歌曲のカラオケ
ブラームスの歌曲について、伴奏のピアノだけが収録されたCDを見つけた。最近、ピアノ音楽に少々はまっていて、CDショップではピアノ作品売り場を覗いているのだが、その最中に発見した。タイトルは「Lieder ohne Sanger」(「S」の後の「a」はウムラウト)で、英語なら「Songs without singer」くらいだろう。歌曲から歌い手が省かれたら、そりゃあ確かにピアノだけになるのは当然だが、これがピアノ曲の売り場にあっても困るというものだ。このCDを買うのは間違いなく歌曲愛好家のハズだからだ。
演奏しているのはIrwin Gageという人。ヘルムート・ドイチュ先生の著書「伴奏の芸術」の中にも登場するその筋の大家だ。解説によれば、ロシア人を母に、ハンガリー人を父としてアメリカに生まれたという。1973年にアバド指揮のウイーンフィルと共演したのが、独奏ピアニストとしてのデビュウだというから並ではない。
収録された曲は以下の通りだ。
- 「夜中に何度も飛び起きて」op32-1
- 「エーオルスのハープによせて」op19-5
- 「古き恋」op72-1
- 「五月の夜」op43-2
- 「おお来たれ心地よい夏の夜よ」op58-4
- 「少女の歌」op85-3
- 「おまえの青い瞳」op59-8
- 「子守唄」op49-4
- 「ことづて」op47-1
- 「墓地で」op105-4
- 「いかにおわすかわが女王」op32-9
- 「セレナーデ」op106-1
- 「野のさびしさ」op86-2
- 「湖上で」o59-2
- 「娘は話しかける」op107-3
- 「甲斐なきセレナーデ」op84-4
- 「日曜日」op47-3
- 「永遠の愛」op43-1
王道を行くラインナップである。「4つの厳粛な歌」が入っていて欲しかった以外は満足だ。
聴いて驚いた。このCDは歌曲のピアノ声部を本気で聞かせようとしている感じなのだ。「ブラームスの歌曲のピアノ伴奏部は、こんなに素晴らしいンですよ」という思いに満ちている。いわゆる「練習のお供に最適」という類のCDではないのだ。
それでもやはりさすがに「マイナスワン」感覚は払拭されない。されないが十分に美しい。頭の中で歌のパートが鳴る。何の予備知識も無く聞かせたら「上質のインテルメッツォだな」と思い込んでしまうかもしれない。ipodで聴いていると思わず歌いたくなる楽しさだ。また、家人の寝静まった後、小さな音量で流しておくとはんなりとして来る。ピアノのニュアンスの多彩さが素敵である。ダイナミクス自体は概ね「p」の範囲内にとどまっているというのに、喜怒哀楽を表現しきって不足が無い。
普段、歌とピアノが収録された歌曲をCDを通して聴いているから、歌とピアノが溶け合って聴こえてくるのが当たり前になっているが、実は別の人格によって演奏されているのだということを実感出来る。このCD、もちろんと言っては悪いが、ドイツ製である。
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