提示部のリピート記号
いつぞやに続いて話をソナタに限定する。
室内楽24曲にピアノソナタ3曲と交響曲4曲を加えた31曲から第一楽章にソナタ形式が来ないホルン三重奏曲を除いた30曲の第一楽章について提示部のリピート記号の有無を調べてみた。
「リピート記号有り」が17曲、「リピート記号無し」が13曲だった。リピート記号の有無にどんな規則性があるのかが本日の話題だ。
- 作曲年代で見てみよう。おおまかにいうと初期ほど「リピート記号有り」が多く、年とともに「リピート記号無し」が増える傾向だが、作品25が「リピート記号無し」だったり作品111に「リピート記号」があったりという具合に重大な例外も存在して座りが悪い。
- 作品のジャンルでいうと弦楽器だけの室内楽7曲は全て「有り」である点際立った特色になっている。また五重奏以上の多重アンサンブルは全て「有り」である一方、二重奏ソナタはチェロソナタ第一番を例外として「無し」ばかりである。ピアノソナタ、交響曲、および三重奏曲と四重奏曲は有無が割れている。
- 調性や拍子との相関関係は無いと言えそうだ。強いて挙げるなら8分の6拍子は全て「有り」だが偶然の可能性も高い。
- 楽章の長さとの相関関係はと見ると小節数の少ないほうの上位10作品では有りと無しはキレイに5対5になる。多いほうの10作品では有りが7対3で優勢だが、規則性は認めにくい。強いて言うなら500小節を超える作品3つは全て「有り」になっている点であろう。
ソナタ形式の提示部にリピート記号を与える与えないの基準は、今のところお手上げだ。上記1番の作曲年代にうっすら相関関係が認めれらるし、上記2番で述べたように、響きの厚い側に「有り」が多く、響きつまり編成の小さい側に「無し」が多いというボンヤリとした規則性が見られる程度である。軒並みぼやけた傾向しか示さない中では、四重奏曲から六重奏曲までの弦楽器のみのアンサンブルは全て「有り」になっているのがよく目立つ。
天才のひらめきなのだろう。ブラームスはこの曖昧さをしばしば逆手に取る。提示部のあと、あたかも冒頭に戻ったかのように第一主題を奏させながら、実は展開部をひた走っているという手を使って聞き手を欺いている。ピアノ四重奏曲第一番や第四交響曲がその例である。提示部の末尾にリピート記号があるはずという聴き手の思い込みをまんまと利用するのだ。
ピアノ四重奏曲第一番は提示部末尾にリピート記号を置かない初めての室内楽だし、第四交響曲は提示部末尾にリピート記号を置かない初めての交響曲だ。
月並みな結論で恐縮だが、要はわからないのである。
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