倒置論
倒置とは単語の位置を逆にすること。大抵は意味を強調する働きとなる。
「お前はバカだ」を倒置すると、「バカだ。お前は」となる。後者のほうが意味が強められているというわけである。イタリア語でも倒置は強調なのだろうか?
ブラームスの用語遣いには、こうした例が溢れている。たとえば「molto crescendo」と「crescendo molto」だ。けれども、このうちどちらがより意味が強いかは日本人には、にわかに判別できない。小さからぬ問題である。ブラームスの楽譜の上にはこれらが混在している。それどころか、同じ楽曲の程近い場所に置かれていたりもする。用例を分析した限りでは、傾向が浮かび上がってこない。楽譜上に記されている以上、これらを小さなことと無視していいとは思えない。
「poco ritardando」と「ritardando poco」などこうした例は枚挙に暇が無い一方で、「ben marcato」のように倒置型が絶対に現れない語句も存在している。
単語二つのケースはまだ、ましである。「presto non troppo」は「non troppo presto」の倒置形と思われる。「f sempre piu」は「sempre piu f」の倒置形とも解し得る。
一般に「強くただちに弱く」と解されている「fp」だが、これを倒置した形に見える「pf」は「弱く直ちに強く」の意味ではない。「poco f」の略記された姿である。
「ブラームスの辞書」ではこうした語句の実例を網羅しているが、規則性を浮かび上がらせることには成功していない。若干のささやかの提案を試みてはいるが、それらをブログで書き記すわけにはいかない。
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