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カテゴリー「195 メゾソプラノ」の4件の記事

2021年10月 4日 (月)

ブラームスその愛と死

一昨日都内白寿ホールに出かけた。演奏会のタイトルが「ブラームスその愛と死」だった。メゾソプラノ小山由美先生、伴奏が佐藤正浩先生。もうずっと前、ブログ上の歌曲特集が始まった頃にチケットを予約して楽しみに待っていた。ちょうど台風一過に緊急事態宣言の解除も重なるという奇遇にも恵まれた。プログラムは下記。

  1. その谷の下で
  2. 僕の娘はバラ色の唇
  3. お姉さん
  4. 静かな夜に
  5. 日曜日
  6. 2人はそぞろ歩いた
  7. 湖上で
  8. サフォーの頌歌
  9. 甲斐なきセレナーデ
  10. 教会墓地で
  11. 雨の歌
  12. 永遠の愛
  13. 人に臨むことは
  14. 私は全てを見る
  15. おお死よ
  16. たとえ私が

伴奏の佐藤先生が進行役も兼ねている。声を張り上げるでもなく、淡々と適度なユーモアも織り交ぜて知らず知らずに聴衆を引き込んでゆく。4曲、5曲、3曲の塊に意図を持たせ、その間を素晴らしいトークが繋ぐ。ブラームスがオペラを書かなかったのは「低い側の声が好みだったから」という興味深い仮説も披露された。全く同感 だ。お人柄まで想像されるトークなのだが、やがてそれがピアノ伴奏にも色濃く反映していると思い知る。

さて小山先生。プログラムの進行は佐藤先生に任せ演奏に集中するが、ステージ奥壁面に投影されるテキストの日本語訳がご自身の執筆だということで理解を助けてくれる。深々という表現がまさにあてはまる歌声。とことん練り上げられた「愛と死」というテーマにふさわしい選曲なのだが、それもこの声があってこそだ。上記12番の後に休憩が来る。休憩明けには「4つの厳粛な歌」しかない。ステージの照明は抑えられ、小山先生は黒のドレスに着替えていた。この時点でもう我々は演奏者の掌中にいる。全てが意図されていてなおかつ、演奏者二人の間に完全な合意ある。でなければ絶対にできない演奏だった。台風一過、緊急事態宣言明けとのタイミングの一致は神様まで、この合意に加わっていることの証明に違いない。

「4つの厳粛な歌」の後、ようやく小山先生が聴衆に語りかけた。「コロナ禍のこんな中、お運びいただきありがとうございます」という切り出し。本当はお一人お一人の手を取ってお礼したいけれでもそうもいかないので、最後に「子守歌」を歌ってお別れしますと。

名高いブラームスの子守歌が披露された。「愛と死」と銘打ったコンサート。「死」と真正面から向き合った「4つの厳粛な歌」の後、「子守歌」を聴いて「愛と死」とは、実は「生」のことだと実感した。

凄いコンサート。

2019年10月 2日 (水)

ジェシーノーマン逝く

何ということだ。突然の訃報に驚いている。御年を聞いて、そんなにと。

ブログ「ブラームスの辞書」草創期の大企画三色対抗歌合戦 では緑組の主将を務めていただいたほどだ。

ご冥福をお祈りするばかりだ。

2009年4月24日 (金)

歌姫

歌の上手い女性という程のぬるい定義でお茶を濁す。

優れた演奏家が作曲家の創作意欲を刺激してきたことは、音楽史をひもとけばただちに見当がつく。ブラームスも例外ではない。器楽の分野ではピアノのクララ・シューマン、ヴァイオリンのヨアヒム、クラリネットのミュールフェルトなどがその代表だ。

声楽の分野にもいた。とりわけ優れた女性歌手がプロ、アマを問わず入れ替わり立ち替わりブラームスの周辺に現れた。そして時々それは恋の予感とセットだった。

  1. アガーテ・フォン・ジーボルト ご存知、元婚約者だ。初期のいくつかの歌曲に彼女が霊感を運んできたことが確実視されている。ヨアヒムも絶賛の実力者。
  2. ベルタ・ポルプスキー ハンブルク女声合唱団の有力なメンバーの一人。彼女の出産祝いに贈られたのが「ブラームスの子守歌」だ。
  3. ルイーゼ・ドゥストマン ウィーン宮廷歌劇場の歌手。熱心にウィーン進出を勧めた。
  4. アマーリエ・ヴァイス 優れた歌手。後のヨアヒム夫人だ。ブラームス好みのコントラルトで、いくつかの作品にインスピレーションを与えたようだ。
  5. オティーリエ・ハウアー 誰かがクリスマスに彼女をさらって行かなかったら自分がバカなことをしていたかもしれないと回想する魅惑の人。結婚の可能性で申せばかなりのレベルだったと思われる。
  6. ヘルミーネ・シュピース 50代のブラームスと結婚の噂まであったソプラノ歌手。op105あたりに霊感を与えたらしい。
  7. マリア・フェリンガー ジーメンス社ハプスブルク支社長夫人。アマチュアだが、相当な実力の歌手。夫の伴奏でブラームス作品を歌いまくったという。
  8. アリーチェ・バルビ 結婚の噂にこそならなかったがメロメロのブラームスだ。彼女と過ごすために夏のイシュル行きを延期するなど、朝飯前だ。結婚を機に引退する彼女の告別演奏会で、突発的に伴奏を引き受けサプライズを自演するほどの入れ込みだ。

2006年4月 8日 (土)

メゾソプラノ

女性の声の種類。ソプラノとアルトの間とされる。声域には思ったより差が無い。せいぜい1音か2音で、むしろ音質の差のほうが重視されているという。オペラでの主役といえばもちろんソプラノだ。男性ならテノール。メゾソプラノは主役ソプラノのライバルといった位置づけ。ライバルというと聴こえはいいのだが、実態は「かたき役」ないしは「色仕掛けの使い手」だったりもする。

大きなCDショップへ行くと陳列棚が歌手別になっている。さらには声の種類別に分類されている。売り場面積最大はやっぱりソプラノだ。メゾソプラノは並べられる歌手の知名度や数においてソプラノやテノールの後塵を拝している。

そもそも声楽曲はオペラと歌曲と合唱曲という三本柱からなっている。いやいや、柱として巨大なのはオペラだけで歌曲と合唱曲は日陰者だ。だから巨大な柱を形成するオペラの主役たるソプラノが売り場の主役になることはとても自然なことだ。

しかしだ。ことブラームスの歌曲に限定すれば、メゾソプラノは途端にソプラノに拮抗する勢力となる。ソプラノ歌手の出したCDが、しばしば余技なのに対して、メゾソプラノ歌手のブラームスは飯の種だったりしそうである。楽器でいえばヴィオラみたいなイメージだ。

ブラームスの作品がメゾソプラノの音質を要求しているとしか思えない。アルトやコントラルトにも同様の現象が起きている。たとえば「4つの厳粛な歌」作品121はブラームスの遺書代わりの作品だ。元々男性歌手の専売特許だが、これを女性も歌うことがある。実をいうと私の知る範囲ではあまりソプラノは歌わない。上限はメゾソプラノあたりにあるようだ。燦然と輝くコロラトゥーラも結構だが、ブラームスを聴くなら底光りのする声が相応しいような気がする。

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