Dein Brahms状態
「貴方のブラームス」という意味。手紙の署名にしばしば書かれる。「dein」は「貴方の」だが、親称「du」の所有格だとかで、相当親しい間柄でしか使わないらしい。つまりこうして呼びかけられる間柄というのは、よっぽどである。
しかし、ブログ「ブラームスの辞書」では、別の意味に転用している。
- 弦楽六重奏曲第一番
- 弦楽四重奏曲第三番
- ピアノ協奏曲第二番
ヒントは上記のリストだ。これら皆が変ロ長調であることは、すぐに気付くと思う。さらにこれらは皆中間楽章にニ短調の楽章を持つ。弦楽六重奏は第二楽章の有名な変奏曲がニ短調だし、弦楽四重奏曲第三番は、第三楽章のヴィオラの聖域がニ短調だ。ピアノ協奏曲第二番は、第二楽章に名高いニ短調のスケルツォがある。「主調の3度上の短調」ということになる。ドイツ語で書けばBdurとDmollだ。その頭文字DとBを取ってこの関係を「Dein Brahms」と呼ぶことにしている。中間楽章に主調の三度上の短調が現れるケースは4回ある。というか4回しかないともいえる。交響曲のアナリーゼでもブラームスの三度好みがしばしば強調されるように、三度関係での転調はブラームスの得意技である。にもかかわらず「三度上の短調」(三度下の長調)が同一楽曲内で使用されるのが、「Bdur-Dmoll」に限られている。4つのうちの残り一つが、例外を形成するピアノソナタ第一番だ。ハ長調の第一楽章で立ち上がった後、第三楽章にホ短調のスケルツォが来る。三度上の短調だ。「BdurとCdur」の関係はつい最近も話題にした。(ジュピターごっこ参照)
いくつかのすぐれた作品がBdurを共有することを、ブラームス本人も意識していたと見え「Bdurという牝牛からミルクを絞り過ぎないように」という本人の発言も伝えられている。ヘンデル、ハイドンの両バリエーションがすぐに思いつく。
楽曲の量としては、必ずしもトップではないBdurだが、他にもいくつか不思議な現象がある。ソナタのフィナーレが「allegretto」になっている曲をリストアップしてみるがいい。実はこれが偉く簡単だ。今日の記事の最初に掲げたリストがそのままあてはまる。つまり「フィナーレにallegrettoを採用するのはBdurの楽曲に限る」という命題が成立しているのだ。これには例外は無い。
音形遊びを提案する。ハ短調が「CS」というクララ・シューマンの象徴という話をした。この三曲のBdurの曲は「DB」としてブラームスの象徴なのではないだろうか?「DB状態」の作品とクララ・シューマンにはただならぬ関係を匂わす証拠がある。弦楽六重奏第一番の第二楽章。有名なニ短調は、クララ・シューマンへのプレゼントにするためにピアノ用に編曲されている。弦楽四重奏曲第三番は作品67だ。「踏ん切りとしてのハ短調第一交響曲作品68」のひとつ前の番号だ。
おそらくブラームスがクララ・シューマンへの手紙の末尾に何度か「Dein Brahms」と署名したことは、確実と思われる。
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