母に
間もなく刊行される本のあとがきの末尾には、「母に捧げる」の文言が踊っている。いい大人がと思われるのを顧みず、こう書かずにはいられない理由がある。
9年前、私が妻を亡くしてから3人の子供の母親代わりとして還暦の子育てが始まった。私が今の勤務先で働けているのも、一家離散せずに同じ屋根の下でずっと暮らせてきたのも、妻の死と同時に同居に踏み切り幼い子供たちの面倒を見てくれた両親のおかげである。父がその後すぐ倒れて他界した苦難にも負けず、ただ私の3人の子供たちのために全てをなげうってくれている母である。この本の執筆に打ち込めたのは、子供たちが成長し手が離れたこともさることながら、母のふんばりのおかげである。正直なところ自分を育ててもらっていた頃には、ありがた味も感じなかったのだが、わが子三人の母親代わりを懸命に務めてくれている姿には、降参である。
日常の生活の中では、改まって感謝の言葉を述べることもない。成長したとはいえ、食い盛り伸び盛りの子供を抱えた子育てに終わりはない。何か特別な区切りでもない限り、感謝の気持ちの表しようがない。音楽、それもブラームスなんぞにはかけらも興味のない母に、こんなにマニアックなブラームス本を捧げるというのも気が引けるのだが、そうとでもしないとバチが当たる。せめてもの感謝の印である。
本のあとがきにはここまで詳しくは書けない。
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