AとB
クララ・シューマンのクララは「Clara」と綴られる。この中で実際に音名として存在するのは「C」と「A」である。人を愛するとは凄いことで、クララ・シューマンの夫ロベルト・シューマンはこの「Clara」のスペルからインスピレーションを次々と膨らませて作品を生み出していったという。
一方ブログ「ブラームスの辞書」でもたびたび考察してきたようにブラームスが作品に与えた調性の中でもっとも多いのが「A」の絡む調である。また「C」を背負った短調の「ハ短調」が一時期特別の意味を持っていた可能性がある。ひょっとするとクララ・シューマンの象徴ではないかとも思っている。
昨年11月18日の記事で言及したように変ロ長調の作品中にニ短調の楽章が現れる傾向がある。長調楽章に長三度上の短調が従うケースは全部で4回だが、うち3例が「変ロ長調→ニ短調」に集中している。この2つの調は「D」音と「F」音を共有している。ここに「A」音が加わればニ短調だし、「A」音ではなく「B」音が加われば変ロ長調になるのだ。「A」か「B」か半音の違いで行き来が可能な調なのだ。ピアノ協奏曲第二番の第二楽章がフォルテシモのニ短調で終わった後、独奏チェロの奏するアンダンテは「つややか」と「しっとり」が同居するやんごとなき変ロ長調だ。ニ短調の「ff」が「mp espressivo」の変ロ長調で解決しているかのように聴こえる。
つまり変ロ長調とニ短調は「B」と「A」のせめぎあいを味わう関係なのだ。この場合「A」はクララの象徴かもしれない。しからば「Bは?」などと訊くのは野暮である。「B」はブラームスに決まっている。
この手の音名遊びは楽しい。だから本日のタイトルは「アーとベー」と読まねばならない。
5月20日のクララ・シューマンの命日から続いた「無理やりシューマン関連ネタ」はひとまず本日までとする。
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