スコルダトゥーラ
弦楽器の調弦法のひとつ。弦楽器の4本の弦の複数または一つを意図的に通常と違うピッチに調弦すること。大抵は作曲者の考えが反映する。
有名なところでは、モーツアルトの協奏交響曲変ホ長調K364だ。ヴァイオリンとヴィオラが独奏を受け持つが、このうちのヴィオラにスコルダトゥーラが指定されている。4本全ての弦を半音高く調弦して、半音低いニ長調の楽譜を弾くようになっている。半音高く調弦することで張力が増強され、響きに輝きが増すことが狙いだと思われる。運指が楽なことと、開放弦が使いまくれることも狙いの一つかもしれない。独奏ヴァイオリンはお構いなしで、独奏ヴィオラにだけこうした措置が施されているところがミソである。
現在市販の楽譜ではヴィオラも通常チューニングが前提になっているものが多い。当時と違って、弦の張力が格段に向上している現在これをやると、楽器を痛めはしないかと心配する向きに配慮したと思われる。
シューマンのピアノ四重奏曲変ホ長調第3楽章には、曲の途中でチェロのC線を1音下げるという指示がある。これも一種のスコルダトゥーラなのだろう。
バッハの無伴奏チェロ組曲の第5番ハ短調BWV1011にもスコルダトゥーラが採用されている。こちらは最高弦のA線だけが対象だ。A線を1音低いG音に調弦するよう指図がある。低い方からC-G-D-Gとなる。お気づきの通りG線が2本だ。楽譜もこれが前提で書かれている。我が家のCDでは、ヴィオラ版のミルトン・トーマスがこの調弦方法で演奏している。またペーター版のヴィオラの楽譜にはオリジナル調弦と、通常調弦の両方の楽譜が収められている。
最近せっかく無伴奏チェロ組曲ヴィオラ版に親しんでいるのだから、私もヴィオラのA線を1音下げてオリジナルの雰囲気を楽しんでみた。オリジナル調弦版を使っていつもの通りの要領で弾けばいい。しかししかし、ことはあまり単純ではない。D線でポジションを上がっていると不安が先に立って楽しめない。慣れるのに時間がかかる。慣れによって解消する性質の課題は棚上げとして、意外と厄介なのは、楽譜の景色が決定的に変わってしまうことだ。音符の並び方で、その瞬間や周辺の和音の成り立ちにおよその見当をつけているのだが、その見当が狂ってしまうのだ。重音やアルペジオの際の心構えに影響する。
申し遅れたが、ブラームスにはスコルダトゥーラは出現しない。
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<temple様
私も同感でござるが大きな声で言ってはなりませぬぞ。
カサルス様が再発見して世の中に広めて以来、チェリストの信仰を広く集めておりまする。教祖カサルス様の功績大でございます。難を言いますとカサルス様はこの組曲を「哲学」にしてしまいました。
「暗譜」「難しい顔」「目をつむる」の3点セットです。サラバンドやアルマンドは瞑想しながら弾かねばなりません。
ヴィオラで弾かれるとチェロよりは深刻そうでなく聴こえまする。肩の力が抜けると申しますか。。。。。この曲を弾くときのチェリストはみなさん気合が入ってしまいますから。ヴィオラですと「どうせ編曲ですから」みたいな後ろめたさがかえって余計な緊張を取り去ってくれるような。
投稿: アルトのパパ | 2006年11月23日 (木) 07時46分
最近TVでヴィオラの無伴奏チェロ組曲を初めて聴きました。
個人的には本家のチェロよりも好みでした。
投稿: temple | 2006年11月23日 (木) 02時38分