p pesante
「弱く、引きずって」と解される。「p」はとてもメジャーな用語。メジャー過ぎてかえって尻尾がつかめないほどだ。一方の「pesante」はそこそこだ。合計で39箇所存在するが、三曲のピアノソナタに12回現れるのが際立っている。それから第一交響曲にも5回出現する他はパラパラといった感じの極端な傾向を持ついわば「曲者」なのである。「leggiero」の反対概念とも思えるが、現れ方といい頻度といい一筋縄ではいかない。画一的な解釈は危険で「空気を読みつつ」としか言えない。
実は「p」と「pesante」の共存はブラームスにあってはたったの一度実現しているだけのレアアイテムだ。作品32-1「何度飛び起きたことか」の冒頭のピアノパートに存在している。歌詞の内容は、昼間やらかした愚かな行為を思い出して、夜中に何度も起き上がったというものだ。こうした歌詞を先導するピアノの冒頭一小節間の表情付けとしては、秀逸である。「p pesante」の唯一の用例としてのはまり度は高い。ここを「sosteuto」せずに「pesante」とする感性が真似の出来ぬ領域なのだと思う。何人のピアニストがこの希少性を理解した上で弾いているか大変興味深い。
「pesante」が第一交響曲に集中することが引っかかっているせいではないのだが、この歌曲「何度飛び起きたことか」の11小節目と12小節目を聴くと第一交響曲第一楽章の9小節目10小節目の弦楽器のピチカートを連想してしまう。
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いつもご愛読ありがとうございます。
ぐっと来るお言葉です。
ご期待を裏切らぬよう精進します。
投稿: アルトのパパ | 2006年3月23日 (木) 18時04分
本当にアルトのパパさんのブラームス研究ぶりには、ただただ脱帽するばかりです・・・。
ブログを読んでいると、私もどんどんブラームスという人間に近づいていけるような気さえしてきます。
投稿: 亜ゆみ | 2006年3月23日 (木) 02時44分