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カテゴリー「160 ブラームス節」の62件の記事

2017年8月27日 (日)

文体

文章表現上の特色のことだろうか。筆者の個性による言い回しの癖と解されよう。有名作家間の言い回しの特徴を比較したり、同一作家における表現の時系列的な変化の研究を総称して文体論と呼ばれている。

ブログを長く続けていると、文体めいたものがおぼろげながら構築されて来る。筆者である私自身は気付かない幾多の特徴がブログ記事に刻印されているものと思われる。具体的に心がけているのは「簡潔な表現」だ。ねちねちとした系統の話が多いから、粘るような文体だともたれる。

おそらく、音楽にもあるのだと思う。作曲家毎に異なる様式がある。

ブログ「ブラームスの辞書」のカテゴリーにもなっている「ブラームス節」が、おそらくそれに該当するのだと考えている。

2015年8月 9日 (日)

逆転の3度進行

3度好きのブラームスにあっては、旋律が3度でパラレルに進行することは珍しくない。おいしい場所であることは折り紙付きだが、あまり頻繁に見かけるので、さすがに「ブラームスの辞書」でも全部を数えるなどという芸当は出来ていない。

さて3度で旋律を進行させる場合、3度を形成する各々の声部にどのような楽器をあてがうかも興味深い。一般通念上低いとされる楽器が上の声部を担当するケースがしばしば出現して、マニアを狂気させている。

もっとも有名なのが第2交響曲第1楽章の82小節目だ。いわゆる第2主題といわれる部分。チェロの3度下にヴィオラが潜り込んでいる。「This is Brahms」という表現がピッタリの芳醇な響きがする。おまけにどちらのパートにも大変珍しい「Cantando」という言葉が奉られていて、ここが並みの場所でないことが明示されている。上で旋律を弾くチェロもだろうが、チェロの下に潜り込むヴィオラの快感もただ事ではない。

まだある。弦楽四重奏曲第2番第1楽章の第2主題だ。46小節目で初めて提示されるときには両方のヴァイオリンが3度で進行する。もちろん上の声部は第1ヴァイオリンだ。62小節目で提示の確保が行われるときには、旋律はオクターブ下に移されてヴィオラが奏することになるが、ヴィオラを3度下から支えるのは一回目と同じく第2ヴァイオリンなのだ。同じ旋律が響きを微妙に変えて提示されていて興味深い。まさに逆転の3度を味わうためにある部分なのだ。

ヴィオラがチェロの下に潜っては大騒ぎ、セカンドヴァイオリンの上に出たと言っては大はしゃぎの、いけないヴィオラ弾きである。

2012年12月21日 (金)

いきなり借用

ふくだもな五重奏団がチャレンジするピアノ五重奏曲の第三楽章スケルツォは、調号としてフラットが3つ奉られている。そこでいきなりチェロがC線解放弦の「C音」を放って立ち上がるのだから、そこにハ短調を期待するのが人情というものだ。

ところが3小節目でいきなり問題が提起される。第一ヴァイオリンとヴィオラは「As音」から旋律を立ち上げるからだ。最初の1小節は変イ長調の主和音「As-C-Es」になっている。期待されるのはハ短調「C-Es-G」だから、「G音」が半音違いの「As音」の差し替えられた形だ。本来来るべき和音の代わりに別の和音を持ってくることを借用というのだが、ここではそれが楽章冒頭の旋律提示の段階でいきなり現れる。チェロ解放弦の「C音」は根音ではなくて「第3音」でしたというオチ。

勝手にハ短調「C-Es-G」を期待する聞き手に肩透かしをかましてはぐらかしつつ、リズムもスラーが頻繁に小節線を跨ぐ。さらにダイナミクスは曰くありげなピアニシモ。何かを隠した薄明かりの中を手探り状態で進む。

同じ和声の枠組みがピアノ協奏曲第1番の冒頭にも見られる。調号にフラット1個を奉り、低い音域で「D音」がフォルテシモで放たれるから、誰もが期待するニ短調と思いきや、第一ヴァイオリンとチェロが「変ロ音」でなだれ込む。この手法をそのままに主音をD音からC音に差し替えたのが、ピアノ五重奏だ。ダイナミクスがピアニシモであることが大きな違い。ハ短調の確立に時間をかけるという手口。

2011年9月 2日 (金)

ある形質

エルクが旋律の類型化のためにどのような特徴に目を付けたかの全貌は、エルンスト・シャーデ先生の著書「近代ドイツ民謡学の展開」の中でも明らかになっていない。しかしエルクの業績もさることながら、それを綿密に研究したシャーデ先生の論文も凄い。

ときどきもの凄いことをシレっと断言するから油断できない。

エルクは民謡の始原的な姿を尊重する立場だったことは既に何度も述べてきた。19世紀になってからの民謡然とした歌を断固排除したのだ。それを判定するツールとしていくつかが断片的に言及されている。ひとつはピアノ伴奏だ。ピアノ伴奏が存在すること自体既に論外という解りやすさだ。芸術作品としての価値とは全く別だ。ピアノ伴奏パートの出来がどれほど優れていても排除のフラグになる。

他にもある。旋律の進行に7度跳躍が現れたらアウトというものだ。上行にしろ下降にしろ7度の跳躍というメロディーラインは始原的な民謡には現れないとエルクは断言している。

旋律の進行という意味ではもっと興味深いのは、「導音に到達する6度の下降」を19世紀的と断じている。これが現れたらアウトだという。つまり「7度の跳躍」と「導音に到達する6度の下降」という形質が、判定のツールになっているということだ。きっとこのような目安がエルクの中には山ほど蓄積していたに違いない。

ところで私は「導音に到達する6度の下降」と聴いて脳味噌が酸っぱくなる。すぐに思いつくのは「いかにおわすか我が女王」op32-9だ。作品の末尾に「導音に到達する6度の下降」が見られる。「4つの厳粛な歌」の4曲目の結尾にも同様の進行が現れる。何のかんのと申してもその進行はブラームスっぽいのだ。

2011年4月 7日 (木)

poco p

音楽用語「poco p」は「ブラームスの辞書」に記載されていない。ということは、つまりブラームスが作品の楽譜上に一度も「poco p」を使用していないということを意味する。収録がされていないこと自体に大きな意味を持っている言葉である。

ダイナミクス用語「p」はブラームスの作品の楽譜上7500箇所以上にばら撒かれている。ブラームスの用いたあらゆる音楽用語の中でも最多の頻度を誇る。ブラームス節の根幹を規定するダイナミクスでさえある。一方の「poco」は、これまたブラームス節の根幹たる「微調整語」「抑制語」の筆頭格で、約750箇所に出現する。両者はダイナミクス用語、微調整語それぞれの筆頭でありながら、この2つの語の併用例「poco p」が一度も無いことは何やら象徴的である。

「poco」が「p」を修飾するケースが一度も無いことと対照的に「f」を修飾した「poco f」は約310箇所存在する。しばしば「pf」と略記されながらも、いつでもブラームス節を熱く縁取る濃い出番ばかりである。

それなのに「poco p」は一度も使用されていない。「pp」と略記するとピアニシモと紛らわしいからという苦し紛れの解釈も試みているが釈然としない。実は約2500箇所存在する「pp」の中に「poco p」の省略形が混入していないか本気で心配している。

実は「poco p」の不存在は「f」側の「molto f」の不存在と対になっている気がしてならない。下記で示した通り「p」には煽り系の「molto」が似合う一方、「f」には抑制系の「poco」が似合うという図式が想定される。

  • p側 「poco p」:× 「molto p」:○
  • f側 「poco f」:○ 「molto f」:×

つまり「p」を「もっと」と煽り、「f」を「程ほどに」と抑えるのがブラームスの癖と思われる。実際には「molto f」にはたった一つだけ用例があるが、マクロ的には無視しうる。

2010年4月18日 (日)

虚数

4月16日と17日に相次いで「指名手配」と「追加手配」をアップした。ブラームスに頻発する「poco f」「sotto voce」「mezza voce」がドヴォルザークには見当たらないという趣旨だ。さすがは公開捜査だ。さっそく「mezza voce」が発見された。この調子で全部見つかると嬉しい。情報提供に感謝する次第である。

さて数学の話だ。中学に入るとすぐ数直線を習う。整数、自然数、負の数、有理数などの理解を深めるためだ。循環小数、無理数など厄介な概念ではあっても、数直線上での大体の位置はイメージ出来る。この数直線の概念では、どうにもならなくなるのが虚数だ。一般に「i」をもって表される。二乗して「-1」になる数だ。数直線上での位置をイメージ出来ない。

数直線をダイナミクス直線に置き替える。一本の直線上に目盛りを付け、左から順に「ppp」「pp」「p」「mp」「mf」「f」「ff」「fff」と書き記せばたちまち出来上がりだ。作曲家によっては「ffff」「pppp」なども加えなければなるまい。目盛りは必ずしも等間隔とは限らない。音楽家たるもの皆、独自の基準を持っていると申しても良いだろう。過去の西洋音楽の伝統に照らして、大まかな合意はあるものと推定出来るが、厳密な話をすれば作曲家毎、作品毎、演奏家毎に全部違うくらいの覚悟は要ると思われる。

ドヴォルザークに「poco f」が見当たらない現象に接して、私が思い出したのが「虚数」だ。ドヴォルザークは自らのダイナミクス直線上にそれをイメージ出来ないということなのだと思う。ト短調ピアノ四重奏の管弦楽版を見る限り、おそらくシェーンベルクもイメージ出来ていない。

ブラームスにはイメージ出来ていることは確実だ。だからこそ私ごときがブログや著書で大騒ぎする意味がある。

2009年5月24日 (日)

きみの青い瞳

「Dein blaues Auge」作品59-8のこと。全長29小節でテキストはクラウス・グロート。我が家の14種の演奏の最短で1分51秒、最長で2分29秒、見開き2ページの小品に過ぎないが無視できない。4分の4拍子「Ziemlich langsam」の変ホ長調は同じ調性の「五月の夜」を髣髴とさせる。前奏と後奏が各4小節あるから歌われるのは21小節にとどまるが、内容は甘くて濃い。

その前奏と後奏は、左手が少しだけ変化しているものの全く同じ旋律だ。振幅の大きいこの旋律こそが本作品の主体となっているというのに歌手によって歌われることはない。ピアニストの腕の見せ所なのだ。あっと驚く「f」を伴って立ち上がった旋律はEs→Esdim7→B7→Esという具合に小節毎に移ろって行く。この進行には何とも堪えられない味がある。特に2小節目の減7和音に変わる瞬間の揺らぎは本作の肝とも思われる。左手のG音にフラットが忍び寄ってGesに行く様子は、第三交響曲冒頭のA→Asを思わせるが、こちらの方がぐっと繊細に映る。

歌が出始めるとピアノはすっと後ろに下がってしまうが、ブラームスならではの繊細な和声を縁取って行く。ハッとさせるような半音の衝突あり、言われてみればその通りのダブルフラット有りだ。

とっておきの場所がある。21小節目2拍目裏。時間にして8分音符1個分だ。ピアノ右手上でGesとFの衝突が起きる。この半音衝突の可憐さは並ではない。

やがて25小節目で歌が終わると同時にイントロがキッチリと回帰する。「ハイ戻って来ましたよ」とばかりに捺印するかのような「rf」(リンフォルツァンド)が、冒頭の「f」になり代わって鎮座している。この「rf」だけは「その音を特に強く」と解しては違和感が大き過ぎる。

楽譜のある人は是非見て欲しい私の宝物だ。

2009年3月16日 (月)

ソナタへの執着

ブラームスはソナタ形式が好きだ。「管弦楽のためのソナタ」つまり交響曲には、4つ全てにおいて、ソナタ形式の楽章が複数存在する。下記の通りだ。

  • 1番 第1楽章、第4楽章(展開部抜き)
  • 2番 第1楽章、第2楽章、第4楽章
  • 3番 第1楽章、第4楽章
  • 4番 第1楽章、第2楽章(展開部抜き)、第3楽章

第1楽章がソナタ形式であることは当然としてもこの密集ぶりは異様である。

とりわけ第4交響曲を見て欲しい。第1楽章に始まって3つ続けてソナタ形式の楽章だ。スケルツォを思わせる舞曲楽章でソナタ形式を採用するとは大変な執着だ。しかしこの程度で驚いてはいけない。残るフィナーレ第4楽章は、パッサカリアとして名高いが、全体の枠組みがソナタ形式をトレースしている。「シャコンヌの仮面をかぶったソナタ形式」になっているのだ。第4交響曲は事実上4つ全ての楽章がソナタ形式だと解し得る。

さすがのベートーヴェンにも全楽章ソナタの交響曲は無い。もしかすると交響曲史上初の全楽章ソナタを指向した可能性がある。

2009年2月16日 (月)

かする

物と物が衝突する場合、「ぶつかる」と表現される。ぶつかった結果、当事者が壊れることもある。これに対して本日のお題「かする」は、接触はあるものの、両者はさしたるダメージを受けないというニュアンスだ。日本語は難しくかつ繊細だ。これが「かすめる」となると両者は接触しないというイメージになる。ごく近くを通過しながら接触は無かったという感じだ。

転じて旋律や和声の動きを言葉で表す試みの中で「ぶつかる」「かする」「かすめる」が、しばしば用いられる。

半音関係の音は「ぶつかる」と形容される。

ブラームスの作品を論じる際「かする」「かすめる」は旋律の流れや和声の移ろいを表現する時に重用されている。長調の旋律の中で一瞬短調が仄めかされた場合「かする」「かすめる」と形容される。あるいはその逆、短調の中に一瞬差し込む長調の光の形容だ。

弦楽六重奏曲第1番第1楽章17小節目のDにフラットが忍びよるとき、あるいはピアノ四重奏曲第3番第3楽章冒頭小節の3拍目のCisに寄り添うナチュラルだ。第1交響曲第2楽章の2小節目ホルンのGにも心動かされる。

無論こうした「かする」「かすめる」の実例を「ブラームスの辞書」でも拾いきれてはいない。いくらでも思いつくのだからきりがない。

何よりも大切なのは、こうした場所は大抵ブラームス節の急所になっているということだ。

2009年2月12日 (木)

まくら

落語で使われる言葉。本題に入る前に、演じられる小さな話。会場の雰囲気になじませて、本題にスムーズに入れるようにする効果を狙っている。名人になるとここでの客の受けを本題に反映させることもあるらしい。全く本題と無関係の話題のこともあるが、少しだけ本題と関連のある話が振られる場合も少なくない。

古来、ソナタ楽章の主体の前に序奏を持つ曲は少なくない。マーラーの交響曲に見られる5楽章制は、第1楽章の序奏が肥大したものという解釈もある。ブラームスもソナタ形式の楽章のうちいくつかに序奏を与えている。

  1. ピアノソナタ第2番第4楽章
  2. ピアノ五重奏曲第4楽章
  3. 交響曲第1番第1楽章
  4. 交響曲第1番第4楽章

いわば第一主題に先立って「まくら」を振っていると解される。らしいと言えばらしいのだが、ブラームスの「まくら」の仕立てはじっくり練り上げて作られている。本編の簡単な予告編という性格が強い。特に第一交響曲はその典型である。主部が出来上がった後に、後から付け足されたことが確実視されている。本編にあう「まくら」をじっくり考えたということなのだ。

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