「piu moto」の出番
「もっと動いて」と解される。「piu mosso」との区別は難解である。一部の楽譜においては混同も発生していると思われる。実演奏上の処理としてはテンポのアップが一般的である。「piu moto」は作品21-1「自作の主題による変奏曲」で出現したあとパッタリと使用が途絶える。再登場は39年後の「四つの厳粛な歌」作品121-4の76小節目まで待たねばならない。
変ホ長調で始まった音楽がダブルバーを境にロ長調の「Adagio」に転じ、たっぷりとカンタービレを聴かせたのち74小節目からテンポが上がる。2小節かけてテンポを上げきったところで冒頭の変ホ長調に回帰する。まさにその場所に「piu moto」が置かれている。ここから2小節間、あきらかに冒頭回帰を聴き手は感じ取るはずだが、早くも79小節目には、冒頭旋律とは違う道を歩み始める。再現部と呼ぶにはあんまりだが、聴き手は絶対に冒頭を思い起こすだろう。この76小節目を冒頭と同じく「Andante con moto ed anima」あるいは「Tempo Ⅰ」としないところに底知れぬ配慮を感じる。冒頭部分のニュアンスを規定していた「andante」「con moto」「con anima」のうちから「con moto」だけを引用して、冒頭部分の擬似回帰であることをさり気なく仄めかしたと解したい。
続く83小節目は、先のダブルバー「Adagio」が仄めかされるが、ここでもそのものズバリの「Adagio」を持って来ない。「Sostenuto un poco」という仄めかしにとどまっている。
「俺に全部言わせるのかよ。空気を読んでくれよ」とでも言いたげである。
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