オートマチックリタルダンド
ラプソディート短調op79-2の終末近く118小節目の後半に「(quasi ritardando)」と記されている。「ほとんどリタルダンドのように」とひとまずは解釈しておく。
116小節目から右手が四分音符を3つに割りながらDとEsを続けている。2分音符が6等分されているのだ。この表記があるところを境に、2分音符が4等分にかわっている。さらに120小節目では、3等分に変わり、121小節目で2等分になって122小節目に滑り込む。ブラームスに時々見られる仕組まれたリタルダンドだ。いわゆる「オートマチックリタルダンド」である。
問題の「(quasi ritardando)」の「quasi」の意味合いは簡単に説明できる。「リタルダンドに聴こえるように」である。「楽譜にオートマチックリタルダンドを仕組んであるからテンポを落とす必要は無い」の意味であるとさえ解しうる。最終小節123小節目のアウフタクト四分音符の「ff」が「in tempoのタイミングで鳴らされねばならぬ」という明快な意思表示だろう。118小節目の問題の「(quasi ritardando)」を受ける「a tempo」が存在しないのも、この場所が「in tempo」で貫かれることの証拠である。
この「(quasi ritardando)」のカッコは雄弁に「リタルダンド不要」を訴えている。「ritardando」の字面につられてゆめゆめテンポを緩めてはなるまい。
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