拍子の選択基準
頭に浮かんだ楽想を楽譜に定着させていく際に、記譜上の拍子に何を採用するかに基準はあるのだろうか?我々愛好家は、作曲家がある種の基準を駆使した結果としての楽譜を見るだけの立場なので、しばしば疑問にブチ当たる。
昔、作曲料が1小節いくらで支払われていた頃、4分の4拍子の曲を4分の2拍子に無理やり焼き直して作曲料を稼いでいたという話も耳にしたことがある。
- 上記の通り、2/4と4/4の区別は素人目には曖昧に見える。
- 3/4を採用するか3/8を採用するかは何がキーになっているのだろうか。作品117-2と118-6の両インテルメッツォが3/8になっているが、これらは3/4ではいけないのだろうか?作品116-4や6、あるいは作品118-2のような3/4のインテルメッツォとの相違はどこにあるのだろう。トマス・シューマッカーという人は3/8という拍子を「テンポが遅くなり過ぎないように」という警告だと断言している。これは一見唐突に見えるが、作品117-2のインテルメッツォには「andante non troppo」というレアな表示で「遅過ぎ」を戒めていることと符合している。第三交響曲の第3楽章の3/8は3/4ではいけない理由が何かがあるのだろうか?逆にチェロソナタ第一番の第2楽章は、3/8ではなくて3/4でなければいけない理由があるのだろうか?
- 6/8と6/4も同様だ。より自在にヘミオラを駆使したいときが6/4とも思えるが基準は曖昧だ。
- スケルツォにおいて、3/4を採用するか6/8を採用するかも興味深い。ハ短調のスケルツォがいつも6/8になることは明らかだが、理由は明確ではない。チェロソナタ第二番の第三楽章は確かに6/8のヘ短調だが、この場合には楽章冒頭に「scherzo」と明記されてはいない。
- 数は少ないが2/4ではなくて4/8を採用する基準はどこにあったのだろう。たとえばヴァイオリン協奏曲第2楽章、チェロソナタ第二番のピチカートの緩徐楽章、ヴァイオリンソナタ第二番はどれも2/4だが、弦楽四重奏曲第一番第三楽章が4/8になっている明快な理由は提示しにくい。本例3つの2/4が、仮に4/8であったとしても不自然ではない。
高度な芸術上の判断なのだろうか。
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