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カテゴリー「121 再現部」の3件の記事

2007年4月 2日 (月)

主題再帰

「ブラームスの辞書」では「提示済みの旋律が同一楽曲内で再度出現すること」と定義している。「再現部」としてしまうと、いわゆるソナタ形式のそれを想起してしまうので区別している。ソナタ形式の再現部も含むより大きな概念だと思っていただきたい。主題が再度現れることは、何もソナタ形式に限ったことではないので、新たな定義が必要だと考えた訳である。

ブラームスに限らず西洋の音楽、とりわけドイツの器楽曲は、この「主題再帰」を重んじていると思われる。一度提示済みの主題が再度現れる瞬間に誰もが感じるほっとした安堵感こそが音楽の目的ではないかとさえ思っている。そうした仕組みの中でも、もっとも大がかりなものが「ソナタ形式」だと位置づけられる。

最初に提示される主題は「我が家」とでも位置づけられよう。それに対して「主題の展開」「主題の処理」「主題の発展」等々さまざまな命名がされているが、それらをひっくるめて「外出」と捉えたい。「外出」にもさまざまな種類があることとはもちろんだ。角のコンビニまで弁当を買いに行くのも外出なら、週末を利用して温泉に行くのも外出である。この論法で行くなら「主題再帰」は「帰宅」とでも位置づけられよう。

外出に様々な種類があるように「主題再帰」つまり「帰宅」のしかたも様々である。実はこの帰宅の方法つまり「主題再帰」の準備こそが「帰宅」そのものよりも珍重されることが多い。「主題再帰」の瞬間よりも、そこに至る道のりを楽しむという訳だ。何を隠そうブラームスは、帰宅の方法の多彩さにおいて抜きんでた存在なのだ。ブラームス作品の味わいにおいて「主題再帰」はいつも大抵見せ場になっていることが多い。「主題再帰」の道の上にいるのだと自覚する瞬間に何とも言えぬ陶酔感さえ存在するのだ。

何もブラームスにまで用例を求めずとも事は足りる。

たとえば娘たちとのヴァイオリンの練習に使われる教則本で感心することがある。カイザーの1番を例にとってみる。初心者向けの第1ポジション御用達の曲だが、こんな小さな曲にも「主題提示」と「主題再帰」が用意されている。つまり大抵の曲が「ABA’」の形を採っているのだ。ヴァイオリン一本で奏でられる小品なのに、旋律線だけでなく和音進行も一人前の手順が踏まれているのだ。娘たちと練習する際には、どんな練習曲でも最初の日に必ず楽譜の「主題再帰」の場所に鉛筆で線を引くことにしている。娘たちにとっては「この印のところからまた最初に戻るから、弾き慣れた旋律になる」という「ふんばりの目標」になるのだ。少々つらくても我慢させるのだ。その我慢がいつまでなのかの具体的な目標が「主題再帰」の場所なのである。

私の立場から申せば、その印「主題再帰」の場所はオアシスであり「ほっとする場所」であることを教える意味がある。作曲家は再帰の直前にそれ相応の手続きを必ず踏むので、感覚的でもいいからそれを意識させたいのだ。主題再帰部に効果的に戻るために弾き手として何をするのか娘たちと意見を出し合うのだ。必ずしも正解が存在する訳ではないが「クレッシェンドする」「ディミヌエンドする」「リタルダンドする」「少しフェルマータする」等々娘たちが感じてくれればいい。

西洋音楽を志す者にとって、とりわけブラームスであれば尚更、「主題再帰」を幼い頃から意識しておくことには大切だと信じる変なパパである。

2007年3月16日 (金)

piu f sempre crescendo

ブラームスの生涯で唯一弦楽六重奏曲第1番の第1楽章234小節目に存在する。ひとまず「今までより強く、常にだんだん強く」と解しておく。

数小節前から微細なクレッシェンドで着々と準備されてきた再現部の到来である。ヴァイオリンがシンコペートされた重音で華麗に装飾しているが、紛れもない第一主題の再現である。この指定「piu f sempre crescendo」は特定のダイナミクスを表現してはいない。「f」の文字は含まれているが、あくまで「piu f」つまり「今までより強く」という相対的な指示にとどまっている。「f」の字面またはあまりのカッコ良さにつられて、強過ぎるダイナミクスにしてしまうと途端に行き詰まる。246小節目の「ff」に向けたクレッシェンドの斜面の途中であることを肝に銘じなければならない。

このように解することで一つの疑問は帳消しになる。この「sempre」は「piu f」と「crescendo」のどちらを修飾しているかという疑問だ。どちらと捉えても「どの瞬間をとっても常にクレッシェンド」という解釈となる。第一主題の再現自体が長いクレッシェンドの斜面に埋め込まれているということを演奏者に知らしめる効果という点では同等と思われる。234小節からいきなり気合いを入れ過ぎるなという警告も含まれていると考えたい。もちろん、この素晴らしい再現を屁理屈で台無しにしないことが大切である。

何やらポカポカと暖かい南向きの斜面のような気がする。

2006年5月10日 (水)

再現部隠蔽

ブラームスの癖のこと。古来よりいろいろな人によって指摘されているブラームス節の根幹である。狭い意味においては、ソナタ形式の再現部がぼやかされる傾向を指しているが、「ブラームスの辞書」の中では、同一楽曲内において一度提示済みの旋律を再示する場合に単なる繰り返しを避ける傾向にまで対象を拡大して用いている。

ソナタの舞曲楽章では比較的単純な繰り返しが施されている場合が多い。そのものズバリのダカーポが使われていたりもする。

一旦舞曲楽章から離れると、ブラームスは単純なる繰り返しを避ける傾向を隠さない。それらのパターンを以下に列挙する。

  1. 旋律は回帰するものの、調性が違っている。
  2. 調性は復旧するが、旋律が微妙に変奏されている。
  3. 調性は復旧するが旋律は仄めかされる程度。
  4. 旋律も調性も復旧するが、担当する楽器が変わっている。
  5. 旋律も調性も復旧するが、伴奏の音形が変わっている。
  6. 旋律も調性も復旧するが、ダイナミクスが変わっている。
  7. 旋律も調性も復旧するが、テンポが微妙に変わっている。

上記の一つまたは複数に該当するケースがほとんどだろう。一番肝心なことは、再示がどんなに変化していようとも、その変化は聴き手が「あっ再現だな」と気付く範囲にとどまっているということである。聴き手に気付いてもらえなかったら元も子もないのだ。無論、気付くのに要する時間には際限がない。2年たって気付くケースだってありである。

これらは、ブラームスの変奏曲好きとも関係があると思われる。一つの旋律にいろいろな角度から光を当てる行為をブラームスは得意にしていた。「何故変奏をするのか?そこに旋律があるからだ」というノリを容易に想像できる。

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