オリジナルは「Lob des Tokayers」というが少々の予備知識がいる。「Tokayer」(トカヤ)はハンガリーのワイン産地の名前。現地語では「Tokaji」と綴る、世界三大貴腐ワインの一角を形成する。もう2つはフランスのソウテルヌとドイツのラインガウかモーゼルだ。3か所のうちトカイだけがハプスブルク領内とあって、ハプスブルク王室に献上されてきた。秋になるとその年の出来映え監査する勅使が派遣されて、専用列車が仕立てられたという。

皇帝おひざ元のウイーンだからその威光は絶大だった。ブドウに付着するカビの力を借りて糖度を高めた独特の甘口で、細かなランク付けがされていて、ドイツ産の「トロッケンベーレンアウスレーゼ」クラスの上級品は高価だったからシューベルトが賞味したかどうかは怪しいけれど、ゲーテならあるいはという気もする。だからその味わいを詩に遺したのだろう。

さあ行くぞとばかりに張りのあるアウフタクトに始まる高鳴るような行進曲調。トカイワインのヴィンテージものを開けるさいの高鳴りと相通ずるものがある。

2021年8月28日 (土)

ゲーテ&シューベルト

ドイツリートの始祖をシューベルトだとするディースカウ先生は、返す刀でゲーテとシューベルトの出会いこそがそのきっかけであったと断言する。1797生まれのシューベルトが作曲を始めた頃、1749年生まれのゲーテはおよそ還暦だった。すでにドイツ最高の文豪の位置にあった。その知名度実績は雲泥の差だったから、出会いというにはいささか後ろめたい。シューベルトがゲーテのテキストに触れたことと言い換えねばならない。ゲーテのテキストを戴くシューベルトの作品をまずは押さえておく。D番号が振られていても未完作品はのぞいている。

  1. D118 糸を紡ぐグレートヒェン
  2. D119 夜の歌
  3. D120 涙の慰め
  4. D121 羊飼いの嘆きの歌
  5. D123 あこがれ
  6. D126 ファウストの一場面
  7. D138 たゆみなき愛
  8. D142 霊の挨拶
  9. D149 歌びと
  10. D160 流れにて
  11. D161 ミニヨンに
  12. D162 恋人の近くに
  13. D210 愛
  14. D215 狩人の夕べの歌
  15. D216 海の静けさ
  16. D224 さすらい人の夜の歌
  17. D225 漁師
  18. D226 最初の喪失
  19. D234 宴会の歌
  20. D247 糸を紡ぐ女
  21. D248 トカイワイン賛
  22. D254 神とバヤデーレ
  23. D255 ネズミ捕り
  24. D256 宝を掘る人
  25. D257 のばら
  26. D258 絆の歌
  27. D259 月に寄す
  28. D260 悲しみの喜び
  29. D261 恋の神を買うのは誰
  30. D295 希望
  31. D296 月に寄す
  32. D310 あこがれ
  33. D321 ミニヨンの歌
  34. D325 竪琴弾き
  35. D328 魔王
  36. D359 あこがれ
  37. D367   トゥーレの王
  38. D368 狩人の夕べの歌
  39. D369 馭者クロノスに
  40. D478 竪琴弾きの歌1
  41. D479 竪琴弾きの歌2
  42. D480 竪琴弾きの歌3
  43. D481 あこがれ
  44. D484 水の上にて歌う精霊の歌
  45. D543 湖上にて
  46. D544 ガニュメート
  47. D549 マホメッドの歌
  48. D558 あらゆる姿をとる恋人
  49. D559 スイスの歌
  50. D673 恋人の記せる
  51. D674 プロメテウス
  52. D715 耽溺
  53. D716 人間の限界
  54. D717 ズライカ2
  55. D719 秘め事
  56. D720 ズライカ1
  57. D726 ミニヨンの歌1
  58. D727 ミニヨンの歌2
  59. D764 ミューズの子
  60. D765 去っていった人に
  61. D766 流れにて
  62. D767 出会いと別れ
  63. D768 さすらい人の夜の歌

お気に入りを赤文字にしておいた。1815年から1824年までの9年間に分布する。全63曲で堂々のリーディングディヒターだ。全573歌曲のおよそ11%という高濃度である。ブラームスではたったの5曲で2.5%にとどまる。ゲーテに対する接し方が対照的だ。

今日はゲーテさんのお誕生日。

 

 

2021年8月23日 (月)

マルクセンの歌曲

一昨日話題にしたマルクセンのCD の話。トラックは全部で17ある。このうち3つはピアノ独奏曲で、残りが歌曲。ほとんどが1830年頃の作曲とされている。シューベルトの没後12年で、シューマンの歌の年の12年前。つまり歌曲の創作史的にはシューベルトとシューマンを繋ぐ位置にある。

作品のタイトルを見てすぐに気づくのは下記。

  1. Das Fischermadchen
  2. Die Wetterfahne
  3. Die Post

1番は「漁師の娘」でハイネのテキスト。シューベルトの「白鳥の歌」の10番目と同じテキストだ。2番は「風見」でウィルヘルムミューラー、3番もウィルヘルムミューラーで「郵便馬車」どちらもシューベルトの歌曲集「冬の旅」収載と同じテキストだ。

ハイネの作品への付曲があるということでハイネとの文通の内容が裏付けされる。シューベルトの遺作「白鳥の歌」がハイネと共通の話題になったことも確実だ。「冬の旅」「白鳥の歌」と同テキストに作曲しているということは、シューベルト作品への高い関心を前提としなければあり得ない。

だからだ。このマルクセンから10代の多感な時期に教えを受けたブラームスの脳みそにシューベルトが刻み込まれなかったはずはない。1862年にウィーンに進出してまず、シューベルト作品の写譜に取り組んだことはむしろ必然ではあるまいか。どこのだれを訪ねよくらいの入れ知恵はあったかもしれないと妄想は膨らむ。

2021年8月19日 (木)

ハイネ

誰がどうやって数えたか、ハインリッヒ・ハイネはドイツリートにおける最大のテキスト供給者だという。眉に唾の特盛だ。採用された作品の総数か、頻度か、あるいは無名作曲家がどのあたりまで考慮されているのかなどいろいろ疑問がわく。ひとまずシューベルトにて調べてみると、没後出版の「白鳥の歌」に6曲ある他は見当たらない。

1797年12月13日生まれだから、シューベルトと同い年。日本風に言うと一学年違うという状態。最初の詩集は24歳の時の出版だからか、同世代ということもあって、作品がシューベルトの目に留まるのも遅れるというものだ。 

それなのに、それなのにリーディングディヒターとは、後につづく作曲家がよほど精力的に取り上げたということだ。ブラームスを調べる。

  1. 春は優しい恋の季節だ op71-1
  2. 夏の宵 op85-1
  3. 月の光 op85-2
  4. 死はさわやかな夜 op96-1
  5. 花たちは仰ぎ見る op96-3
  6. 航海 op96-4

以上6曲とは拍子抜けだ。しかしながらどれもみな美しい。

 

 

 

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