踏みっぱ
「踏みっ放し」の短縮形。よく娘たちが使っていた言い回しだ。「置きっ放し」を意味する「置きっぱ」や、「出しっ放し」を意味する「出しっぱ」がその代表だ。
ドイツレクイエム第3曲の解説文が末尾のフーガに言及する際に「保続低音」が引き合いに出される。最低部でずっと維持される「D」音の引き延ばしのことだ。ドイツ語では「Orgelpunkt」と呼ばれると付記される。「オルガンポイント」だ。
ドイツレクイエムに親しんで長いからこのことはよく知っていたがオルガンとの関係を軽く考えていた。オルガンの3段楽譜による記譜に慣れてきて初めて実感が伴った感じがする。
オルガン楽譜の最下段、足鍵盤を踏みっ放しの意味だった。左右の手がさまざまな音を弾き続けている中、最低部で同じ音が委細構わずに持続することだ。上2声が協和しない音に触れる瞬間があろうとお構いなしだ。
ブラームスの音楽界での位置付けを決定づけた出世作ドイツレクイエムの核心に、ずっしりと鎮座する確信に満ちたオルゲルプンクトだ。同作品がオルガンの参加を任意にしているのはむしろ控えめだ。ここにオルガンの「踏みっぱ」がなくてどうするというのだ。
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