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カテゴリー「149 緩徐楽章」の7件の記事

2015年12月10日 (木)

頂点としての7小節

ヴァイオリンソナタ第2番第二楽章の話。同楽章は表向き緩徐楽章の体裁を採る。形式として無理やり表すとABABABだ。あくまでも無理やりで、提示される都度味わいが微妙に変わるのがブラームスの流儀だ

最初の部分、超々遅いAndante tranquillo。この楽章が何故4分の2拍子なのか、凡人には測りかねる。おかげさまでブラームス作品では唯一64分音符を観察できる。それはさておき2小節目から3小節目にかけて現れる「F-C-D/C-AーB/A-C」という連なりをご記憶いただく。
13小節目からこの音形がまた現れる。やがて「A→D」で収まって「Vivace」を準備する。スケルツォ代わりのBの部分が終わって第一主題が戻るのが72小節目だ。この時冒頭のヘ長調は巧妙に転調されてニ長調になる。旋律としては再現しているのに調が別というのはよくあるブラームス節だ。79小節で調性は原調のヘ長調に戻るのだが、今度は旋律が戻らない。これもよくあるじらし。81小節目付近からもやが晴れるようにもとの旋律が戻ってくる。84小節目に先にも紹介した「F-C-D/C-AーB」が復帰することで聞き手はやっと安堵する。
そしてブラームスはそこからサプライズに入る。すんなりVivaceに行くかと見せかけて、85小節目からの回り道を用意する。そこから7小節間が、本室内楽ツアー屈指の絶景だ。理屈は要らない。同楽章中唯一の「p espressivo」があてがわれている。この7小節間の位置づけを巧妙に示してあると見た。
やがてAndante主題が三現する。150小節目だ。例の「F-C-D/C-AーB/A-C」は154小節目に用意されるが、頂点の7小節はあえなくカットされている。
ヴァイオリンソナタ第2番の頂点というべき瞬間だ。

2015年11月21日 (土)

移調の狙い

弦楽五重奏曲第1番ヘ長調op88の話題。第二楽章冒頭には、1854年春にデュッセルドルフで作曲された「2つのサラバンドWoW5-1」イ短調が引用されている。同楽章の中間部には1855年春に作曲された「2つのガヴォット」WoW3-2」イ長調が出現する。弦楽五重奏曲への採用にあたり、ガヴォットの方は原調のままのイ長調なのに対し、冒頭を飾るサラバンドは、イ短調から嬰ハ短調に移調されている。

ヘ長調の第一楽章に嬰ハ短調の緩徐楽章が続くのは、斬新だ。しかも冒頭のE音にいきなりシャープ付着しているので、事実上嬰ハ長調が鳴る。ここいらへんの調性採用の感覚は凡人の理解する域を超えている。そのままイ短調(事実上イ長調)でも不自然ではないのに、わざわざ嬰ハ長調を採用するとは。

出版に立ち至らなかった若い頃の作品を、容赦なく廃棄するブラームスなのだが、このサラバンドは美しい例外を形成している。特に後半9小節目の美しさは、身を引きちぎられる思いだ。弦楽五重奏でなく、原曲のピアノ独奏で聴くのも味わいが深い。

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2015年7月30日 (木)

「mesto」が似合う調

「悲しげに」と解される。ブラームスは下記の2回「mesto」を使用しているが、単独では用いていない。またパート系には出現しない。

  1. ホルン三重奏曲作品40第三楽章冒頭「Adagio mesto」
  2. インテルメッツォ作品118-6冒頭「Andante,largo e mesto」

ベートーヴェンも2回しか使っていない。ラズモフスキー四重奏曲第一番と、7番のピアノソナタどちらも緩徐楽章に現れる。ブラームスもベートーヴェンも「短調の遅い音楽」に使用している。おまけにブラームスの場合、2例とも変ホ短調になっている。全部で8つしかない貴重な変ホ短調である。フラット6個の調号が楽譜に座っているだけで、演奏前から重々しい気分が充満する。平行長調の変ト長調はさらに少なく作品33-8の歌曲に1回だけしかないので、この調号もっぱら変ホ短調用である。嬰ニ短調と見てもシャープ8個になってしまうし、アマチュアには鬼門である。そのあたりのうらぶれた感じがこの調の特徴かもしれない。

2010年7月 5日 (月)

Lento

アメリカ四重奏曲の中で、とりわけ気に入っているのは第2楽章だ。ニ短調8分の6拍子で歌われるエレジー。ドヴォルザーク緩徐楽章の最高峰だと思っている。

その楽章冒頭の発想記号こそが、本日のお題「Lento」だ。ちょっとしたサプライズを形成する。ソナタの緩徐楽章が「Lento」になっているというのは珍しい。少なくともブラームスには例が無い。ベートーヴェンには一箇所、弦楽四重奏曲第16番ヘ長調の第3楽章「Lento assai, cantabile e tranquillo」だけだっと思う。

試験に出たら「ゆっくりと」と書けば罰点をくらうことはないが、「Adagio」との違いを50文字以内で述べよとでも問われたら、難易度が半端でなく高まる。ブラームスはソナタの緩徐楽章においては「Lento」を用いていない。おそらく区別していたと感じる。

ドヴォルザークは無視し得ぬ数の「Lento」を使っているが、ソナタの緩徐楽章では、おそらくこのアメリカ四重奏と最後の弦楽四重奏曲第14番変イ長調のみだ。

何だか味わいが深い。

2010年5月29日 (土)

神業

ちょっとあり得ないテクニックのことか。もちろん誉め言葉だ。

ブラームスの多楽章器楽曲は一部の例外を除いて緩徐楽章が置かれている。本日は試しにこれらを列挙してみる。

<Adagio系>

  1. ピアノ三重奏曲第1番ロ長調op8初版 Adagio
  2. ピアノ三重奏曲第1番ロ長調op8改訂版 Adagio
  3. 管弦楽のためのセレナーデ第1番ニ長調op11 Adagio
  4. ピアノ協奏曲第1番ニ短調op15 Adagio
  5. 弦楽六重奏曲第2番ト長調op36 Adagio
  6. ヴァイオリン協奏曲ニ長調op77 Adagio
  7. ヴァイオリンソナタ第1番ト長調op78 Adagio
  8. ヴァイオリンソナタ第3番ニ短調op108 Adagio
  9. 弦楽五重奏曲第2番ト長調op111 Adagio
  10. クラリネット三重奏曲イ短調op114 Adagio
  11. クラリネット五重奏曲ロ短調op115 Adagio
  12. チェロソナタ第2番ヘ長調op99 Adagio Affettuoso
  13. ホルン三重奏曲変ホ長調op40 Adagio mesto
  14. 管弦楽のためのセレナーデ第2番イ長調op16 Adagio non troppo
  15. 交響曲第2番ニ長調op73 Adagio non troppo 
  16. ピアノ五重奏曲ヘ短調op34 Andante un poco adagio
  17. クラリネットソナタ第1番へ短調op120-1 Andante un poco adagio 
  18. ピアノ四重奏曲第2番イ長調op26 Poco adagio
  19. 弦楽四重奏曲第1番ハ短調op51-1 Poco adagio 

<Andante系>

  1. ピアノソナタ第1番ハ長調op1 Andante
  2. ピアノソナタ第3番へ短調op5 Andante 
  3. ピアノ四重奏曲第3番ハ短調op60 Andante
  4. 弦楽四重奏曲第3番変ロ長調op67 Andante
  5. ピアノ協奏曲第2番変ロ長調op83 Andante
  6. 交響曲第3番ヘ長調op90 Andante
  7. ヴァイオリンとチェロのための協奏曲イ短調op102 Andante
  8. ピアノソナタ第2番嬰へ短調op2 Andante con espressione
  9. ピアノ四重奏曲第1番ト短調op25 Andante con moto
  10. ピアノ三重奏曲第2番ハ長調op87 Andante con moto
  11. ピアノ三重奏曲第3番ハ短調op101 Andante grazioso
  12. 弦楽六重奏曲第1番変ロ長調op18 Andante ma moderato
  13. 弦楽四重奏曲第2番イ短調op51-2 Andante moderato
  14. 交響曲第4番ホ短調op98 Andante moderato
  15. ピアノソナタ第3番ヘ短調op5 Andante molto
  16. 交響曲第1番ハ短調op68  Andante sostenuto
  17. ヴァイオリンソナタ第2番イ長調op100 Andante tranquillo
  18. ピアノ五重奏曲ヘ短調op34 Andante un poco adagio
  19. クラリネットソナタ第1番へ短調op120-1 Andante un poco adagio 

上記に出現しない3曲をお判りいただけているだろうか。緩徐楽章が無いのがチェロソナタ第1番とクラリネットソナタ第2番だ。緩徐楽章が「Andante」でも「Adagio」でもないのは唯一、弦楽五重奏曲第1番ヘ長調で、これだけは「Grave ed appassionato」になっている。

さて私が神業と感じる理由を述べる。ブラームス多楽章器楽曲に出現する緩徐楽章では、「Andante」と「Adagio」の数がどちらもピッタリ19作品になる。「Adagio」側にはピアノ三重奏曲第1番が初版と改訂版を別にカウントしているが、一方で「Andante」側では、ピアノソナタ第3番において緩徐楽章が第2楽章「Andante」第4楽章「Andante molto」という具合に2度出現していることで相殺されている。

最後のソナタはop120を背負う2つのクラリネットソナタだ。そのうちの1番へ短調の第2楽章で、「Andante un poco adagio」が登場し19対19になる。最後のソナタ2番変イ長調に緩徐楽章が無いことで、タイスコアのままタイムアップになった。

2008年2月 4日 (月)

ニ短調の緩徐楽章

誰にでもあるのかどうかはわからないが、私はたまにある。特にブラームスに関してだ。根拠を言葉で説明出来ないのに、ある考えが頭から離れないというケースのことだ。本日の話題はその手である。

多楽章の器楽曲においてブラームスは大抵緩徐楽章を置く。室内楽24曲、交響曲協奏曲8曲、ピアノソナタ3曲の計35曲のうち、緩徐楽章が無いのはチェロソナタ第1番くらいだ。全34個の緩徐楽章のうちニ短調になっているケースが2回ある。弦楽六重奏曲第1番作品18と弦楽五重奏曲第2番作品111だ。前者は1860年出版、後者は1890年だ。きっかり30年を隔てる両者は、弦楽器だけの室内楽の第一作と最終作になっている。この両者はニ短調であること以外にも何だか共通点が多い。

  1. 第二楽章に置かれている。
  2. 変奏曲になっている。
  3. ヴィオラが旋律を受け持って立ち上がる。
  4. 曲の末尾で冒頭の主題がほぼ原型のまま回想される。
  5. 4分の2拍子である。

他にもある。前者はリピート記号だらけなのであくまでも参考だが、作品18が159小節で作品111が80小節と倍の開きがある一方、後者は前者の倍のテンポになっている。

弦楽六重奏曲第1番の第2楽章。このほとばしるニ短調にどれほど胸を熱くしたことだろう。ベートーヴェンからブラームスへの嗜好の転換を決定づけた交響曲が第2交響曲だとすれば、室内楽ではこの六重奏曲とりわけ第2楽章だと申していい。室内楽といえばベートーヴェンの弦楽四重奏ばかり聴いていた若造の心を真正面からえぐったような感じだ。恋の相談をしたらベ-ト-ヴェンよりも聞いてくれそうなのがブラームスと感じたのだ。この第2楽章は回答の代わりの身の上話を聴いている感じだ。

さて何だかベートーヴェンのラズモフスキー1番の緩徐楽章にも似ている作品111の緩徐楽章は、作品18の変奏曲の解答なのではないだろうか。根拠レスながらこれが頭にこびりついて離れない。作品18の変奏曲がピアノ独奏に編曲してクララ・シューマンに捧げられたのだから、当然作品111の方もクララへの告白でなければならぬ。類似点がかなりありながら、いささか肩に力の入った前者に比べ後者はすっきりと力みがない。水が低いところに流れ下るように必然性だけで音楽が進行しているかのようだ。肩の力を抜くというのはこういうことなんだという好例である。

さて作品111の五重奏曲を書き終えてブラームスが創作意欲を失った話は、どんな伝記にも大抵載っている。創作意欲を失ったのではなく、クララへの解答を為し終えた安堵感だったなどというオチもひょっとするとひょっとするかもしれないと感じている。

根拠の無い直感である。根拠は無いが、愛情だけはあるつもりである。

2005年11月17日 (木)

緩徐楽章の位置

四楽章制を採用するソナタ26曲に話を絞る。

  • ピアノ三重奏曲第一番
  • ピアノ四重奏曲第一番
  • 弦楽六重奏曲第二番
  • ピアノ四重奏曲第三番
  • ピアノ協奏曲第二番
  • ピアノ三重奏曲第三番

これが、何のリストかお気づきになるだろうか?今回の記事のタイトルが良いヒントになっている。これら6曲は緩徐楽章が第三楽章に来ている。逆にいうとこれら以外の20曲は緩徐楽章が第二楽章になっているということだ。

緩徐楽章の位置は古来、第二楽章だった。多分ベートーヴェンが第九交響曲で、第三楽章に持ってきてから分岐が始まったように思う。以来、緩徐楽章は第二楽章と第三楽章を行き来する。この基準はいったいどこにあるのか?ブラームスは何を基準にこれを書き分けていたのだろうか?調性、曲種、拍子、発想記号、作曲年代等何か傾向があるのか?

すぐにわかること。それは交響曲。交響曲の緩徐楽章は全て第二楽章になっている。次いで弦楽四重奏曲も同様だ。これらはベートーヴェンの得意分野、いわゆるホームである。この場合、第三楽章に典型的なスケルツォが来ないことも共通している。

それから二重奏で緩徐楽章を第三楽章に持ってきたことはないと言いたいところだが、二重奏は、そもそも三楽章制のソナタが多いのでアテにならない。ソナタを三楽章制にするか四楽章制にするかの基準も相当難解だったが、こちらもそれに匹敵している。

さっぱり尻尾をつかませてくれない。

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