出版社の都合
楽譜間の異同のこと。
ブラームスの同じ曲でも出版社により、楽譜上に微妙な違いがある点をさして「出版社の都合」と呼んでいる。原本がどうなっていたかが大変怪しい中ではあるが、大抵ヘンレ版が一番寡黙で、国内版が一言多い。おまけに一言多い国内版の指定が、生涯で唯一だったりする笑えないケースが後を絶たない。国内版の序文にそれを明記する言葉は無く、ブラームスの意思に最も近いのはどれか判りにくくなっている。
同じ曲でも演奏家により演奏に違いが生じる点については、侃々諤々の議論が交わされているのに、同じ曲の楽譜間の違いについては大した議論が無いのは不思議である。楽譜の違いは、明白かつ決定的なのに比べて、実際にはテンポくらいしかわからない演奏の違いについて果てしない議論が繰り返されるのは壮観である。
実際の話、作曲家の自筆譜は、かなり読みにくい。出版にあたっての出版社の苦労は、並大抵ではなかろう。その読みにくさに起因する間違いは、微笑ましくさえあるが、単なる解釈の押し付けは、それが高名な演奏家のものであってもお断りである。
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