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カテゴリー「155 序奏」の5件の記事

2009年8月 9日 (日)

リブレット

イタリア語らしい。オペラやオペレッタの台本のことだ。オラトリオやカンタータ、ミュージカルも対象になるという。独唱歌曲のテキストはリブレットとは言わない。

どれほど評価の高い文学作品があっても、それが優れたオペラになるとは限らない。仮に優れた作曲家がそこに同居してもダメなものはダメだ。オペラにするには台本が必要だ。モーツアルトの歌劇「フィガロの結婚」は、ボーマルシェの原作が素晴らしかったことに加え、ロレンツォ・ダ・ポンテのリブレットがあったからこそ不滅の地位に上り詰めた。モーツアルト、ボーマルシェ、ダ・ポンテの功績は同等だ。おそらく誰が欠けてもダメだった。

ブラームスがついぞオペラ作曲に踏み切らなかった理由の一つが気に入ったリブレットが無かったことだ。オペラについての考えが時代の流れにマッチしていないこともあるが、問題はリブレットだ。

過去の文学作品に対する造詣に加え、同世代の文筆家とも交流があったブラームスだから、原作やリブレットを探す伝手には事欠かなかったと思われるが、ついに見つからなかった。

気に入ったリブレットが無いのなら作ってしまえというふうには考えなかった。リヒャルト・ワーグナーとは才能の向きが違うのだ。

2009年6月 9日 (火)

最長のイントロ

ブラームスの作品番号付きの歌曲204曲を対象に考える。このうち5小節以上のイントロを持つ作品が25曲13%ある。つまり87%が4小節以内の簡単なイントロでサクサク始まる。本日は逆にイントロが長い作品の話題だ。

航海op95-4 14小節。8分の6拍子Andante sostenutoで始まるイントロは約40秒に達しブラームス歌曲最長のイントロだ。全曲が約3分半の曲だからイントロが2割を占める。おそらくは舟歌なのだろう。心地よくゆれるリズムは気分的にはバルカローレだ。3コーラスからなるテキストに先立つ長大なイントロは恋人と一緒の航海を巧みに暗示する。

2番目に長いイントロは12小節だ。2曲ある。不思議なことにそれは作品91を与えられた「ヴィオラとピアノを伴奏に持つアルトのための歌曲」だ。おそらくこの理由は明らかだ。異例なことに伴奏に加えられたヴィオラを存分に聞かせる意図があるのだと思う。

3番目は11小節を数える「あなたどこでためらっているの」op33-13だ。連作歌曲集「ティークのマゲローネのロマンス」の13番目である。15曲のうち唯一スリマが歌うという設定だ。テンポが速くスケルツォ気味のためイントロが長いという印象はない。

2009年3月19日 (木)

白玉2個

全音符と2分音符を白玉という場合がある。符頭が黒く塗りつぶされないからだ。付点2分音符も含めたこの白玉が多いと、楽譜全体が白っぽく見える。素人の演奏家にとっては指回しの苦労が少なくて済むという有り難みとセットになっている。

本日のお題「白玉2個」でいう白玉とは、特に2分音符を指している。

バッハのブランデンブルグ協奏曲第3番の第2楽章は、「白玉2個」で出来ている。和音の形で記譜されているから正確には「白玉2個分」と呼ぶべきかもしれない。2つの和音の輪郭がサラリと示されているだけだ。あるいはこの2種の和音の移ろいを示すことが目的とも思える。何らかの楽器による即興演奏のためお題かもしれない。ブランデンブルグ協奏曲どころかバッハの全協奏曲に対象を広げてもこのような例は珍しい。

楽章と呼んでいいのか少し疑問である。

もちろんブラームスにはそんな楽章はない。けれども歌曲のイントロが「白玉2個分」というケースならば2つ実在する。

  1. 「古き恋」op72-1 白玉の合計は6個である。ト短調であることを隠し通すかのようなシンプルなイントロだ。
  2. 「夏の宵」op85-1 白玉の合計は2個。正真正銘の「白玉2個」である。

シンプルと言うよりも何か本質的なことを隠しているようなニュアンスだ。隠すと見たいという心理を逆手に取っているのかもしれない。

2009年2月12日 (木)

まくら

落語で使われる言葉。本題に入る前に、演じられる小さな話。会場の雰囲気になじませて、本題にスムーズに入れるようにする効果を狙っている。名人になるとここでの客の受けを本題に反映させることもあるらしい。全く本題と無関係の話題のこともあるが、少しだけ本題と関連のある話が振られる場合も少なくない。

古来、ソナタ楽章の主体の前に序奏を持つ曲は少なくない。マーラーの交響曲に見られる5楽章制は、第1楽章の序奏が肥大したものという解釈もある。ブラームスもソナタ形式の楽章のうちいくつかに序奏を与えている。

  1. ピアノソナタ第2番第4楽章
  2. ピアノ五重奏曲第4楽章
  3. 交響曲第1番第1楽章
  4. 交響曲第1番第4楽章

いわば第一主題に先立って「まくら」を振っていると解される。らしいと言えばらしいのだが、ブラームスの「まくら」の仕立てはじっくり練り上げて作られている。本編の簡単な予告編という性格が強い。特に第一交響曲はその典型である。主部が出来上がった後に、後から付け足されたことが確実視されている。本編にあう「まくら」をじっくり考えたということなのだ。

2006年5月17日 (水)

イントロ

「前奏」の意味。狭い意味では歌曲の場合を指すと思われる。主旋律の登場をより円滑かつ効果的にするための音楽的な準備。多くの場合伴奏と呼ばれる声部が受け持つ。イントロが後から続く主部を聴き手に想起させる効果は低くない。これが昂じて、「イントロ当て」というお遊びがジャンルとして存在するに至った。

しかしながら、さりながらだ。ブラームスに限らず世の中の音楽作品には、このイントロを介在させずにいきなり旋律で始まるものも多数存在する。ブラームスの独唱歌曲204曲についてイントロの有無を調査した。イントロありは155曲76%を数えた。この場合のカウントのルールはピアノパートが、声のパートよりも先行して立ち上がるものを全部だ。

実際には、ビートルズの「She loves you」のように一瞬だけ伴奏が先行するものの、ヴォーカルがすぐにかぶさってくるケースもある。作品105-1「調べのように」が代表格である。これでは歌の導入をじっくり準備しているとはいえず、冒頭に挙げたイントロの定義を十分に満たしているとは言い難い。こうした極端に短いイントロつまり「She loves you」型を「1小節未満のピアノ先行」と定義してイントロに含めずに集計するとイントロありは133曲65.2%になる。

おそらく、作品の冒頭にイントロを置くかどうかは、高度に芸術的な判断に属するものと思われる。導入準備無くいきなり歌を始めることもまた、ある種の効果を狙ったものと解し得る。

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