バッハ風の「2個イチ」型がブクステフーデに出現しない現象について、議論を深めるためにパッヘルベルで調べてみた。我が家所有のCDのブックレットを頼りにあたる。下記の通り「2個イチ」型が発見できた。
パッヘルベルはブクステフーデより14歳年下だが、没年は1年違いで、活躍した時代は重なっている。バッハよりざっと半世紀遡る。2個イチ型の不存在は時代の違いとは言えない。
2個イチ不存在は地域の特色だという可能性もある。もっとサンプルが欲しい。
ブクステフーデのオルガン作品にバッハ風の「2個イチ」型が見つからないと書いた。ところが、ブクステフーデの「前奏曲」の内部を調べると「フーガ」が出て来る。
前奏曲やトッカータの内部に「フーガ」に相当する箇所が混入しているということだ。異なるエピソードを挟んで「フーガ」が2回出て来ることもある。バッハの「2個イチ」型の後半が必ず「フーガ」であることから「フーガ」を聴かせることが目的と推測したが、「フーガ」を必ず聴かせるという意味ではブクステフーデも同じだった。
バッハのオルガン自由曲には2曲一組を標榜するものが多い。「前奏曲とフーガ」「トッカータとフーガ」「幻想曲とフーガ」などなど。どれにも「フーガ」が入っている。「フーガ」を聴かせることが目的で、その前に「前奏曲」「トッカータ」「幻想曲」が置かれると申していい。
ところがだ。ブクステフーデのオルガン自由曲41曲には、このパターンが1曲もない。
以上だ。
ブクステフーデの作品は自筆譜が残されておらず、すべて他人の筆写譜による伝承だ。我々の眼前に残された作品は幸運の賜物だ。散逸した作品の中に、「前奏曲とフーガ」があったこもしれないから断言にはなお慎重を要する。偶然の産物であるなら、なぜ、バッハ型2個イチが偶然1つくらいは残ってもよさそうなものだ。筆写するに足る優秀な作品が「2個イチ型」にはなかったということか。
「弦楽四重奏のための大フーガ」変ロ長調op133は、高校生の私の憧れ。難解さに憧れていた感じ。ももと13番の弦楽四重奏のフィナーレとして書かれたものの、ベートーヴェン本人が改作した折に削除されて独立曲として出版されたという。
突っ込みどころ満載だが、なんといっても第一ヴァイオリンによって奏される第一フーガの主題だ。ピアニシモで4分の4拍子の弱拍上にタイで連結された2連8分音符がおかれる。高校時代の私は「なぜ4分音符じゃないのだろう」と疑問をもった。さまざまな書物をあたったがこの疑問を解く情報にはありつけていない。テヌート付与の4分音符では代替出来ぬというベートーヴェンからのメッセージに違いないとだけは思っていた。
変な高校生だ。
「踏みっ放し」の短縮形。よく娘たちが使っていた言い回しだ。「置きっ放し」を意味する「置きっぱ」や、「出しっ放し」を意味する「出しっぱ」がその代表だ。
ドイツレクイエム第3曲の解説文が末尾のフーガに言及する際に「保続低音」が引き合いに出される。最低部でずっと維持される「D」音の引き延ばしのことだ。ドイツ語では「Orgelpunkt」と呼ばれると付記される。「オルガンポイント」だ。
ドイツレクイエムに親しんで長いからこのことはよく知っていたがオルガンとの関係を軽く考えていた。オルガンの3段楽譜による記譜に慣れてきて初めて実感が伴った感じがする。
オルガン楽譜の最下段、足鍵盤を踏みっ放しの意味だった。左右の手がさまざまな音を弾き続けている中、最低部で同じ音が委細構わずに持続することだ。上2声が協和しない音に触れる瞬間があろうとお構いなしだ。
ブラームスの音楽界での位置付けを決定づけた出世作ドイツレクイエムの核心に、ずっしりと鎮座する確信に満ちたオルゲルプンクトだ。同作品がオルガンの参加を任意にしているのはむしろ控えめだ。ここにオルガンの「踏みっぱ」がなくてどうするというのだ。
バッハのオルガン自由曲についてピカルディ終止の採用状況を考察したのだから、それをブクステフーデに展開する。
BuxWV136からBuxWV176まで、42曲のうち、断片のBuxWV154とフリギア調を採用するBuxWV152を除外し、長調の作品22曲を控除した18曲の短調作品が母数となる。
ああ。
おどろくべき結果となった。
ブクステフーデの短調のオルガン自由曲は全てピカルディ終止を採用していた。わずかながら短調のまま終わる作品もあったバッハと違い、一つの例外もなくピカルディ終止だった。
しからば 、バッハのオルガン自由曲の中にピカルディ終止を用いた作品がどれだけあるのだろうか。
BWV525からBWV591まで67曲をベースに考える。この中から断片が伝承されるBWV573を除く66曲をひとまず意識する。この時点で長短比率がピタリ50%ずつになることに軽く驚かされる。短調作品33曲の中から最新の研究によりバッハ作でないものを控除する。すなわちBWV554、555、558、559の4曲をのぞいた29曲となる。
この中には我が家に楽譜がない作品もあるにはあるが、幸いピカルディ終止かどうかは聴けばわかるのでカウントは容易い。
結論を申せば18曲がピカルディ終止だ。54.4%に相当する。
バロック音楽によくある終止形。
詳しい定義は知らぬが、おおむね短調の作品が最後の和音で、同主長調に転じて終わることだ。曲の途中に同主長調に転調するのとは区別されているらしい。第一交響曲のフィナーレはハ短調で始まってハ長調で終わってはいるが、「ピカルディ終止」ではないという。
さてさて、ブラームスにはオルガンのための「前奏曲とフーガ」が2つ伝えられている。イ短調とト短調だ。このうちのイ短調ではピカルディ終止は採用されていないけれど、ト短調の方は、前段の前奏曲も後段のフーガも、どちらもピカルディ終止になっている。
バロックっぽい感じが出る。
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