維持することの難易度
音楽用語「sempre」にまつわる話。「sempre~」や「~sempre」で「常に~で」と解されている。「ブラームスの辞書」では、何かを維持することが難しいとブラームスが感じたとき、演奏者への注意喚起に使用されている可能性を提案した。「油断すると維持が困難」というニュアンスに近い。単なる「marcato」よりは、「marcato」の維持が難しいときに「sempre marcato」としているのではないかという意味である。
ブラームスにおけるダイナミクスの使用頻度ナンバー1は「p」である。約7500箇所存在している。もし「sempre」という語が様々な用語を公平に修飾していると仮定すると、「sempre」が修飾する頻度も、「p」が最大にならねばならない。しかし事実はそうなっていない。ダイナミクス系の用語のうち「sempre」によって修飾される頻度が一番大きいのは「pp」である。
「pp」は出現の総数では「p」の3分の1にとどまるが、「sempre」によって修飾される頻度は「p」の約二倍に達する。ブラームスは、全てのダイナミクスのうち維持が一番難しいのが「pp」だと考えていた可能性がある。
ダイナミクス以外の用語で恐らくもっとも「sempre」によって修飾されているのは「dolce」である。一連の語句の中で「sempre」が修飾する語の特定が困難なケースもあり、あくまでも「おそらく」付きの断定になる点ご容赦願いたい。「dolce」に続くのが「crescendo」「legato」「marcato」「leggiero」「animato」「espressivo」「staccato」あたりと思われる。これをブラームスが維持困難と考えていた順番と断定するは危険だが、一定の示唆を含んでいるかもしれない。
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