落差
音楽の聞こえと、楽譜の印象の違いを指す。
耳からの聞こえを頼りに、勝手に想像していた「譜面面」と、実際の楽譜とが大きく違うという現象がブラームスではしばしば起きる。
たとえば弦楽六重奏曲第一番第一楽章は、春を思わせる無垢で明るい立ち上がりだ。実際の楽譜はスラーのかかり方が複雑で微妙だ。第一弦楽四重奏曲の第三楽章は、まさか弱起だとは思わなかった。第二交響曲第四楽章には4分の5拍子から4分の3拍子に聴こえる場所があるけれど、楽譜上は2分の2拍子で押し通されている。4分の3拍子と8分の6拍子の騙し絵状態はしばしば見られるし、2分の3拍子と4分の6拍子も同様だ。
聞こえと記譜の落差を、ブラームスは楽しんでいたのではないだろうか?聴き手や弾き手をメビウスの帯やエッシャーの騙し絵のような感覚にさせることを楽しんでいたように感じられる。あるいは、その矛盾から解き放たれる瞬間の爽快感そのものを、音楽の目的を達するためのツールと考えていたフシがある。精巧に計算された字余りの短歌と同じニュアンスかもしれない。
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