女歌・男歌
ブラームス自身が、自作歌曲の演奏を女声または男声を指定することは少ない。「低声のための」というタイトリングが施されたり、楽譜がヘ音記号になっていたりということがたまにあるが、それとて男声オンリーを標榜しているわけではない。
しかしながら、結果として女声によって歌われ易い曲、男声によって歌われ易い曲という分類が、作曲者ブラームスの預かり知らぬところで行われている。
たとえば作品103のジプシーの歌全8曲は我が家にある9種の演奏全てが女声によるものだ。歌詞の中には男性の立場のものもあるにもかかわらず、男声では一切歌われていない。もちろん「アルトとヴィオラのための」という指図の作品91の2曲も女性オンリーだが、アルトにとどまらず、メゾソプラノやソプラノにも歌われている。これとまったく逆の位置にあるのが作品33の「ティークのマゲローネのロマンス」だ。我が家にある4種は皆男性歌手による演奏だ。
一方、いかにも女声向けっぽい子守唄は、実際にはかなり男性にも歌われている。女性9に対して男性5だ。同様に、てっきり男性専用と思っていた「四つの厳粛な歌」作品121は、男性7に対して、何と女性は6と肉迫している。ただしソプラノは一人も歌っていないのも面白い。
最強の女声歌は作品107-5「娘の歌」だ。11人の女性に歌われる一方で、男性は誰も歌っていない。さらに作品3-1「愛のまこと」10対0、作品105-2「まどろみはいよいよ浅く」12対2、作品86-1「テレーゼ」10対1、11対3の作品84-4「甲斐なきセレナーデ」といったあたりが横綱格だ。作品70-2「ひばりのさえずり」も7対1でこれに準ずると思われる。「娘の歌」と同系統の「娘は話しかける」「少女」「少女の歌」も数は少ないながら男性によって歌われていない点では同類である。
対する最強の男声歌は作品32-1「いかにおわすか我が女王」の1対8だ。作品105-5「裏切り」1対7、作品71-5「恋歌」0対6、作品47-3「日曜日」3対8あたりが横綱だろう。なんせ女性の歌うCDは男性歌手のCDの倍あるので、極端な数値が出にくい。イメージ的にいって男性が歌いにくい歌があるのに比べて、女性はどの歌でも比較的進出し易い傾向が見て取れる。
もちろん、ブラームスの歌曲は女性男性どちらからも愛されている。作品43-1「永遠の愛」、作品43-2「五月の夜」、作品86-2「野の静けさ」、作品105-1「調べのように」などは、男女どちらからも人気がある。
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