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2006年3月25日 (土)

もう一つのアガーテ

弦楽六重奏曲第二番ト長調を通例「アガーテ六重奏曲」と呼んでいる。アガーテは若きブラームスの恋人。結局は結ばれずに終わったが、彼女の名前「Agathe」が「AGADHE」の音名に読み替えられて第一楽章に盛り込まれていることから来るネーミングだ。この六重奏曲に言及する大抵の書物が、このエピソードに触れているメジャーネタだ。第一楽章163小節目のアウフタクトから四分音符にして5拍分の間である。正確を期すなら「AGADHE」がそのまま転写されているわけではなくて、「AGAHE」と「D」に分離されている。前者は第一ヴァイオリンと第一ヴィオラに、後者は第二ヴァイオリンと第一チェロにそれぞれ任されている。ダイナミクスは「f」だ。第一ヴァイオリンの最初のAはA線の2オクターブ上である。ヴィオラとともにかなりのハイポジションだ。

ここに疑問が一つある。超有名なエピソードなのだが、出典はどこなのだろう?この楽句がアガーテの音名化だとブラームスが本当に言ったのだろうか?先ほども述べたとおり、この部分「AGADHE」が直接引用されているわけではない。「AGAHE」と「D」に割られている。元恋人の想い出を回想する時、はたして名前を2つに割ったりするものだろうか?鐘に「国家安康」とあるのを持ち出して「家康」の名前を引き裂いたと難癖をつけた徳川側のロジックを持ち出すまでもなく、名前を二つに切り裂くのは縁起が悪いと思わないのだろうか?さらにダイナミクスは「f」しかもかなりのハイノートだから、この瞬間は絶叫に近いニュアンスだ。昔の恋の回想にしては物々し過ぎはしまいか?そしてとどめは、この旋律をこの楽章中の最高の旋律と呼べるだろうか?否!!最高の旋律は断じて135小節目アウフタクトのチェロだ。私がアガーテならこちらの旋律を奉られたい。本当にこれが「アガーテ」の回想なのだろうか?

作品44-10に清らかな女声合唱のための作品がある。この作品の冒頭に六重奏曲の問題の部分と同じ「AGAHE」という旋律が現れる。連続する5つの四分音符にあてられている点まで瓜二つである。さらに3小節目のアウフタクトから繰り返される際には、第一ソプラノの「Dis」がかぶってくる。「AGADHE」だ。ダイナミクスはと見れば女声4部全てに絶叫からは程遠い「p espressivo」が奉られている。かつての恋人の記憶のための音楽ならば、小声で密やかに語られてこそ相応しいのではあるまいか?主旋律マーカー「espressivo」はそんなシチュエーションにピタリとはまり込む座りのよさである。本当に大事なことを小声で言いたいことが誰にでもあると思う。ましてかつての恋人の名前なら尚更ではあるまいか?

ブラームスの伝記では、アガーテとのエピソードは大抵六重奏曲とともに語られ、作品44-10の合唱曲に言及されることは滅多にない。作品番号順に捉われると、六重奏曲のほうが先とも思われるが、完成年代を調べると作品44-10のほうが、4年くらい早い。

どうあってもアガーテにこだわるなら作品44-10こそ大書されるべきとは言わないが、少なくとも併記ぐらいはして欲しいものである。

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コメント

<おはつ様

アクセスありがとうございます。
ずいぶん昔の記事を掘り当てていただき恐縮です。

密接不可分だからこそ「D」と「H」を重ねて鳴らしたのではないかというお考え、いかにもありそうです。

今後もまた面白いお話をお聞かせ下さい。

訂正です
×発想記号や出現や
○発想記号の出現頻度や

はじめてお邪魔しましたが、ブラームスについて
研究の成果を興味深く読ませていただきました。
作曲家への大変な愛情に感服します。

>「AGAHE」と「D」に割られている。元恋人の想
>い出を回想する時、はたして名前を2つに割ったり
>するものだろうか?

音名[DH]と読みかえられている[TH]ですが、
この[TH]の発音は、ドイツ語では実際には[T]と
同じであり、おっしゃるようにTとHとに分けられるもので
はないのですが、ブラームスはこれを「2つに割った」と
いうより、むしろD-Hを「同時に」鳴らすために和音に
したのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

ソナタの分析で、「家」から一番遠いところへ到達した
点を「底」ととらえる方法や、発想記号や出現や
調性の配置を統計的に分析する手法は、とても
興味深くまた本質的でもあると思いました。
面白いブログなので今後もときどき勉強させてもらい
にきたいと思っています。

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