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2006年9月26日 (火)

古き恋

9月21日の記事「曖昧を味わう」の続編である。

「D音」と「B音」が確保される。そこに「F音」が補われれば変ロ長調、「G音」が補われればト短調というような曖昧さを、ブラームスは利用した。ヴィオラの放つ「F音」により変ロ長調が、がっしりと根付いているのがピアノ協奏曲第2番の第3楽章アンダンテであることは、既に述べたとおりだ。

同じように変ロ長調とト短調の境界線上を歩みながら、そこに「F音」ではなく「G音」が補われて、ト短調になる例もブラームス作品には存在する。

本日の記事のタイトル「古き恋」がそれである。原題は「Alte Liebe」といいop72-1という番号を背負っている。まずはピアノが「D音」をオクターヴで鳴らす。半小節後、長3度下に「B音」が加わる。「D音」と「B音」が鳴っているだけのこの段階では、変ロ長調、ト短調どちらの目もある曖昧な状態だ。歌手はここに「D音」のアウフタクトをもって立ち上がる。調性の決定権は歌手にもないのだ。歌手から8分音符一個だけ遅れてピアノの左手に「G音」が出現して、やっとト短調が確定する。この間わずかに6拍で曖昧を楽しむというにはあまりに短い。

それでもト短調の確定に先立つわずか1小節間6拍の曖昧さが、ト短調の効果を増強していると思う。

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