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カテゴリー「190 鍵盤楽器」の33件の記事

2023年10月 4日 (水)

32という切り口

グールドによって再認識が進むバッハ、ゴールドベルク変奏曲BWV988の話だ。なんせ長大な変奏曲。

主題のアリアは32小節ある。主題を冒頭と末尾で提示するのだが、変奏が30あるために、全体は32の部分から成り立つ。32が好きなのかと疑う。

主題に30の変奏がほどこされ、それにコーダが続くことで全体が32の部分からなるといえば、ブラームスの第4交響曲のフィナーレ第4楽章と同じである。そう、ブラームスはこのゴールドベルク変奏曲の弾き手でもあった。公開の場での演奏の証言は見当たらないが、貴重な友人の証言がある。

母を亡くしたブラームスを見舞ったゲンスバッヒャーによれば、ブラームスはゴールドべルク変奏曲を弾いていたというのだ。どこの部分なのかは不明ながら、この時ブラームスのほほが涙に濡れていたと証言する。

弾いていたのがアリアの主題であってもぴたりとはまってくるエピソードではないか。

 

2023年10月 3日 (火)

ドシラソミファソド

グールドのDVDは、手元に楽譜を置いて参照しながら見ると、楽しさが増幅する。

まずは、ゴールドベルク変奏曲冒頭の低音主題だ。ト長調の移動ドで読んだもので、実音は「G-Fis-E-D-H-C-D-G」だ。バッハもお気に入りだと見えて、これを主題とする14のカノンを書いている。20世紀になってからの発見でBWV1087という大きな番号を背負っている。ゴールドベルク変奏曲の華麗な姿に慣れている耳には渋く感じられるが、魅力的だ。

さてさて試してみるといい。この変奏主題を耳で追いながら、グールドのDVDを見る。気のせいかやはりというかグールド自身こちらも大切にしている気がする。

 

 

2023年9月21日 (木)

お騒がせベルリオーズ

「基本はバッハ」という本の18ページに悩ましい記述がある。バッハの3台のチェンバロのための協奏曲」を聴いたベルリオーズの感想が載っている。原文のまま引用する。

「この滑稽で愚にもつかない讃美歌を再生するために、情熱に燃え、若さにみちあふれる3人の賞賛すべき才人が結束する姿をみるのは、まさに胸痛む思いだった」

まずは若干の補足をする。「この滑稽で愚にもつかない讃美歌」とは「3台のチェンバロのための協奏曲」を指しているとみて間違いあるまい。ベルリオーズは明らかにこの作品を評価していない。「大した曲じゃないのに、このメンバーに苦労させるのはもったいない」というスタンスと見受ける。ベルリオーズの感想を深読みすると、「3人の結束」そのものは褒めていると感じる。何が悩ましいかを以下に列挙する。

  1. 3台のチェンバロのための協奏曲はニ短調とハ長調の2曲あるが、そのどちらなのかわからない。
  2. いつの演奏なのか不明。
  3. どこで演奏されたのかも不明。
  4. 指揮者もいたのかいないのかも不明。

素晴らしいこともひとつある。「才人」と言われた3名がわかっている。なんとなんとショパン、リスト、ヒラーという3名だ。あのショパンとあのリストだ。すごいメンツである。あろうことか指揮がメンデルスゾーンだった可能性も排除しきれない。ヒラーの代わりにクララシューマンだったらと妄想が膨らむが、聴衆の側にシューマン夫妻がいたかもしれないと考える。書かれていないがチェンバロではなくピアノで演奏されたことは確実である。

独奏チェンバロが何台なのかは別として、楽器が別の独奏楽器による協奏曲をチェンバロ用に編曲したということは明確で、研究者の手によってほぼ元の独奏楽器が特定されていることが多いのだが、この3台のチェンバロのための協奏曲だけは定説がない。とくにニ短調の方が難解で、演奏するさいのバランスが難しいという。ベルリオーズのダメ出しからニ短調の方でなかったかと想像する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2022年8月 9日 (火)

レストロアルモニコ

「L'estro armonico」とつづられるイタリア語で、しばしば「調和の霊感」と訳される。「op3」を背負うヴィヴァルディの出世作。1711年アムステルダムのロジェ社からの出版で様々な独奏楽器による12の協奏曲だ。バッハはこのうちの下記を編曲している。

  • 3番ト長調→チェンバロ独奏BWV978
  • 8番イ短調→オルガン独奏BWV593
  • 9番ニ長調→チェンバロ独奏BWV972
  • 10番ロ短調→4台のチェンバロのための協奏曲BWV1065
  • 11番ニ短調→オルガン独奏BWV596
  • 12番ホ長調→チェンバロ独奏BWV976

かなりな入れ込みようだ。それもそのはずで、この曲集でヴィヴァディの名声は欧州中に広まっていた。当時最先端のイタリア音楽のそのまた最高峰という位置づけは大げさではなかった。現代日本における「四季」の人気もかすむというものだ。

CDで比較するにも楽譜があると便利なのでひとまず入手した。毎度毎度のドーヴァーで4020円はまずます。楽譜を見ながら聴くと、プレイヤーごとのアドリブもわかって参考になる。

2022年7月25日 (月)

まさに醍醐味

店頭で手に取ったのは、単なる偶然だった。ストラディヴァリウスというイタリアのレーベルが珍しくて何の気なしだった。内容はヴィヴァルディのオルガン協奏曲だった。収録曲目を見て血の気が引いた。イタリア語はわからぬものの「RV265」と「BWV976」という記載が確認できた。

 

ヴィヴァルディの「調和の霊感」から12番ホ長調op3-12RV265を、バッハがチェンバロ独奏に編曲したものがBWV976である。ヴィヴァルディのオルガン協奏曲を集めたCDの余白に収録されている以上、チェンバロ独奏用の作品がオルガンで演奏されている可能性が高いとにらんで購入。

 

帰宅して再生するとあたりだった。まさにBWV976のオルガン盤である。第二楽章ラルゴをオルガンで聴けた。

 

そりゃあもう絶句。「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」をシュプラーコラールBWV645で初めてオルガン曲として聴かされて以来の衝撃と申すべきか。いやはや敬虔。ヴィヴァルディにも編曲したバッハにも宗教的な意図なんざあったはずはないのだが、賛美歌風だ。これを教会で聴かされたら神様を信じてしまう。

2022年7月24日 (日)

移調の理由

バッハは、自作であれ他の作曲家の作品であれ、編曲に際してオリジナルではない調に移調することがある。基準は不明だ。チェンバロ奏法に精通したバッハが演奏上の配慮をしたものと受け止められている。

ヴィヴァルディの「調和の霊感」の中、ホ長調協奏曲op3-12を無伴奏チェンバロ協奏曲に編曲する際にも移調を試みている。オリジナルのホ長調がハ長調に移されてBWV976となった。私のようなヘボな弦楽器奏者にとってはありがたい移調だ。ホ長調と言えばシャープ4個が奉られた長調であるのに対し、移調先のハ長調は調号なしだから、演奏が容易になる。

編曲の依頼主であるワイマール公の腕前に配慮した可能性はあるのだろう。高度な芸術的判断とも思えない。

まさかと思うことがある。

同コンチェルトBWV976の次、BWV977ハ長調は原曲不明の作品だが以下のように立ち上がる。

 

20170413_084951
レ抜き音階がひとつ前のBWV976と共通する。

 

20170413_130503
どちらもハ長調だから「ドミファソ」という「レ抜き」っぷりが鮮明に浮き上がる。「移動ド」などという操作をしなくてもいいからだ。

この両作品に共通する「レ抜き」の配置をより鮮明にするためにオリジナルのホ長調をハ長調にしたなどということはあるまいな。

 

 

2022年7月16日 (土)

BWV976

ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲を、無伴奏チェンバロ協奏曲に編曲した中の一作。

原曲は「調和の霊感」op3-12ホ長調だが、バッハは編曲にあたってハ長調に転調している。バッハが編曲の対象を選ぶ際の根拠は不明だが、この曲を選んでくれた幸せをかみしめるべきだ。

特にだ。特に第二楽章は、神のなせる技かと。

 

20170314_110832
最初にヴァイオリンに現れるリズムが、楽器を代え音高を代え、エコーのように5回繰り返される。フーガでもないところがバッハとは違うところだ。それでいてバッハが協奏曲の緩徐楽章で披露する奥行きと何ら遜色がない。

これに続く独奏ヴァイオリンのつぶやきはただ事ではない。

ヴィヴァルディおそるべし。

2022年6月 4日 (土)

舞曲順序の矛盾

フローベルガーのチェンバロ組曲を集めたCDが手元にある。「14の組曲ストラスブルク手稿譜」だ。成立は1675年で、フローベルガーの没後に写し取られた楽譜だ。チェンバロ組曲14作が収められている。その舞曲の並び順を以下に示す。調性とアドラー番号を添付する。A:Allmande/C:Courante/S:Sarabande/G:Gigue

  1. イ短調 Suite15 AGCS
  2. ホ短調 Suite27 AGCS
  3. ニ短調 Suite13 ACSG
  4. ト短調 Suitee18 AGCS
  5. イ短調 Suite1   AGCS
  6. ヘ長調 Suite17 AGCS
  7. イ短調 Suite28 ACSG
  8. ニ長調 Suite11 AGCS
  9. ハ短調 Suite19 AGCS
  10. ニ短調  Suite2 AGCS
  11. ト短調 Suite14 XCSG
  12. ト長調 Suite16 AGCS
  13. ホ短調 Suite23 ACSG
  14. イ長調 なし   ACS

11番目Suite14の第一楽章は「Lamnento」となっている。14番目はアドラー番号なしで、全体が3つの楽章でできている。

一見してAGCSが多い。14曲中9曲が「Allmande」「Gigue」「Courante」「Sarabande」という順序になっている。一方、フローベルガーが確立したとされる「ACSG」はわずか3例に過ぎない。フローベルガーが確立したはずの曲順になっていない組曲の方が3倍も優勢だ。

 

     

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年3月28日 (日)

2枚組の効果

記事「ストラダール」で話題にしたCDのお話。

ブランデンブルク協奏曲のピアノ独奏編曲盤だ。これだけで相当珍しい。細かい内容の話をすると2枚組になっている。ブランデンブルク協奏曲全6曲のうち5番までがディスク1に収録されているからディスク2は6番から始まる。6番大好きの私からすれば大歓迎の割り付けだが、こうなると6番の後には広大な余白ができる。

この余白に収められているのもバッハ作品のピアノ編曲で、元のバッハ作品は下記の通りだ。

  1. チェンバロ協奏曲第1番ニ短調BWV1052
  2. チェンバロ協奏曲第5番ヘ短調BWV1056
  3. オルガン協奏曲第2番イ短調BWV593 (ヴィヴァルディ:op3-8)
  4. オルガン協奏曲第4番ハ長調BWV595
  5. オルガン協奏曲第5番ニ短調BWV596 (ヴィヴァルディop3-11)

上記1番と2番はチェンバロ独奏に弦楽器の総奏がつくのだが、ソロに加えて総奏部分もろともピアノ独奏に編曲するというコンセプトだがら「無伴奏チェンバロ協奏曲」のピアノ転写だ。ストラダールの編曲ではブランデンブルクの6番はおとなしいほうで、ディスク2は進むほどに超絶技巧になっていく。ブゾーニのシャコンヌピアノ編曲に感じた「大げさ感」が思い起こされる。

19世紀は、ピアノの時代。音楽の担い手が、宮廷や教会から市民に移っていく過程で、ピアノが家庭に浸透していく。おびただしい数のピアノ作品が生まれたことは周知の事実で古今東西さまざまのクラシック作品において、ピアノ編曲版には連弾を含めてかなりな需要があったには違いないが、これを弾きこなす層が本当にあったのか心配になる。ブラームスなら絶対に望まないはずの演奏効果。

 

 

2021年2月11日 (木)

復元ごっこ

ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲をバッハがチェンバロ独奏用に編曲していた話は既にしておいた。それらを「無伴奏チェンバロ協奏曲」と位置付けた。

その延長線上にあるのが「イタリア協奏曲」BWV971である。バッハのオリジナルなのだが、「協奏曲」なのにチェンバロ独奏曲である。つまり編曲ではないオリジナルの「無伴奏チェンバロ協奏曲」ということだ。

これを逆手にとった人がいる。ビオンディの相棒として知られたチェンバリスト兼指揮者のアレッサンドリーニだ。バッハの「イタリア協奏曲」をヴァイオリン協奏曲に編曲してしまったのだ。バッハがヴィヴァルディを題材に盛んに試みた「ヴァイオリン協奏曲→無伴奏チェンバロ協奏曲」という編曲の逆を行ったことに他ならない。

このほどCDを入手した。ヴィヴァルディの「四季」の売り場にあった。それもそのはずで2枚組のこのCDは、ディスク1が「四季」全曲が収まっている一方、ディスク2は編曲ものを多数含む様々な作品の寄せ集めになっていた。

芸が細かい。

実際に聴いてみると、もうスルリと入って来すぎる感じ。第一楽章だけしか収録されていないのが恨めしい。

 

 

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