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カテゴリー「161 分布」の63件の記事

2011年12月 1日 (木)

長調の比率

ミンダスと銘打って民謡のデータ収集を始めた。集計項目に調性を入れておいたのが効いて興味深い傾向が浮かび上がった。主音がどの音かにはさほど意味は無いが、長調か短調かには注目していい。手許のCD収録の150曲を対象に集計した長短比率はおよそ80:20で長調優勢だった。

民謡のカテゴリー所属の最初の記事は2006年5月19日の「民謡風」だった。そこではブラームスの歌曲および民謡についての長短比率を載せておいた。これとの比較は興味深い。

  • ドイツ民謡 80:20
  • ブラームスの歌曲 54:46
  • ブラームスの民謡 58:42

ドイツ民謡の比率にはなお考察がいる。我が家のCDは私が店頭で適当に選んだものだ。CDに収録されている作品の調など気にせずに買った。その意味ではランダムだ。だからドイツ民謡全体の長短比率をパラレルに反映していると捉えたい。おそらくドイツ民謡は長短の切り口で見る限り数の上では長調優勢なのだと思う。その比率はおよそ80:20だと考える。

ブラームスが民謡集の名で刊行した民謡における長短比率は、死後の刊行を含めて58:42だ。ざっくり60:40だと解される。80:20の比率で長調優勢のドイツ民謡の沃野から、短調作品を倍に濃縮して汲み取った。短調の比率には以下の通りの傾向がある。

ブラームスの創作歌曲>ブラームスの民謡編曲>ドイツ民謡全体

テキストと旋律でのみ伝承される民謡に、豊かな和声とピアノ伴奏を添えることで芸術作品として世に問うた。そのための題材を民謡からすくい上げる過程で短調に傾斜したということだと読める。

2011年9月 4日 (日)

歌曲の中の茶摘み

昨日の記事「茶摘み」の中で「ソドレミ」で歌い出される民謡は民謡全体の22%に達すると述べた。「ソ」と「ド」の間で小節線を跨ぐとも書いた。本日はそれをブラームスの歌曲と比較する。

ブラームスの作品番号付きの独唱歌曲全204曲のうち茶摘型「ソドレミ」で立ち上がるのは下記の通りだ。

  1. 「小夜鳥は翼を動かして」op6-6 5,123 変イ長調 「ソ→ド」が5度下降だ。
  2. 「窓の外で」op14-1 5,123 ト短調
  3. 「口づけ」op19-1 5,123 変ロ長調
  4. 「僕のそばを流れ去った河」op32-4 5,123 嬰ハ短調 「ソ→ド」が5度下降だ。
  5. 「げに敵には弓矢を」op33-2 5,123 ハ短調 
  6. 「領主ファン・フォルケンシュタインの歌」op43-4 「ソ→ド」が5度下降だ。
  7. 「日曜日」op47-3 512,3 ヘ長調
  8. 「おお来たれ心地よい夏の午後よ」op58-4 5,123 嬰ヘ長調
  9. 「不惑にて」op94-1 5,123 ロ短調 「ソ→ド」が5度下降だ。
  10. 「あそこの牧場に」op97-4 5,123 ニ長調
  11. 「セレナーデ」op106-1 5,123 ト長調

204曲のうち11曲5.4%だ。明らかに民謡よりも頻度が落ちる。「ソ」と「ド」の間に小節線を跨ぐケースが圧倒的に多いことは民謡と同じだ。特徴的なのは「ソ→ド」が5度下降というケースが4例存在することだ。民謡ではゼロだったから目立つ。歌い出しにおいて旋律線が5度下降することは「非民謡」の証拠になるかもしれない。

2011年9月 3日 (土)

茶摘み

文部省唱歌「茶摘み」は「夏も近づく八十八夜」と歌い出される。冒頭を移動ドで読むと「ソドレミ」になる。どうもこの「ソドレミ」はドイツ民謡の歌い出しに多い。つまり旋律の類型化における形質の一つとして採用し得るのではないかと感じている。

WoO31、WoO32、WoO33の民謡集に収められた作品76曲の中で「茶摘み型」で立ち上がる作品を抽出してみた。スペースを節約するために略号を用いる。「3104」は「WoO31-4」のことである。

  1. 3104 5,123 Gdur 4/4 Andante 「砂の精」で名高い。
  2. 3112 5,123 Gdur 6/8 Con moto
  3. 3204  5,123  Gmoll  2/4 
  4. 3220  5,123  Edur  2/4  Lebhaft und mit Laube
  5. 3222  5,123  Amoll Ruhig und erzahlend
  6. 3308  5,123  Gdur 3/4  Mit guter Laune
  7. 3314  5,123  Amoll 2/4  Ruhig und erzahlend
  8. 3324  5,123  Gdur 4/4  Massig bewegt und Ausdrucksvoll
  9. 3331  5,123  Gmoll 2/4  Zierlich und lebhaft
  10. 3333  5,123  Edur 2/4  Lebhaft und mit Laune
  11. 3334  5,123  Amoll 4/4  Lebhaft 
  12. 3335  512,3  Adur 3/4  Gehend und mit herzlichem Ausdruck
  13. 3336  5,123  Amoll 4/4 Lebhaft,doch nicht zu rasch
  14. 3338  5,123  Amoll  2/4  Nicht zu langsam, erregt
  15. 3340  5,123  Amoll 6/8  Unruhig bewegt und heimlich
  16. 3343  5,123  Fdur 4/4  Andante
  17. 3349  5,123  Amoll  2/4 Andante

76曲中17曲22%が「茶摘型」だ。4ケタの曲名略号の次をご注目いただきたい。「5,123」とある。これは茶摘音形「ソドレミ」のうちどこで小節線を跨ぐかというデータだ。カンマの位置が小節線を現している。17例の中で12番WoO33-35だけが「レ」と「ミ」の間に小節線を跨ぐ以外は、皆「ソ」と「ド」の間だ。

民謡の場合楽譜上の形質を必要以上に重視してはならない。伝承中は口伝えだ。楽譜で伝承されているわけではない。それが採譜を経て印刷譜として刊行される段になって初めて楽譜に落とされる。調も拍子も発想用語もその段階で決するのだ。それに比べると「ソドレミ」のような音のパターンにはより深い積極的な意味があると思われる。

2010年7月 5日 (月)

Lento

アメリカ四重奏曲の中で、とりわけ気に入っているのは第2楽章だ。ニ短調8分の6拍子で歌われるエレジー。ドヴォルザーク緩徐楽章の最高峰だと思っている。

その楽章冒頭の発想記号こそが、本日のお題「Lento」だ。ちょっとしたサプライズを形成する。ソナタの緩徐楽章が「Lento」になっているというのは珍しい。少なくともブラームスには例が無い。ベートーヴェンには一箇所、弦楽四重奏曲第16番ヘ長調の第3楽章「Lento assai, cantabile e tranquillo」だけだっと思う。

試験に出たら「ゆっくりと」と書けば罰点をくらうことはないが、「Adagio」との違いを50文字以内で述べよとでも問われたら、難易度が半端でなく高まる。ブラームスはソナタの緩徐楽章においては「Lento」を用いていない。おそらく区別していたと感じる。

ドヴォルザークは無視し得ぬ数の「Lento」を使っているが、ソナタの緩徐楽章では、おそらくこのアメリカ四重奏と最後の弦楽四重奏曲第14番変イ長調のみだ。

何だか味わいが深い。

2010年6月17日 (木)

再びメゾピアノ

ドヴォルザークの歌曲「糸杉」の弦楽四重奏版スコアを格安で入手した話は既にした。CDを聴きながらスコアを眺めていて驚いた。「mp」がかなり目立つ。

ピアノ独奏曲における「mp」は1880年以降の作品にのみ現れた。本作は1887年だから、辻褄が合う。本作に出現する「mp」がオリジナルの歌曲「糸杉」に由来するものなのか、弦楽四重奏編曲の際に付与されたものなのか興味深い。私の仮説「mp1880年起源説」が正しければ、オリジナルの歌曲版「糸杉」には「mp」は存在しないハズだ。

弦楽四重奏版「糸杉」全12曲のうち1番、6番、8番が冒頭いきなりの「mp」だ。作品冒頭いきなりの「mp」はピアノ独奏曲では1889年詩的音画の第5曲「農民のバラード」だけに見られる。1888年の交響曲第8番の第2楽章も冒頭いきなりの「mp」だ。1895年チェロ協奏曲では第1楽章冒頭いきなり「mp」だ。

ブラームスにおける冒頭いきなりの「mp」はインテルメッツォイ短調op76-7が最初で1878年である。

2010年4月18日 (日)

虚数

4月16日と17日に相次いで「指名手配」と「追加手配」をアップした。ブラームスに頻発する「poco f」「sotto voce」「mezza voce」がドヴォルザークには見当たらないという趣旨だ。さすがは公開捜査だ。さっそく「mezza voce」が発見された。この調子で全部見つかると嬉しい。情報提供に感謝する次第である。

さて数学の話だ。中学に入るとすぐ数直線を習う。整数、自然数、負の数、有理数などの理解を深めるためだ。循環小数、無理数など厄介な概念ではあっても、数直線上での大体の位置はイメージ出来る。この数直線の概念では、どうにもならなくなるのが虚数だ。一般に「i」をもって表される。二乗して「-1」になる数だ。数直線上での位置をイメージ出来ない。

数直線をダイナミクス直線に置き替える。一本の直線上に目盛りを付け、左から順に「ppp」「pp」「p」「mp」「mf」「f」「ff」「fff」と書き記せばたちまち出来上がりだ。作曲家によっては「ffff」「pppp」なども加えなければなるまい。目盛りは必ずしも等間隔とは限らない。音楽家たるもの皆、独自の基準を持っていると申しても良いだろう。過去の西洋音楽の伝統に照らして、大まかな合意はあるものと推定出来るが、厳密な話をすれば作曲家毎、作品毎、演奏家毎に全部違うくらいの覚悟は要ると思われる。

ドヴォルザークに「poco f」が見当たらない現象に接して、私が思い出したのが「虚数」だ。ドヴォルザークは自らのダイナミクス直線上にそれをイメージ出来ないということなのだと思う。ト短調ピアノ四重奏の管弦楽版を見る限り、おそらくシェーンベルクもイメージ出来ていない。

ブラームスにはイメージ出来ていることは確実だ。だからこそ私ごときがブログや著書で大騒ぎする意味がある。

2010年4月15日 (木)

エスカレーター

私が小さい頃にはデパートにしかなかった。最近都会では大抵の駅に設置されている。エレベーターと並ぶ昇降機の定番だ。人間2人分の幅というのが一般的だが、何となく通行帯が決まっている。立ち止まる人が左側で、歩く人が右側だ。高速道路の追い越し車線と同じ感覚である。ところが、関西へ行くとこれが逆になる。左側で突っ立っていると迷惑がかかる。

東京と大阪の間のどこかにこの習慣の境目があるはずだが、確かめきれていない。新幹線の駅で申せば米原か岐阜羽島あたりが怪しい。

分布の境界といえば「mp」だ。ドヴォルザークの「mp」分布を調べている。ピアノ独奏曲では1880年のB109の小品が「mp」出現の始まりだ。交響曲では7番での「mp」が確認できている。弦楽四重奏では「糸杉」の弦楽四重奏編曲版に存在し、10番の弦楽四重奏には存在しないことが判明している。

ブラームスと違ってドヴォルザークは、楽譜所有の抜けが多過ぎて境界線を特定できない。ピアノ独奏曲での境界線1880年が、全ジャンルに有効なのか確かめたいのだ。現在の所「1880年境界説」を覆す事例は確認できていない。

2010年4月14日 (水)

続最愛の歌曲

昨年6月8日の記事「最愛の歌曲」で、ブラームス歌曲一番のお気に入りが「野のさびしさ」op86-2だと書いた。しからばドヴォルザーク歌曲で一番のお気に入りはというのが本日の話題だ。

「我が母の教えたまひし歌」が最も一般に知られた作品であることに異論はあるまい。もちろん私とて美しいと思う。しかし今私がドヴォルザーク歌曲でもっとも好きな作品は別にある。

「主は私の牧者」である。最後の歌曲集「聖書の歌」op99の第4曲だ。「聖書の歌」の中では第7曲「バビロンの川のほとりに」を最高傑作に推す声が多い。実際に素晴らしい曲だが、私は賛成しかねる。

Andanteと記された冒頭、「quasi recit.」の指定が歌のパートに鎮座する。ピアノが「H」音をポツリと鳴らす。何とこれがイントロだ。アカペラ作品で歌い手に最初の音を示すためにピアノが鳴らされることがある。まさにそのままのピアノ単音のイントロだ。フェルマータで途切れ途切れに歌い出される静溢なモノローグ。動きの少ないピアノ伴奏が、かえって凄みを感じさせる。「音楽の起伏最小にして表現の幅最大」を現実に示してくれている。

そしてそして、歌い出しの部分にとっておき感溢れる「mp」が、ひっそりと置かれている。1894年の作品だから、「mp1880年説」に矛盾しない。

2010年4月13日 (火)

メゾピアノの巣

ダイナミクス記号「mp」(メゾピアノ)は、ブラームスにおいては特異な分布を示す。第1交響曲を皮切りに堰を切ったように現れる。作品中の分布量で申すならピアノ協奏曲第2番においてピークを形成する。「ブラームスの辞書」ではこれを「メゾピアノの巣」と呼んでいる。以下の通りだ。

  1. mp 第1楽章冒頭のホルン 「世界遺産級」のソロ
  2. mp espressivo 第1楽章48小節のヴァイオリン
  3. mp legato 第1楽章73小節のピアノ
  4. mp 第1楽章173小節のオーボエ
  5. mp 第1楽章333小節のホルン
  6. mp ma dolce 第1楽章358小節のフルート、ヴァイオリン
  7. mp 第1楽章360小節のオーボエ
  8. mp 第2楽章54小節のピアノ
  9. mp marcato 第2楽章102小節のヴィオラ、チェロ
  10. mp 第2楽章389小節のピアノ
  11. mp espresivo 第3楽章冒頭の独奏チェロ これも「世界遺産級」
  12. mp 第4楽章65小節のピアノ
  13. mp 第4楽章242小節のピアノ
  14. mp 第4楽章309小節のピアノ

たかだか4割ドボダスの段階で断言は危険だが、ドヴォルザークにおける「メゾピアノの巣」はおそらく交響曲第8番だと思われる。下記の通りである。

  1. mp 第2楽章冒頭 第1楽章には多分無かったと思う。
  2. mp 第3楽章87小節 オーボエとフルート。私がドヴォルザークで一番好きな旋律。
  3. mp 第3楽章119小節の木管。87小節の再現。
  4. mp 第3楽章151小節の弦楽器。87小節と同じ旋律。
  5. mp 第3楽章227小節のクラリネットとファゴット。
  6. mp 第4楽章26小節のチェロ。変奏主題の提示である。
  7. mp 第4楽章120小節の木管。コガネムシが始まるところ。

ご覧の通りみなおいしい。当然と申しては何だが作曲年は1880年より遅い1889年だ。

2010年4月11日 (日)

ドヴォルザークのメゾピアノ

昨日一昨日の記事は、本日のための序奏だった。

ドヴォルザーク作品の楽譜に現れるトップ系音楽用語をエクセルに取り込む作業を続けてきた。どうせ楽譜をあたるのだからトップ系のみならずパート系にもそれとなく注目していた。ブラームスでは特異な分布を見せる「mp」だが、ドヴォルザークにおける分布も興味深い。ドヴォルザークの独奏ピアノ作品に現れる「mp」を以下に列挙する。

  1. ピアノ小品B109-3 71小節目
  2. ピアノ小品B109-3 129小節目
  3. ピアノ小品B116 41小節目
  4. 詩的音画より「農民たちのバラード」B161-5 冒頭
  5. 詩的音画より「フリアント」B161-7 61小節目
  6. 詩的音画より「妖精の踊り」B161-8 65小節目
  7. 詩的音画より「セレナーデ」B161-9 4小節目
  8. 組曲イ長調第1曲25小節目
  9. 組曲イ長調第4曲30小節目
  10. 8つのフモレスケより第1番 25小節目
  11. 8つのフモレスケより第5番 57小節目
  12. 8つのフモレスケより第5番 73小節目

たったの12箇所だ。上記の一覧は作曲年代順だ。先頭は1880年である。つまりドヴォルザークの独奏ピアノ曲に出現する「mp」は1880年以降に限られるということだ。ドヴォルザーク独奏ピアノ曲全集全2巻の第1巻には出てこない。第2巻の中盤以降にしか置かれていないのだ。

ブラームス作品における「mp」密集との関連を疑いたい。同時にドヴォルザークについて「mp1880年起源説」を、ひっそりと提案する。管弦楽室内楽を含む全作品を確認していないから、ゆめゆめ断言は禁物だがかなり不気味だ。

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