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2005年10月17日 (月)

のだめの中のブラームス⑫

重慶のホテルで目覚めているはずだ。今夜もまた重慶での宿泊になる。道中で唯一同じ都市での連泊になる。.

さて今回は中5日で「のだめネタ」だ。なんだか松坂の登板間隔みたいだ。前回「のだめの中のブラームス⑪」の末尾で千秋の勝利については、評価を保留していた。今回その周辺を検証したいと思う。

この「R☆Sオケ」デビュウ演奏会を迎えるあたり、彼には大小2つの目的があった。ひとつは前回「勉強不足を指摘されたシュトレーゼマンへのリベンジ」だ。これには完勝したと考えていい。前回の記事で述べた通りだ。今ひとつは、千秋自信がもつトラウマとの戦いだ。のだめの初期から仄めかされて来た「飛行機嫌い」だ。この足かせは千秋の未来を覆う暗雲と位置づけられている。このブラームス第一交響曲が、このトラウマとの闘いでもあることが第八巻36ページ以降の記述で明らかになる。36、37の両ページは第一交響曲第一楽章の冒頭を描写しているが、そこに「情熱と」「絶望」の文字が大書される。続く38ページではこの2つの概念が木管楽器の下降と弦楽器の上昇という2つの旋律に象徴されていることが明らかとなる。C音連打に加わる楽器以外はトランペットを除いて、必ずどちらかの陣営に加わっている。

これは、千秋真一が持つ音楽への「情熱」と飛行機嫌いに象徴されるトラウマに起因する「絶望」との対比の描写と考えて差し支えあるまい。

作曲者ブラームスも同様の葛藤を持っていたと推測される。「情熱」と「絶望」だ。ブラームスの場合この2つに「クララ・シューマン」というキーワードを補って考えるとすっきりする。ブラームス第一交響曲は元来こうした葛藤を内包した音楽だからこそ、千秋の内面を鏡のように写し取ることが出来たと解したい。

だが、忘れてはならぬことが一つある。この対立の図式には、ブラームス自らの手で救いが用意されている。木管楽器と弦楽器の対立の図式の中でヴィオラは微妙な位置取りを占めている。弦楽器でありながら、担当する旋律は木管楽器側の下降旋律なのだ。決定的葛藤の局面に残された一縷の望み、それがヴィオラなのだ。ヴィオラ弾きよ、心せよ。

この葛藤が千秋のトラウマの象徴である証拠が39ページの黒木くんのオーボエのコマに現れる「ブラームスの心の傷」という文言だ。これを「千秋の心の傷」と呼応するとみて万に一つも誤ることはなかろう。第一楽章は「ミ」に付与される「ナチュラル」によってハ長調で終結するのに、この葛藤は晴れていない。

葛藤の解決は第四楽章に持ち越される。47ページの「歌え歓喜の歌を」がそれを象徴する。続く48ページ冒頭に涙を流すのだめが描かれていることをご記憶いただきたい。交響曲が歓喜で終わることと、千秋のトラウマの呪縛が解かれることを結ぶ鍵が「のだめ」なのだ。ここに涙ののだめが描かれる必然を味わいたい。演奏会を終えた後、祭りの後の寂しさ的な余韻に浸る千秋が55ページから描写される。演奏に感動したのだめから千秋のご褒美という形で、かわいらしい催眠療法が施される。56ページから64ページ、実に8ページを費やして、千秋はのだめに導かれてトラウマを克服する。

かくして千秋はシュトレーゼマンにもトラウマにも勝利することになる。

第一交響曲が持つ、ニ面性を千秋その人の内面にキッチリ呼応させた、のだめ作者様の見識が見事である。この第一交響曲が元来内包する葛藤については帰国してから改めて言及したい。のだめ系の記事の中で扱うわけには行かない一大テーマである。

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