Komm Bald
作品97-5を背負った歌曲で「早く来て」と訳される。
作詞者はブラームスの友人のスイスの詩人クラウス・グロ-トだ。1885年5月7日つまりブラームス52歳の誕生日にこの詩を贈ったところ、ブラームスがその場で作曲したと、贈り手のグロートが証言している。
だとすると10月16日の記事「焼却漏れ」でも話題にした作曲の途中経過はどうなっていたのだろう。よく寄席の会場で、客席からお題を募って、その場で小話を作ってしまう名人芸に似ている。
ブラームスは贈られた詩をその場で読んで意味内容意図を理解したばかりか、韻律をも呑み込んで瞬時に曲をつけて見せたことになる。誕生日に詩を贈られたことに対する、最高の返礼なのだろう。
実際に曲を聴く。ブラームス特有の「インテルメッツォ系遅めの3拍子」だ。中音域でたゆとう旋律の微妙な進行が悩ましくも美しい。この規模の曲で、苦心惨憺推敲三昧ではかえって良い作品にはならないのだとも思えてくる。ブラームスは別の知人に「よかれと思って出来上がった曲をいじると大抵は元よりダメになる」とも語っていた。
もちろん現在流布している「Komm Bald」の楽譜が、この時グロートに示されたものと全く同一である保証はないが、興味深い話である。
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