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2006年7月 8日 (土)

舞曲楽章の流れ

昨日の記事と一緒にお読みいただくと面白さが一層引き立ちます。

一般に交響曲を含むソナタにおいて、第一楽章と終楽章(第四楽章とは限らない)に挟まれる楽章を中間楽章と呼ぶことがある。この中間楽章のうち緩徐楽章でないものが、しばしば舞曲楽章と呼ばれている。古い時代のディヴェルティメントには舞曲楽章を複数持つものもあった。ここにどんな種類の舞曲を持ってくるかという点で作曲家の個性が浮き上がる。時代が遡るとメヌエットが断然多い。風向きが変わるのはベートーヴェンからだ。彼はここにスケルツォを持ってくる。第九交響曲においては第二楽章に持って来るなどの場所替えも行っている。

ブラームスはどうだったのか?創作の初期においては「スケルツォ」を配するという伝統に従っている。位置は第二楽章と第三楽章でぶれるもののタイトルは「スケルツォ」だ。メヌエットとスケルツォ両方を持つセレナードを含めてソナタ7回連続で「スケルツォ」だ。8回目のピアノ四重奏曲第一番の「Intermezzo」によってこの流れが途切れる。8分の9拍子のユニークな舞曲だ。8分の9拍子の1小節を3つに感じればメヌエットのテンポだし、9つの8分音符と見れば、スケルツォとも受け取れるという代物だ。この段階では、いかにも唐突な「Intermezzo」のタイトルも、後から振り返ると重要な予告編だったことがわかる。

9回目から11回目までの3つの室内楽にも「スケルツォ」が現れるが、恐らくブラームスの内面では何かが動いていたに違いない。交響曲や弦楽四重奏曲で巨人ベートーヴェンと対峙するための準備と考えたい。

12回目のチェロソナタ第一番は、全体で3楽章のソナタだ。ブラームスでは初めての試みだ。中間楽章から緩徐楽章が省かれる。その代わりでもないのだろうが、スケルツォよりは、あきらかにテンポの落ちた楽章が置かれる。「メヌエット」という断言を巧妙に回避した「Allegretto quasi menuetto」だ。メヌエットを除く舞曲楽章が「allegro」未満のテンポになった最初のケースだ。しかし拍子はオーソドックスな4分の3だ。「allegro」へのブレーキもまた後ほど大きな意味を持つにいたる。

13回目には異例中の異例を形成する「ホルントリオ」が来る。第一楽章にソナタを持たないソナタだ。第一楽章に「andante」を持ち込んだ点でも際立つ。肝心なソナタ形式は終楽章に来る。ロンド-緩徐楽章-舞曲-ソナタという具合だ。通常のソナタ形式の全くの逆順だ。舞曲楽章には「スケルツォ」と明記された4分の3拍子が置かれる。皮肉なことに「高速4分の3拍子-スケルツォ-第三楽章」という伝統的なパターンはこれが生涯で最後になる。

14回目の弦楽四重奏曲第一番はエポックを形成する。第三楽章の舞曲楽章にタイトルの明記が無くなる。発想記号は「Allegretto molto moderato e comodo」だ。拍子も異例な8分の4拍子である。8回目で実験されていた「Intermezzo」が完全に姿を現したと解されよう。

以降の舞曲楽章でのタイトルの明記は、16回目のピアノ四重奏曲第三番と21回目のピアノ三重奏曲第二番に「スケルツォ」が存在するだけだ。後は全部ノンタイトルである。弦楽四重奏曲全部と、交響曲全部がこのノンタイトル型に属する。ピアノ協奏曲第二番の巨大なスケルツォからもタイトルが剥奪されている。

試行錯誤は別の形でも続いている。19回目の第二交響曲のあとヴァイオリン協奏曲が舞曲楽章を除く3楽章で出来ていることは当然だが、その直後のヴァイオリンソナタでは舞曲楽章が欠落しているのだ。ヴァイオリンソナタでは続く2番も舞曲楽章が欠落しているが、緩徐楽章の中間に舞曲気味のエピソードを持ち込むことでバランスが取られている。緩徐楽章中に舞曲を持ち込むパターンは22回目の弦楽五重奏曲第一番で実験されたものだ。

もはや正統的な4分の3拍子のスケルツォは現われない。テンポが「allegro」に達することは希になる。万が一達してもそのときは決まって拍子が4分の3ではない。8回目のピアノ四重奏曲第一番でささやかに提示された「Intermezzo」が後期においては主流となっている。

それから調性に関して興味深いことがある。ブラームスの舞曲楽章全38曲で、最も多く採用されている調はハ短調で全7曲だ。一方最も多く採用されている拍子は4分の3拍子で18曲を数える。でありながら「ハ短調で4分の3拍子」の曲は一つもない。ハ短調7曲のうち冒頭に「Scherzo」と明記された曲4つは全て8分の6拍子になっている。「FAEソナタ」と通称される「スケルツォ」が「ハ短調&6/8拍子」になっているのは、どこまで意図的かは判らぬが、後年のスタイルを予言している点で興味深い。

  1. 拍子が4分の3から離れてゆく。
  2. テンポが「allegro」に達しなくなる。
  3. ノンタイトルになる。
  4. 形式の曖昧化、いわゆる「Intermezzo」化が進む。
  5. 舞曲楽章がハ短調を採用するとき、拍子が4分の3拍子にならない。

ブラームスの舞曲楽章を概観すると上記のような流れが観察される。ブラームスとベートーヴェンを分かつ傾向だと思われるが、何故か話題にされない。

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コメント

<亜ゆみ様
お住まいの地方では「雨」でしょうか?

こちらは今にも降り出しそうですが、なんとか踏みとどまっております。

昨日、本日とコメントしにくい記事が続いています。どうかお気になさらずに。

今日は、雨の歌の日ですね♪

内容と関係ないコメントでごめんなさい。

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