仕組まれた「ppp」
「ff」がほぼ「最強奏」の座に君臨していることと対照的に「pp」は「最弱奏」とはただちに断言できない。「ppp」が68箇所存在するからだ。「ppp」を含む語句に範囲を広げるとさらに4例が加わることになる。「fff」は初期に3例存在するだけであるのに対して「ppp」はその24倍の濃度で分布している。無視は出来ない。
作品番号付きの作品でいうと、ピアノソナタ第一番第三楽章52小節目で初出現してから、6つのピアノ小品op118-6を最後に姿を消すまで、ブラームスの創作人生にほぼ満遍なく分布し、楽曲中のダイナミクスの底を手際よく指し示す機能を想定できる。一方声楽のパートには全く現れないという顕著な性格も持っている。
さて、注目の交響曲には、1番と4番にのみ出現する。特に4番には最多の4箇所を有するが、不思議なことに各楽章全てに律儀に一箇所ずつ現れる。
第一楽章と第三楽章は、とても良く似た使われ方になっている。第一楽章では、243小節目で、第三楽章では163小節目だ。どちらも再現部のほんの直前、再現部を否が応でも際立たせる弦楽器群のために存在する。ピチカートの「ポン」を引き金に再現部が立ち上がっている。「ブラームスの辞書」でいうところの「景色」が同じである。おまけにどちらも主役はチェロの動きにある。「ppp」を熟考の末に使っている様子が手に取るようだ。
そのつもりで見ると第二楽章、第四楽章の「ppp」もなるほどな場所になっている。どこにあるかは秘密である。
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