f ma dolce
再び重慶での目覚めだ。そして今夜は中国最後の夜を成都のホテルで過ごすことになる。蜀の都である。
さっそく本日のネタである。
「強くしかし優しく」
用語としての「f」と「dolce」は相性がよくない。併記されることはほとんど無い。強くて優しいことは難しいのだ。「XmaY」というとき、「XとYは放置しておくと両立不能」というニュアンスが感じられる。「ma」を逆接の接続助詞とする立場である。
「f」と「dolce」はこの典型である。「p ma dolce」という用法が見られないこともこの考えを補強していると思われる。
さてさてこの「f ma dolce」は1890年になって初めて使用される。人生の終わりまであと残り7年の段階である。ここに至って初めてブラームスは「強いのに優しいこと」を求めたのだ。残る人生の中でブラームスはあと5回、限られたジャンルで使用することになる。それがどこだかブログで語る訳には行かないが、「f ma docle」の特徴ある使用実態を知ったことが「ブラームスの辞書」執筆の動機のひとつであることは間違いない。
万が一この「f ma dolce」の楽譜上への配置が、ブラームスの関知せぬところで、出版社によって後から付加されたものだとしたら、この偶然は恐ろしい。最晩年の特定のジャンルに集中させるという芸当は、世界遺産級である。ブラームスの意図であることを祈りたい気分だ。
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