もうひとつのFAF
作品71-5に「Minne Lied」という歌曲がある。「恋歌」と呼び習わされている。
我が家のドーヴァー版の楽譜ではハ長調とされている。曲の冒頭は、「E-G-E」という具合に三度、六度という2回の跳躍で立ち上がる。この曲には別にエピソードもある。作曲当時のウイーンでの売れっ子だったテノール歌手の要望によりハ長調になったもので、ブラームス本人は二長調で歌われることを希望していたらしい。テノールの希望に添うためにDをCに下げるということのカラクリはさっぱりわからないが、ブラームスが元々ニ長調を意識していたことは注目に値する。冒頭の「E-G-E」をニ長調に読み替えてみるといい。「Fis-A-Fis」になるのだ。事実ペーター版の高声用の楽譜はニ長調に移調して書かれているという。
これは一昨日話題にした「FAF」になる。作品10-2の「バラード」と同じである。つまりペーター版の高声用の楽譜を見たものは「おお、FAFだ」と気付くということになる。
ブラームス関連の本には必ず言及がある「FAF」ネタだが、作品の実例として本件「Minne Lied」を挙げている例にはお目にかかっていない。ブラームスの場合、解説がとかく器楽偏重の傾向があるので歌曲側の実例は見落としがちである。ブラームス音楽の業界において、「FAF」自体はいつも大騒ぎされるのだが、その割にはマイナー曲の中に現れる場合には言及されないというしきたりがあるようだ。
もちろん「Minne Lied」はそんな理屈を抜きでも素晴らしい曲だ。
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