初期ピアノ作品症候群
ブラームスの作品上に記された音楽用語の分析を始めると、否応なく気付く現象の一つ。生涯に一箇所のようなレア指定、「molto」や「grand」によって修飾された大袈裟表現が作品10より若い番号に集中して現れる。この傾向を本文中で「初期ピアノ作品症候群」と名づけている。「大袈裟」の定義がやや曖昧であるが、実例を見れは理解は得られると思う。
作品10より古いピアノ作品に目立って現れることが命名の根拠だが、その傾向は作品35の「パガニーニの主題による変奏曲」まで観察することが出来る。室内楽曲、声楽曲はピアノ曲に比べると傾向が薄まる。op3-2やop8のように後年にブラームス自らの手で改訂された作品では、音楽用語の用法や語彙がシンプルな方向に改められている。ブラームス自ら初期作品の用法や語彙を一部やりすぎと感じていた可能性を示唆したい。
ピアノ曲における境界線は大きくはop10まで、完全に脱するのはop76だ。室内楽はop8が1890年に改訂を受けているので「初期ピアノ作品症候群」は認めにくい。声楽曲ではop19までを境界と想定したい。声楽における境界の設定には、もうひとつ別の切り口もあるとだけ言っておく。
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