ブラームスの多楽章器楽曲は、いわゆるソナタ形式を採用している。「ソナタ形式」や「ソナタ」の定義は難解だ。専門書では大抵大きなスペースを割いて解説が試みられているが、困ったことに例外が大変多いのだ。どのような角度から説明を試みても少々の例外が発生してしまうのだという。
「ソナタ形式」を採用したソナタ楽章が、緩徐楽章、舞曲楽章を従える形をとり、最後はロンドか変奏曲かフーガで締めくくられる。しばしば緩徐楽章と舞曲楽章の位置が交代する。ごくまれに緩徐楽章か舞曲楽章のどちらかが省略される。ひとまずこのあたりをソナタ楽曲の外観上の定義と位置付けておく。
上記のような超大雑把な定義でも、さっそく例外が存在する。ソナタ形式の楽章自体が省略されているケースだ。モーツアルトの「トルコ行進曲」で名高いイ長調のソナタは、ソナタ形式の楽章が省略されている。
ブラームスにおいては、ほぼ外観上の例外は無いといいたいところだが、一つだけ鮮やかな例外が存在する。ソナタ楽章→緩徐楽章→舞曲→ロンドという一般的な楽章配列になっていない作品が一つあるのだ。それはホルン三重奏曲変ホ長調作品40だ。楽章配列はロンド→舞曲楽章→緩徐楽章→ソナタ楽章になっている。通常のソナタの楽章配列を逆さから並べた形になっているのだ。ベートーヴェンでもソナタ楽章を最終楽章に持ってくる例が無いわけではない。弦楽四重奏曲14番と月光ソナタがすぐに思い浮かぶ。どちらも「第14番嬰ハ短調」だというのが不気味だ。ベートーヴェンにおいて嬰ハ短調のソナタはこの2つだけだったと思う。楽章配列の錯乱と嬰ハ短調に相関があるのかもしれない。
さてさてブラームスのホルン三重奏曲は、いろいろな意味で異例の出来事に満ちたソナタである。まずは楽章配列なのだが、これらの調性も変ホ長調→変ホ長調→変ホ短調→変ホ長調という具合だ。4楽章中3楽章が変ホ長調だということだ。しかも残る楽章も同主調になっている。ブラームスの作品では例が無い。4楽章中3楽章の集中は、ベートーヴェンの第三交響曲が緩徐楽章を除いて変ホ長調だ。緩徐楽章はハ短調だからこちらは調号フラット3個にこだわった結果だ。ブラームスは主音Esにこだわっているのだろう。Es管のホルンに配慮したのかもしれない。
ホルンとヴァイオリンとピアノという編成も異例だし、楽譜上に散りばめられた用語にも、ここだけのケースが多い。とてもおいしいソナタである。
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