献本行脚④
昼のひと時を、はずせない献本にあてた。
楽器を手にして4ケ月のド初心者が、ブラームスの第二交響曲のパート譜をあてがわれて、半年後には演奏会に出てしまうことなど、学生オケの弦楽パートではあり得る話である。「初心者を育てて何ぼ」という面が少なくないし、立派に育つ奴も少なくない。
さすがにやばいと思ってか、ヴィオラの先輩がレッスンに通うように進めてくれた。先生を紹介するから、よく練習するようにと言われて恐る恐る訪れた。よい先生にめぐり合った。東京大学の出身で、やがてプロのヴィオラ弾き、ヴァイオリン弾きに転職した経歴の持ち主で、アマチュアオケの指導にも経験が深いとのことだった。大学一年の秋だったと思う。それ以来、ほぼ毎月2回のペースで大学4年の3月までお宅に通うことになった。
先生の指導は独特だった。幼少のころからプロ目指してという類の生徒ではない私に対しけっして多くを求めることはなかった。学生オケで取り組み中の曲は、どんなに難しい曲でもそれはそれで出来るところまでふんばりなさいと言う一方で、レッスンでは基礎的なボウイングを中心にいわゆる「ヴィオラらしい音」の出し方を教えてもらった。ポジションチェンジ、ヴィブラート、スケール、アルペジオetc。そしてそして何よりもブラームスの数々の曲について語ってくれた。かなりのブラームス好きなのだ。
今日23年ぶりにお目にかかった。私を覚えてくれた。しかもフルネームで。突然の訪問にも嫌な顔ひとつせずに室内に迎え入れてくれた。「ブラームスの辞書」をさしあげに来た主旨を告げると、あのころと全く変わらぬ笑顔で喜んでくださった。お好きな曲をひとつと申し上げると、しばし迷った挙句に「悲劇的序曲」を所望された。opus81のシールをその場で貼り付けて差し上げた。
再会を約してその場を辞した。約20分の嬉しい再会であった。「ブラームスの辞書」の持つもう一つの力。それは音信が途絶えていた旧来の知人と再会出来ることだ。既に一つや二つではない旧交が復活している。
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