見切りの根拠
記事「舞曲てんこ盛り」で、舞曲ネタの連発をブラームスは咎めぬはずだと書いた。その後昨日までの記事3本で、そう見切った根拠の一つを提示した。ブラームスもクララも私ごときが気づく舞曲のドイツローカルルールを知っていた。学びの初期の段階でドイツの古い音楽を体系的に仕込まれたブラームスが知らぬはずはない。
だから本ブログでの舞曲ネタの連発をブラームスが咎めることはない。エッヘン。
記事「舞曲てんこ盛り」で、舞曲ネタの連発をブラームスは咎めぬはずだと書いた。その後昨日までの記事3本で、そう見切った根拠の一つを提示した。ブラームスもクララも私ごときが気づく舞曲のドイツローカルルールを知っていた。学びの初期の段階でドイツの古い音楽を体系的に仕込まれたブラームスが知らぬはずはない。
だから本ブログでの舞曲ネタの連発をブラームスが咎めることはない。エッヘン。
1855年と言えば、世はまさにロマン派まっただなかだ。シューマン、ショパン、リストなどが働き盛り。メンデルスゾーンの記憶さえ新しいころだ。ショパンに限らず、みなピアノのキャラクターピースを主戦場と定めて個性を競っていた。ベートーヴェンの時代にはフェアウェイの中央だったソナタはむしろ異端でさえあったくいらいだ。
その年のクララの誕生日にブラームスは小品をプレゼントする。恩師シューマンの妻にして当代最高のピアニスト・クララに、無名のブラームスが自作を奉ったのだ。そのためにブラームスが選んだのは、ロマン派お得意のキャラクターピースではなかった。古典舞曲の集合体としての組曲を贈ったのだ。すべて同じイ短調が貫かれるという構成、舞曲の選択に至るまで等身大のバロック舞曲集だ。
受けたクララは、これを「完全な組曲」と認識する知見の持ち主だった。シューマン、ベートーヴェンと並んでバッハ解釈でも当代一の泰斗だったクララのお眼鏡にかなう作品を贈ったブラームスは、このとき弱冠22歳だ。この若さで、大切な人へのプレゼントに古典舞曲の集合体たる「組曲」を選ぶセンスは、天性かはたまた教育のたまものが、にわかには判じ難いが、なんだかとてもうれしい。
これだけでブログ「ブラームスの辞書」がバロック特集を展開する価値がある。
バロック時代のオルガン作品に舞曲が見当たらないという現象を論じている。
ここに一枚のCDがある。2017年の録音。ジャンチャールズアブニッツァーというオルガニストの演奏だ。「ヨーロッパの舞曲とポリフォニー」というタイトルだ。収録された作曲家を没年順に列挙する。
必ずしもドイツ系とは言えなそうな名前もある。タイトルからすぐには舞曲と感じないものもあるし、聴いてもわからん曲もある。でも確かにオルガンで舞曲が弾かれているはずだ。バロック時代の定義を1600年以降とするなら、このメンバーの3分の2はバロック前だ。
10番目のプレトリウスの作品として「クーラント」がオルガン演奏で収録されている。我がブログの主張を根底から覆す反証だ。
楽しくなってきた。
初期バロック時代のイタリアの作曲家。鍵盤楽器用作品を数多く残した。
彼のオルガン作品の中にコレンテという舞曲があるという情報をキャッチした。流布しているCDを発見できていない。もしも実在するなら、「オルガン作品に舞曲は現れない」という命題の反証になる。あるいはドイツに限ってはという詞書の付与が必要になる。
彼の作品は鍵盤用作品としてくくられて語られることが多い。チェンバロ用なのかオルガン用なのか見極めたい。
シャコンヌを例外として、オルガン作品の中に舞曲が現れないと書いた。「アルマンド」「クーラント」「サラバンド」「ジーク」「ブーレ」などがオルガン作品に出現しない現象のことだ。
バッハ、テレマン、ブクステフーデ、パッヘルベルを見ただけの段階で仮説として提起した。記事「オルガンボックス」で我が家所有のオルガン作品のCDに登場する作曲家に範囲を広げても、同仮説が成り立つ。全集を所有している作曲家ばかりではないから、ゆめゆめ断言は慎みたいのだが、我が家所有のCDには舞曲がオルガン作品に現れない。
オルガンは教会そのものだ。教会ソナタから舞曲が謝絶されている現象と同根と考えたい。
チェロ組曲とともにバッハ無伴奏作品の双璧を形成する無伴奏ヴァイオリン作品はソナタとパルティータ各々3曲から構成される。このうちソナタは言わゆる「教会ソナタ」で舞曲を含まない一方、パルティータは舞曲の集合体だ。記事「Hortus musicus」で、ラインケンの室内楽の代表作に言及した中で、その楽章構成を下記の通り指し示した。
第2楽章以下がフローベルガーの定義を満たしていると書いた。
この第一楽章と残り4つの楽章が分割されたのが、ソナタとパルティータだということだ。古来両者は一体だったのだが、やがてソナタ部分と舞曲部分に分離独立したということだ。バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータは分離の過渡期がそのまま保存された化石のようだ。
ソナタ、パルティータ各3曲で、調性の不一致に目をつむればソナタとパルティータ各1曲一組とみなしうる。前半部分は後継の舞曲に対する序奏が起源だから舞曲を含まぬのは当然だ。ここに教会ソナタの名称が奉られたものと推察される。序奏ソナタに離脱された後半分は舞曲の集合体となり、やがては「室内ソナタ」と称されるに至る。
最大の疑問は、分離の前半部分、つまり舞曲を含まぬ方に「教会ソナタ」と命名し、後半部分、つまり舞曲の集合体側が「室内ソナタ」になったのかだ。
フローベルガーのチェンバロ組曲を集めたCDが手元にある。「14の組曲ストラスブルク手稿譜」だ。成立は1675年で、フローベルガーの没後に写し取られた楽譜だ。チェンバロ組曲14作が収められている。その舞曲の並び順を以下に示す。調性とアドラー番号を添付する。A:Allmande/C:Courante/S:Sarabande/G:Gigue
11番目Suite14の第一楽章は「Lamnento」となっている。14番目はアドラー番号なしで、全体が3つの楽章でできている。
一見してAGCSが多い。14曲中9曲が「Allmande」「Gigue」「Courante」「Sarabande」という順序になっている。一方、フローベルガーが確立したとされる「ACSG」はわずか3例に過ぎない。フローベルガーが確立したはずの曲順になっていない組曲の方が3倍も優勢だ。
フローベルガーを論ずるさまざまなソースを見るに、組曲における舞曲配置を決めたのがフローベルガーだとする論説の一方で、フローベルガー自作における逸脱を疑問として提示する指摘も存在する。
「アルマンド」「コレンテ」「サラバンド」「ジーク」という配列のことだ。
ところが、CDのブックレット頼りに様々な作曲家について調べると、必ずしも守られていない。ドイツ系といわれている作曲家については60%の作品で順守されているのだが、イタリアではほぼ無視されている。さまざまなソースが、フローベルガーの自己矛盾だけを指摘する一方、イタリアで無視されていることには不思議と言及が見られない。
伝フローベルガー作のこの順序は、ドイツ語圏でのみ有効と解される。当時の音楽の本場がイタリアだったかどうかはともかく、このルールはドイツのローカルルールであったと結論づけたい。
舞曲は、バロック時代の世俗器楽作品の中枢を占める。原産国、拍子、テンポなど多岐にわたりとても楽しい。踊りの性格を徐々に薄め器楽作品のジャンルに特化していたこと周知のとおりだ。
我が家所有のCDで最古の舞曲が「テルプシコーレ」舞曲集だ。ミヒャエル・プレトリウスが1612年に出版したもの。「Terpsichore」と綴る。ギリシャ語で「舞踏の女神」に由来する。300を超える舞曲集なので我が家のCDは全集ではない。フランス宮廷で演奏されていた旋律集の性格を帯びている。プレトリウスは厳密には編曲者であり、作曲者ではない。旋律を示され、内声やベースラインを付与したに過ぎないという。旋律をベースライン付きで受け取ったか、旋律だけを受け取ったのかが明示されているという。この手の厳密さはブラームスのハンガリア舞曲に対する姿勢と共通するものがある。
本曲集の後に、イタリア、ドイツ、スペインの舞曲集を出す予定だったが実現していない。
ブックレットに現れる舞曲名を列挙する。
バッハにもみられるのが、ガイヤルド、ブーレー、サラバンド、クーラントなどだが、フロ-ベルガーの規格を構成するジーク、アルマンドが見当たらない。ガヴォットもない。全300のリストがないからこれ以上の推測は野暮というものだ。
イタリア、ドイツ、スペインの舞曲集が出ていたらどんなに楽しかったことか。
ブクステフーデの「Wachet auf」のCDに興味深い演奏が混入していた。ヨハン・ハインリッヒ・エルレバッハのソナタ6番ヘ長調。ピッコロヴァイオリンとガンバと通奏低音のためのソナタだ。
先のCDは、バッハとブクステフーデの聞き比べが出来るとほくそ笑んだが、地味に混入していた同ソナタの可憐ないでたちにハッとさせられた。慌ててブックレットを読み込んだところ以下の5楽章から成り立つとわかった。
なんということか。「アレマンド」「クーラント」「サラバンド」がこの順番で並ぶ上に「ジーク」がフィナーレに来ているではないか。先にさんざん話題にし、「単なるドイツのローカルルール」と結論付けた「ACSG」そのままだった。作曲者エルレバッハはバッハより28歳年長のドイツの作曲家だから、「ドイツローカル」という仮説を補強する材料だ。
まあ、しかし作品の可憐さに比べれば枝葉末節だ。
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