ドラマティックソプラノ
女声の最高音域とされるソプラノを主に声質で分類した際、もっとも「太い」とされる声質を指す。声質とは別にテクニカルなのニュアンスがあるコロラトゥーラを別格とすれば、軽いほうから順にスープレット、リリック、リリコ・スピント、ドラマティックとなっているらしい。つまりドラマティックソプラノはソプラノ最重量級という位置づけとなる。これがメゾソプラノやアルトにまでならずに、あくまでもソプラノの領域にとどまるということがポイントと思われる。オペラにおける代表的な役柄は、「指環」のブリュンヒルデらしい。
我が家所有のCDでこの声質を持つとされるのは、デボラ・ポラスキーただ一人である。当代屈指のブリュンヒルデ歌いだというから折り紙つきのドラマティック・ソプラノだ。彫りの深い声で、他のメゾソプラノ歌手たちとの音域の区別は難しい。一般のソプラノが歌うとキンキンしてしまう作品105-2「まどろみはいよいよ浅く」を彼女が歌うと独特な光沢が感じられて心地よい。オペラを歌ってこそのドラマティックソプラノであって、ブラームスの歌曲を歌う場合にその称号は似つかわしくない。そもそも現在世の中に流布する声種分類は、オペラの役柄が基準尺度になっている側面が色濃い。ブラームスの歌曲を演奏する歌手たちにそのまま当てはまるとは思えない。ドラマティックソプラノとはいささか気恥ずかしくはないか。ディープソプラノとでも名付けたい。
つまり人間の声はそれだけ多様ということだ。ソプラノ、メゾソプラノ、アルトというような定型にはまりこめない声はたくさんある。ソプラノを5つに分類してもなおその尺度で測れない歌手もいるということなのだ。事実ジェシーノーマンは、多くのCDではメゾソプラノと紹介している一方で、ソプラノに分類している本も存在する。だから歌曲は面白い。
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