編集後記
ブラームスの誕生祝い替わりの一昨日の記事の編集後記である。
毎日がブラームスの誕生日みたいな私のブログでも、一昨日は特別だった。気合が入った。誰かさんの生誕250年だというのにおバカな企画である。
家中にあるCD内でブラームスの歌曲を1曲でも歌ってくれている歌手全員を対象に一人一曲を選定して、ipod上で架空歌合戦を再現するという企画はipod購入当初から暖めていたものだ。やってみてまず感じたこと、これがまた、無茶苦茶楽しい作業だった。歌手ごとに録音している曲が違うので、一人一曲を重複を生じぬように選ぶのはなかなか難しいのだが、その難しさが楽しみを増幅させていた。好きな曲を誰に歌わせるかにこだわった。だから1月以降、CDを聴きまくって誰に何を歌わせるかを考えた。その過程でいくつか感じたことを披露することとする。
- まず最初にお断りせねばならないこと。それは、三色対抗歌合戦にノミネートされた演奏は、全て実際のCDとして存在しているということだ。企画は全くの架空だが、音源としては実在だということだ。根を詰めて集めればもっと集まるだろう。ブラームスの歌曲はみんなから愛されているのだ。
- 子守唄しか歌っていない歌手が三人いる。マリリン・ホーン、アンジェラ・ゲオルギュウ、ブリン・ターフェルだ。仕方がないから彼らには子守唄で参加してもらった。マリリン・ホーンだけがピアノ伴奏だ。まあ世界最高の子守唄だから仕方がない。
- 昔の歌手は録音の状態が悪い。モノラルは気にならないのだが、音質は我慢という歌手は、ロッテ・レーマン、カスリーン・フェリアー、アレキサンダー・キプニスの三人だ。不思議なことに聴いているうちに音質は気にならなくなる。
- この審査のために根をつめて聴いているうちに魅力を再発見した曲がある。作品86-3「夢に遊ぶ人」、作品86-4「野を渡って」、作品107-2「ザラマンダー」、作品72-4「落胆」、作品72-5「とてもかなわない」、作品49-2「すみれに寄せて」、作品48-5「涙に濡れた慰め」、作品70-2「ひばりのさえずり」、作品70-4「夕立」、作品71-5「恋唄」etc。収録出来なかった曲にも良い曲がたくさんある。
- ブラームスの歌曲演奏におけるメゾソプラノの魅力と、ソプラノの難しさを再認識した。メゾソプラノはほぼ何を歌っても様になるが、ソプラノは選曲が難しい。CDジャケットにはソプラノとあっても声の性質によって細分化されていると聞くが、いわゆるコロラトゥーラは選曲のセンスが問われる。グルベローヴァは、他の歌手の選曲を微妙にはずした内容だが、聴いてみるとその理由がわかる。グルベローヴァの歌う作品85-6「森のしじま」は選曲の勝利だ。またプライスは作品85-1「夏の宵」がもっとも美しい。
- 同じソプラノでもエリー・アメリングやルチア・ポップは、乙女チック系の選曲だ。透明でゴムまりのように弾む声は、目隠ししてもそれと判る。この系統のソプラノは比較的ブラームスになじむ。シュワルツコップの作品84-4「甲斐なきセレナーデ」はゾクゾクする。録音状態の悪さを一瞬で忘れさせてくれる。
- デボラ・ポラスキはものの本によれば一応当代最高のワーグナー歌いという触れ込みだから、どうなることかと思っていたが、よい意味で予測を裏切った。よくよく聴くとこの人ドラマティク・ソプラノという最も太い声種だそうだ。声だけ聴いているとてっきりメゾソプラノかと思っていた。「まどろみはいよいよ浅く」作品105-2から底光りを引き出してくれている。
- その点メゾソプラノはもう百花繚乱である。メゾソプラノのみなさんはブラームスに足を向けて寝られないと思われる。アグネス・バルツァ、テレサ・ベルカンサがいないのが不思議だ。
- 我が家にCDがないので涙を呑んだが、是非入れたい人は以下の通り。CDが出ている出ていないは二の次であくまでおねだりだ。男性では何と言ってもマティアス・ゲルネ。シューマンばかり歌ってないでブラームスも出して欲しい。クルト・モルあたりも何とかならんものだろうか。女性では、コジェナー、ルネ・フレミング、アンドレア・ロスト、ジェニファー・ラーモア、ドロテア・レッシュマンあたり。あとダメ元でナタリー・デッセイでしょうか。バルトリもだ。
- 三大テナーはいなくてもほとんど退屈しなかった。三大テナーほどの人たちになるとそのあたりはとっくに心得ていて、ブラームスで飯食おうなどとはちっとも思っていないと思われる。小遣い稼ぎにもならんのとちゃいまっか?失礼ながらテノールには事実上用がない。なるほどこれではオペラは書けません。
- キャスリーン・バトル、ミレルラ・フレーニ、キリ・テ・カナワ、バーバラ・ヘンドリックス、エディット・マティス、グンドラ・ヤノヴィッツ、アンナ・トモワ・シントウの面々はブラームスを歌わないのだろうか?それからマリア・カラスもネトレプコもいない。なんだかやっぱりソプラノには避けられているかも。そりゃあオペラ歌ってたほうが目立つし・・・・・。
- ドイツ・レクイエムは歌っていてもリートはCDがない人もいて面白い。
- こうして選んだ歌・歌手をどのように配置するかもまた面白い。大晦日の紅白歌合戦をイメージしてあれこれ考えた。各組のトップやトリの人選はなかなか楽しめた。子守唄系や民謡をまとめて並べたりもした。
かくして出来上がった三色対抗歌合戦は実際に聴くと楽しい。桁違いの楽しさだ。とても言葉では説明が出来ない。最後の6曲くらいになるとなんだかしみじみとした気持ちになってくる。ラストの「永遠の愛」のイントロが立ち上がる時は涙モノであった。指を組んで除夜の鐘が聴きたいような。
心からブラームスが好きだ。
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