「基本はバッハ」という本の18ページに悩ましい記述がある。バッハの3台のチェンバロのための協奏曲」を聴いたベルリオーズの感想が載っている。原文のまま引用する。
「この滑稽で愚にもつかない讃美歌を再生するために、情熱に燃え、若さにみちあふれる3人の賞賛すべき才人が結束する姿をみるのは、まさに胸痛む思いだった」
まずは若干の補足をする。「この滑稽で愚にもつかない讃美歌」とは「3台のチェンバロのための協奏曲」を指しているとみて間違いあるまい。ベルリオーズは明らかにこの作品を評価していない。「大した曲じゃないのに、このメンバーに苦労させるのはもったいない」というスタンスと見受ける。ベルリオーズの感想を深読みすると、「3人の結束」そのものは褒めていると感じる。何が悩ましいかを以下に列挙する。
- 3台のチェンバロのための協奏曲はニ短調とハ長調の2曲あるが、そのどちらなのかわからない。
- いつの演奏なのか不明。
- どこで演奏されたのかも不明。
- 指揮者もいたのかいないのかも不明。
素晴らしいこともひとつある。「才人」と言われた3名がわかっている。なんとなんとショパン、リスト、ヒラーという3名だ。あのショパンとあのリストだ。すごいメンツである。あろうことか指揮がメンデルスゾーンだった可能性も排除しきれない。ヒラーの代わりにクララシューマンだったらと妄想が膨らむが、聴衆の側にシューマン夫妻がいたかもしれないと考える。書かれていないがチェンバロではなくピアノで演奏されたことは確実である。
独奏チェンバロが何台なのかは別として、楽器が別の独奏楽器による協奏曲をチェンバロ用に編曲したということは明確で、研究者の手によってほぼ元の独奏楽器が特定されていることが多いのだが、この3台のチェンバロのための協奏曲だけは定説がない。とくにニ短調の方が難解で、演奏するさいのバランスが難しいという。ベルリオーズのダメ出しからニ短調の方でなかったかと想像する。
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