献本行脚⑤
献本先の本命の一つに献本を決行した。
「千葉大学管弦楽団」である。西千葉キャンパスの奥深くに鎮座する部室を訪ねた。西千葉の駅から10分の道のりを噛み締めるように歩いた。「ブラームスの辞書」の成り立ちを考えるとき、千葉大学管弦楽団への献本は必須事項である。
部室。昔のままだった。雑然とした様子も昔のままだった。この冬が98回目の定期演奏会だという。私の最後の演奏会は50回だったことを思うと時の流れを深く感じざるを得ない。第50回定期演奏会でマーラーに挑んだ頃、今の4年生でさえ大半は生まれてはいないのだ。古びたロッカー、床の敷物、楽器のにおい、この部室でヴィオラを勧められたのだ。新入団員名簿の番号は21番だった。4年の時にみんなで手作りした指揮台は昔のままだった。当時重くて不評だったが、裏を返せば丈夫だったということなのだろう。あのころのままという物品がいくつも散乱している。
「ブラームスの辞書」opus144に名刺を添えて置いてきた。いつかブラームスを演奏するときに役立ててもらいたい。
一人感慨にふけったが、忘れてはならないことがある。学生オケはやっぱり現役のものだ。4年でメンバーが入れ替わる学生オケは10年もたってしまったら別のオケと思わねばならない。OBが思っているほど学生は楽団の歴史を背負ってはいない。歴史が大切なのはOBOGであり、学生は次の演奏会の曲目、次のコンパ、それに目の前の恋ほどには歴史を重視してはいないのだ。それでいい。
それでもやはり我が子同然の著書を一冊捧げたくなるほど、このオケが与えてくれたものは圧倒的に大きい。千葉大学管弦楽団への献本は、この度の自費出版の総仕上げと位置づけ得るものだ。現役の学生諸君が「ブラームスの辞書」を受け入れるかどうかとは、話が別である。
「母なる千葉大学管弦楽団」である。
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