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カテゴリー「122 微調整語」の28件の記事

2016年9月22日 (木)

国定公園

国立公園に準ずる景勝地という意味だ。「国」という漢字が含まれているが、管理は都道府県になる。ひとまず定義は棚上げとして、この「国定公園」の英語訳は「Quasi-National park」となっていた。冒頭の「Quasi」は英語としては浮き上がっている。

「はあぁ」ってなもんだ。

その「quasi」はイタリア語だ。音楽用語として、ブラームスが全生涯で16回使用している用語として、「ほとんど~で」のほか「~っぽく」という解釈を試みておいた。

本件、「国定公園」が「国立公園に準ずる」という意味であるなら「quasi」には「~に準じて」の意味があることになる。「急行」に対する「準急」、「優勝」に対する「準優勝」、「決勝」に対する「準決勝」など、主たる単語の前に付着することで、その意味を減じる効果がある。

「ほとんど~で」「~っぽく」という解釈をしておいたが、そこでは「準じて」の意味が意識されていなかった。つまり「近似」と意識はしていたが、「超えてはいけない」とは感じていなかった。微調整語ではあるのだが、微調整の方向は抑制に限られている可能性がある。

これっておバカ?

2016年9月21日 (水)

ステーキの焼き加減

音楽用語に登場する「ben」は「十分に」と解されている。ブラームスの楽譜上では下記4種の用語しか修飾しない。

  1. marcato
  2. legato
  3. tenuto
  4. cantando

不思議なことにこれらの語は「molto」で修飾されにくい。ずっと不思議に思って調べているが、「十分な」情報が得られない。解決に結びつくとも思えないが、面白い情報があったので書いておく。

ステーキの焼き加減を示す用語がある。

  • レア
  • ミディアム
  • ウエルダン

もはや日本語にもすっかりなじんでいる。このうちの「ウエルダン」をイタリア語では「ben cotto」と言う。「cotto」は「焼いた」という意味だから全体で「十分焼いた」となり、ウエルダンの意味合いになる。ものの本によればけして「molto cotto」とは言わないらしい。「ben」と「molto」はキチンと区別されているのだ。

ちなみに「poco cotto」といえば「生煮え」の意味するようだが、ステーキの「レア」は「al sangue」といい「poco cotto」とは言わないという。何だか深い。

2016年9月18日 (日)

オルトラーナ

「Ortorana」と綴るイタリア語で「菜園風の」という意味。さすがにこれは音楽用語にはなっていない。「Allegro ortorana」などという発想記号があったら楽しいとは思う。ローマ時代の貴族は自宅に菜園があり、そこで取れた野菜を食していた。サラダの起原を調べると出てくる話だ。

イタリアレストランのメニューで「Pizza Ortorana」とあれば「菜園風ピザ」を意味し、野菜が載ったピザが供される。つまり「Pizza con verdura」の気取った言い回しということだ。この「con」は音楽用語でもおなじみだ。

「Allegro con brio」や「Andate con moto」などに見られる。

2015年6月12日 (金)

un poco crescendo

poco意訳委員会の裁定に従えば「いくぶんクレッシェンド気味に」とでも解されよう。

  1. シューマンの主題による変奏曲op9 253小節目
  2. ピアノ四重奏曲第1番op25第2楽章107小節目
  3. ピアノ四重奏曲第1番op25第2楽章299小節目
  4. ピアノ五重奏曲op34第4楽章450小節目

上記の4箇所が存在するだけのレア指定である。一目で気付くのは初期の作品に限られていることだ。しかも全用例を通じて前後のダイナミクス表示が変化しない。つまり「un poco crescendo」は「pp」を「p」にしたり、「p」を「mp」にしたりも出来ないほどの微妙なダイナミクスの揺れと解し得る。起点のダイナミクスは上記の1番が「pp」であるが、残る3例は全部「p」になっている。つまり「f」系には縁のない指定だということになる。

「un」が脱落した「poco crescendo」は全部で90箇所を数える。用例が多いだけに分析の手がかりも多い。同時に存在する複数のクレッシェンドに度合いの差別化をする機能がはっきりと認められるのに対して、「un」が付着してしまうとその傾向もうかがえない。

この微妙さが、普段見過ごされていないか少し心配である。

2013年6月 3日 (月)

トロッポ考

サッカーの結果を報じる欧州の地元紙の見出しは、センスがあって面白い。「言い得て妙」な見出しに頻繁に出会う。本日はそうした話の一つ。

バイエルンミュンヘンの優勝で幕を閉じた12-13欧州チャンピオンズリーグ。ベスト32でバルセロナとACミランが準々決勝進出をかけて対戦した。ファーストレグ、ミランは劣勢の予想を裏切ってホームで2-0の勝利。ひょっとすると大金星かもと、胸をときめかせての臨んだセカンドレグだがカンプノウで0-4と完敗し、合計スコアで逆転されて敗退した。殊勲者はメッシ。神業的な先制ゴールを含む大活躍だった。

翌日イタリアの新聞コリエレデッロスポルトの見出しは「Troppo Messi」となっていた。愛読するサッカー雑誌では「あまりにもメッシ」と和訳されていた。「Troppo」を「あまりにも」と訳している。いやはや名訳である。

ブラームス作品の楽譜上に現れるときは大抵「non troppo」としての登場だ。語幹に据えられる単語の意味が極端に受け取られないような効果がある。「troppo」単独なら「余剰」「過剰」となるが、これが「non」で打ち消されているという構造だ。

関心していたら準々決勝でもまた同じ用法が見られた。バイエルン対ユヴェントスの対戦。こちらは大方の予想通り2戦とも2-0でバイエルンの完勝。その2戦目の翌朝の新聞ガゼッタデロスポルトの見出しが「Troppo Bayern」となっていた。「あまりにもバイエルン」ではなくて「バイエルンは強過ぎた」という訳だった。

両方とも自国クラブの敗退を報ずるイタリア紙だ。イタリア語とりわけ新聞一面の見出しにおいてはポピュラーな表現なのだと思う。

バイエルン・ミュンヘン、3冠。

2012年3月 4日 (日)

無修飾センプレ

楽語「sempre」は「常に~で」と解されて疑われない。大学祝典序曲166小節目に奇怪な用例がある。有名なファゴットのソロによる「新入生の歌」が始まった後、10小節で追いかける第一オーボエのソロ。その立ち上がりに「sempre」が単独で置かれている。

いわば「何も修飾せぬsempre」だ。

我が家のスコアだけではなくて、大学祝典序曲の初版にも存在するから由緒正しい「無修飾センプレ」だ。常に何だというのだろう。

大学祝典序曲最大の謎。

2010年4月10日 (土)

一瞬のきらめき

ブラームスに限らず、特定のダイナミクスを維持したい場合「sempre」を用いることがある。「sempre p」「f sempre」の類である。さらにブラームスは放置しておくと維持が困難な場面にも「sempre」を配置することがある。ブラームスのダイナミクス語最多登場は「p」だが、「sempre」との共存に限れば「pp」にその座を譲る。

さてさて「ブラームスの辞書」では、ブラームスが用いた「mp」に特別の位置付けを与えている。出現時期の極端な分布に加え、出現場所が「おいしい」ことがその根拠だ。

ここだけの話、「mp」は「sempre」との関係でも特異な傾向を示す。「mp」はただの一度も「sempre」に修飾されないのだ。「sempre mp」「mp sempre」が存在しないということに他ならない。ブラームスにとって「mp」は延々と維持継続する対象ではないということだ。同じ事が「f」側でも起きている。それが「poco f:」である。「poco f」もまた「sempre」と共存しない。「mp」と対をなす使われ方だ。

つまり一瞬のきらめきのためにある。

しづ心なく花の散るらむ。

2010年2月27日 (土)

ポコは少しか

何かにつけて「少し」が好きなブラームスについては既に2006年2月15日の記事「Poco意訳委員会」で話題にした。発想用語が極端に受け取られないよういつも注意深く身構えていたのがブラームスだと思う。一見しただけでは速いのか遅いのか判らないようなニュアンスを「微調整語」を駆使してコネ回すのがブラームス流だ。アンチからは叩かれることもあろう。

ドボダスはカバー率4割の段階だが、「poco」の出現についても興味深い傾向を指し示している。「Adagio」「Andante」「Allegretto」「Allegro」を「Poco」が先導するケースが多い。このパターンは難解だ。「Poco adagio」が「Adagio」より速いのか遅いのか即断が難しい。それでもまだ「Poco adagio」と「Poco allegro」については手掛かりがあるけれど「Poco Andante」や「Poco Allegretto」ともなるとお手上げに近い。

  • Poco adagio 7回 ブラームスは9回
  • Poco andante 7回 ブラームスは8回
  • Poco allegretto 2回 ブラームスは6回
  • Poco allegro 7回 ブラームスは3回
  • Poco lento 4回 ブラームスは2回
  • Poco animato 1回 ブラームスは5回
  • Poco meno mosso 8回 ブラームスは無し
  • Poco piu mosso 3回 ブラームスは4回
  • Poco tranquillo 4回 ブラームスは3回

さらに昨日話題にした「quasi」との関連も悩ましい。たとえば「Quasi Andante」と「Poco Andante」の違いなど微妙過ぎる。

カバー率4割の段階でゆめゆめ断言は危険だが、ドヴォルザークもブラームスと同等かそれ以上の「微調整語」のユーザーだった気がする。

2010年2月26日 (金)

クァジスト

私の造語。「Quasist」とでも綴りたい。2005年6月29日の記事「ノントロッパー」でブラームスのニックネームを考案した。「non troppo」という語句の使いっぷりを観察した結果だ。ブラームスは何かにつけて極端を嫌う。発想記号上での断定を注意深く避ける傾向がある。その代表が「non troppo」という言い回しだ。「アレグロ」や「プレスト」が極端に受け取られ過ぎないよういつも気を配っていた。それが「ノントロッパー・ブラームス」の根拠だ。

カバー率で40%に過ぎない仮設ドボダスだが、早くもドヴォルザークの興味深い一面が浮かび上がってきた。それが本日の話題の「quasi」だ。ブラームスがトップ系で「quasi」を用いた例はわずかに7例しかない。それに対してドヴォルザークはカバー率4割の現段階で既に26箇所の用例が確認出来ている。トップ系だけで26というのは異様だ。ブラームスの場合パート系を加えてもわずかに9例が加算されるだけだ。

  1. Allegro vivace,quasi doppio movimento ドゥムカB166-1
  2. Andante con moto,quasi Allegretto スターバトマーテルB71 第5曲
  3. Andante con moto,quasi l'istesso tempo Allegro scherzando 交響曲第5番第3楽章
  4. Andante maestoso,quasi Adagio 劇付随音楽ヨゼフカイェターンティルB125
  5. Andante moderato(quasi tempo di marcia)ドゥムカB166-4
  6. Grazioso e lento,ma non troppo quasi tempo di valse スラブ舞曲第2集8番
  7. Meno mosso,quasi tempo I 主題と変奏B65 第8変奏
  8. Meno mosso,quasi tempo I ワルツB101-1 51小節目
  9. Meno mosso,quasi tempo I ワルツB101-1 127小節目
  10. Meno mosso,quasi tempo I レクイエムB165第11曲
  11. Meno mosso,quasi tempo I 主題と変奏B65 第8変奏
  12. Meno mosso,quasi tempo I フモレスケB187-8 85小節目
  13. Moderato quasi marcia 管楽セレナーデB77第1楽章
  14. Moderato quasi menuetto スラブ舞曲第2集6番B147-6
  15. Piu mosso quasi Allegretto 管弦楽のための変奏曲 第25変奏
  16. Poco meno mosso-quasi Andantino 詩的音画「夜の道」B161-1 87小節目 
  17. Quasi Allegretto エクローグB103-2
  18. Quasi Andante 主題と変奏第6変奏33小節目
  19. Quasi Andante 即興曲B110-1 87小節目
  20. Quasi Andante 即興曲B110-1 173小節目
  21. Quasi Tempo I ドゥムカB64-1 76小節目
  22. Quasi Tempo I 主題と変奏B65第3変奏 23小節目
  23. Quasi Tempo I マズルカB111-6 42小節目
  24. Un poco piu mosso,quasi Allegretto 管弦楽のための変奏曲 第3変奏
  25. Un poco tranquillo,quasi tempo I ヴァイオリン協奏曲B108第2楽章
  26. Vivace(quasi l'istesso tempo) ピアノ五重奏曲B155第2楽章 

ドヴォルザークもブラームス同様、どうも発想用語での断定を避けているように見える。ここでは「ほとんど~で」という解釈が通じるのかという疑念が払拭できない。

クァジスト・ドヴォルザーク。

2008年3月14日 (金)

Allegro molto moderato

生涯で唯一ヴァイオリンソナタ第1番の第3楽章冒頭に鎮座する。

解釈をする上でさっそく壁に突き当たる。真ん中に置かれた「molto」は何を修飾するのかということだ。この問いを要約すると以下の通りである。

  1. Allegro molto + moderato
  2. Allegro + molto moderato

ブラームスにおいて「Allegro」を煽る表現があまり多くないことから上記の2番、つまり「molto」は「moderato」を修飾するという直感が働く。日本語訳をするなら「快速に、くれぐれも程よく」くらいな感じである。「ブラームスの辞書」の結論も2番支持である。

この楽章は「雨の歌」というニックネームの元となった歌曲「雨の歌」op59-3から旋律が丸ごと転用されている。「molto」の修飾相手や意味を考える際の重要なヒントになると感じている。歌曲側の「雨の歌」の冒頭には「In massiger,ruhiger Bewegung」とドイツ語で書かれている。「適度に穏やかなテンポで」という程度の意味だ。この中の「massig」(aはウムラウト)が「適度な」という意味なのだ。ヴァイオリンソナタ側の用語「moderato」が「massig」と呼応しているように思える。「massig」と「moderato」の呼応には他にも例がある。op105-4を背負った歌曲「墓地にて」の冒頭だ。歌のパートに「massig」とある一方で、ピアノ側には「Andante moderato」が置かれている。

歌曲「雨の歌」の旋律をこのフィナーレで引用していることを仄めかす意図がなかったかと想像する。声楽の混じらない作品にドイツ語の発想用語を置かないという原則に照らして、「massig」を「moderato」に転写したのだ。だから「molto」を奉って「くれぐれも」と念を押すのだ。

単純な「Allegro moderato」の変形だと捉えては音楽を見誤ると思う。

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