マイスキーの無言歌
チェリストのミッシャ・マイスキーが「Songs without words」というアルバムを出している。ピアノとチェロのデュオ作品を集めている。収録された作品はいずれもブラームスの作品のアレンジもので内容は下記の通りである。
- チェロ・ソナタニ長調(ヴァイオリンソナタ第一番ト長調op78のチェロ版)
- 名残りop59-4
- あなたの許にはもはや行くまいop32-2
- サフォー頌歌op94-4
- 調べのようにop105-1
- 4つの厳粛な歌第1曲op121-1
- 4つの厳粛な歌第2曲op121-2
- 4つの厳粛な歌第3曲op121-3
- 野を渡ってop86-4
- 愛のまことop3-1
- まどろみはいよいよ浅くop105-1
- ひばりの歌op70-2
白状するとこのアルバムはかなり昔から手許にあったのだが、あまり聴かなかった。ところが昨今歌曲へ傾斜によって日の目を見たということなのだ。
聴いてみて感じたことをいくつか。
- ヴァイオリンソナタは「雨の歌」の異名を持つ。それは第三楽章がブラームス自身の歌曲「雨の歌」op59-3の旋律の転用になっているせいだ。アルバム2曲目の「名残り」はop59-4つまり「雨の歌」の次に位置し、全く同じ旋律のエコーで出来ている歌曲なのだ。だからこの曲順が実は重要である。ソナタの第三楽章が「雨の歌」の引用であることを踏まえて、同じ旋律の「名残り」を配置しているという、血も涙もある配列なのだ。芸が細かいと言わざるを得ない。
- 4曲目の「サフォー頌歌」は古来より、その冒頭旋律がヴァイオリン協奏曲の第二楽章の冒頭との関係を指摘されている。ブラームス節の典型たる「糸引き4連4分音符」である。このアルバムを聴いて真っ先に思い浮かべたのは、むしろピアノ四重奏曲第三番の第3楽章の朗々たるチェロの独奏だ。「糸引き4連4分音符」がピアノがシンコペーションで差し挟む和音に乗ってしずしずと歩む様、そして何より冒頭の長3度下降が瓜二つだ。
- 5曲目の「調べのように」もまた古来からヴァイオリンソナタ第二番第1楽章との関係が取り沙汰されている。
- 6曲目から3つは「4つの厳粛な歌」から取られている。4番を省いた3曲というのが、底知れぬ意図を感じさせる。私も4番は異質だと感じている。最初からヘ音記号で書かれているこの3曲が、全体の中央に配置されているのも興味をそそられる。
- 9曲目の「野を渡って」を曲集に採用した感覚を心から嬉しく思う。けしてメジャーではないがこの曲は大好きだ。マイスキーのチェロで聴いてひらめいたことが一つある。弦楽五重奏曲第二番の第三楽章「Un poco Allegretto」にソックリである。ト短調という調性、裏拍を強調した伴奏は偶然とは思えない。
- 10曲目の「愛のまこと」を採用した意図を想像するに、冒頭部分でピアノの左手をチェロが1拍遅れで追いかける掛け合いの妙だと思う。オリジナルで聴くより鮮明に聴こえる。
- 12曲目アルバム全体のフィナーレに「ひばりの歌」を据えたこだわりに脱帽だ。お世辞にもメジャーといえない曲だが、弾かれてみると納得である。
« 在庫プレッシャー | トップページ | まどろみはいよいよ浅く »
<空の風様
お持ちでしたか!!!
「ひばりの歌」いいですね。可憐ですよね。ピアノが。
投稿: アルトのパパ | 2006年11月 2日 (木) 21時54分
このアルバムは私も持っています♪
けっこうお気に入りで、よく聴いています。
特に。。ひばりの歌。。ブラームスの中で一番好きかも。。。
投稿: 空の風 | 2006年11月 2日 (木) 21時51分