付け加えられたもの
この記事で6本目、もはやちょっとした恒例になってしまったシェーンベルグネタだ。夏休みの課題をキチンとやり遂げたお陰で記事の素材が湧いて出てきてくれる。ありがたいことだ。
ブラームス作曲のピアノ四重奏曲第1番ト短調op25をシェーンベルグが管弦楽版に編曲した際、原曲に存在しない用語をいくつか使用している。その数は20種類に及ぶ。原曲に存在しないと言ってもブラームスの他の作品には登場する用語が大半である。ブラームス作品の中には登場しない用語、つまり「ブラームスの辞書」に掲載されていない用語は、以下の通りである。
- martellato
- molto breve
- p cantabile
- spicato
- spring
- stschl.
上記のうち1番4番5番はヴァイオリンの奏法に関する指示だ。6番が今のところお手上げである。
シェーンベルグは編曲に際して、ブラームスが普段から起用していた用語の範囲で単語を付け加えていた。弦楽器の奏法に関する用語だけはその限りではなく、シェーンベルグの望む効果を得るために遠慮なく付け加えたと思われる。
ブラームスにはほとんど用例のない「cantabile」を起用している点が注目されよう。第3楽章66小節目のチェロとコントラバスに「p cantabile」として出現する。原曲ではピアノの左手で単なる「p」となっている。原曲において位置付けの高さ重要さという点では屈指の場所である。ニュアンスとしては「心せよ」「ぬかるな」に近い。
ダイナミクス系用語の詳細については8月31日の記事「ダイナミクスレンジの拡張」を合わせてご覧いただくとして、シェーンベルグは用語の追加についてはさしたる冒険をしていないと結論付けられる。
本日の議論は、シェーンベルグが追加してしまった用語が対象だった。実は、追加してしまった用語より削除してしまった用語の方が数段興味深い。追い追いそれらにも言及したいと思っている。
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