テネラメンテクリスマス
インテルメッツォイ長調op118-2「Andante teneramente」は、ブラームスのピアノ独奏曲の中で一番好きな曲である。28歳の頃その素晴らしさに目覚めてからずっと愛好している。この曲を収録したCDがあれば買わずにはいられない時期がしばらく続いていたせいか我が家には47種のCDがある。古今の名だたるピアニストの帰依を勝ち取ってきた証拠でもある。1枚1枚には皆愛着がある。しかし、レーベルを見ずに演奏だけを聴いて誰の演奏かを言い当てるのは、今でも難しい。微妙なニュアンスに心が動くかどうかは聴く側のコンディションにもよるからだ。本日は「演奏時間」という見かけ上客観的な切り口から大好きな「Andante teneramente」を考察したい。
お断りしたいことが3つある。まずCDのジャケットに記載されたピアニストの演奏が収録されているということだけは、無条件に信用することにした。本当はわかったものではないと思うが、「それを言ってはオシメェよ」のノリである。2つめは、演奏時間の数えかただ。CD記載の演奏時間は演奏後の無音の状態まで含んでいることが多い。大抵はバラードト短調op118-3が鳴り出すまでの時間も含まれているのだ。本日の議論をより正確にするために無音の部分の時間を計って補正したデータを使用した。3つめに、この曲を4分の3拍子116小節の曲と考える。49小節目からの8小節間がリピートされるから合計124小節、372個の四分音符の羅列と捉えることが出来る。このリピートを省略している演奏は今のところ見当たらない。演奏時間から逆算して平均のメトロノーム値を計算した。64小節目と76小節目のフェルマータの時間のかけ方や、途中の「rit」の解釈で揺れも生じようが、目安にはなると思われる。
以下が録音年代順のリストである。録音年/ピアニスト/国籍/演奏時間/MM換算となっている。赤い文字は女性である。
- 1956年 ウィルヘルム・バックハウス(GER) 4分48秒 MM=77.50
- 1960年 グレン・グールド(CAN) 5分42秒 MM=65.26
- 1962年 ジュリアス・カッチェン(USA) 6分00秒 MM=62.00
- 1964年 ウイルヘルム・ケンプ(GER) 4分27秒 MM=83.60
- 1969年 ワルター・クリーン(AUT) 4分48秒 MM=78.59
- 1971年 ヴァン・クライバーン(USA) 6分11秒 MM=60.98
- 1975年 ペーター・レーゼル(GER) 5分37秒 MM=66.23
- 1976年 ドミトリ・アレクセーエフ(RUS) 6分18秒 MM=59.05
- 1976年 ラドゥ・ルプー(ROM) 5分51秒 MM=63.59
- 1980年 インゲル・ゼーデルグレン(SWE) 6分36秒 MM=56.36
- 1981年 ステファン・コバシェビッチ(USA) 5分00秒 MM=74.40
- 1981年 アナトリイ・ヴェデルニコフ(RUS) 6分27秒 MM=57.67
- 1981年 ヴァレリー・カステルスキー(RUS) 5分24秒 MM=68.89
- 1984年 杉谷昭子(JPN) 5分39秒 MM=65.84
- 1986年 ミハイル・ルディ(UZB) 5分35秒 MM=66.63
- 1989年 イディル・ビレット(TUR) 5分08秒 MM=72.47
- 1989年 ゲルハルト・オピッツ(GER) 6分34秒 MM=56.65
- 1989年 ディルク・イエレス(GER) 5分35秒 MM=66.63
- 1989年 ドゥブラフカ・トムシッチ(SLO) 6分12秒 MM=60.00
- 1991年 エマニュエル・アックス(POL) 6分18秒 MM=59.05
- 1991年 カルメン・ピアッツィーニ(ARG) 5分03秒 MM=73.66
- 1992年 ヴァレリー・アフェナシェフ(RUS) 7分53秒 MM=47.19
- 1992年 イヴォ・ポゴレリチ(SER) 8分43秒 MM=42.68
- 1993年 フリードリヒ・ウイルヘルム・シュヌア(GER) 5分26秒 MM=68.47
- 1993年 マリー・ジョセフ・ジュード(FRA) 6分02秒 MM=61.66
- 1994年 田部京子(JPN) 6分49秒 MM=54.57
- 1995年 エレーヌ・グリモー(FRA) 5分45秒 MM=64.70
- 1995年 梯剛之(JPN) 5分33秒 MM=67.03
- 1996年 エディト・ピヒトアクセンフェルト(GER) 6分17秒 MM=59.20
- 1996年 岡田博美(JPN) 5分00秒 MM=74.40
- 1996年 ヤン・ミキエルス(BEL) 6分30秒 MM=57.23
- 1996年 ナオミ・ザスラフ(CAN) 5分29秒 MM=67.84
- 1997年 ポール・バーコヴィッツ(CAN) 6分23秒 MM=58.28
- 1998年 仲道郁代(JPN) 7分04秒 MM=52.64
- 1998年 ホアキン・アチュカーロ(ESP) 5分59秒 MM=62.17
- 2001年 園田高弘(JPN) 5分38秒 MM=66.04
- 2001年 山根弥生子(JPN) 4分34秒 MM=81.46
- 2001年 イリーナ・メジューエワ(RUS) 6分54秒 MM=53.91
- 2001年 伊藤理恵(JPN) 7分8秒 MM=52.15
- 2002年 ラルス・フォークト(GER) 6分10秒 MM=60.32
- 2002年 エレーナ・クシュネロヴァ(RUS) 6分13秒 MM=59.84
- 2002年 フランク・レヴィ(SWZ) 5分43秒 MM=65.07
- 2002年 ハコン・アウシュトボ(NOR) 5分47秒 MM=64.32
- 2003年 シュテファン・ヴラダー(AUT) 6分16秒 MM=59.36
- 2003年 エフゲニー・ザラフィアンツ(RUS) 6分27秒 MM=57.67
- 2004年 エリザベート・レオンスカヤ(RUS) 6分30秒 MM=57.23
- 2005年 マルク・パンティヨン(FRA) 6分05秒 MM=61.15
全演奏の平均は5分59秒。MM=62.09である。標準偏差αは47.73秒
競馬なら1964年のケンプが圧勝である。83.6というメトロノーム値は「allegretto」に肉薄しかねない。ディープインパクトさながらである。実際に聴いてみるとバタついている感じはしない。フレーズの切れ目切れ目で立ち止まらないといった感じである。競馬と違って早けりゃいいというモンでもないところが問題である。
この順番でipodに取り込んで、「作品118-2」の歴史を体験している。全部再生すると約4時間以上かかる。
« Weihnachten | トップページ | クリスマスの舞台裏 »
<moco様
いらっしゃいませ。このテネラメンテは世界遺産ですねぇ。
ポリーニ、デムス、ツィメルマン、アシュケナージ、シュナーベル、コルトー、アラウ、ブレンデル、ホロヴィッツ、アルゲリッチ、リヒテル、ギレリス・・・・みんないないけど退屈しません。
投稿: アルトのパパ | 2006年12月26日 (火) 21時36分
昨日は私の好きなインテルメッツォイ長調op118-2のお話でしたのね。
まるでクリスマスプレゼントのような内容です。
私はこの中では7枚持っていますが、ポゴちゃんが一番好きです。
来年のリサイタルには行けないのでガッカリ。。。
投稿: moco | 2006年12月26日 (火) 21時27分
<亜ゆみ様
我が家にないだけでホントは、もっといっぱいあると思いますよ。
いわゆる大物でもこの曲のCDが出ていない人も結構いますからね。
投稿: アルトのパパ | 2006年12月26日 (火) 20時50分
こうして見るとやはりポゴレリッチの演奏時間は群を抜いて遅いですね。それなのに不自然に流れが途切れたりすることなく、とても素晴らしい演奏だと思います♪
しかし47種も(もしかしたらそれ以上?)あるとは・・・恐れ入りました!
投稿: 亜ゆみ | 2006年12月26日 (火) 20時47分
<とらねこ様
恐れ入ります。
更新の励みにさせていただきます。
投稿: アルトのパパ | 2006年12月26日 (火) 13時39分
驚きました。私はケンプの演奏もポゴレリッチの演奏も大好きですが、こんなに時間の差があったとは!アルトのパパさまのお陰で目から鱗のことばかりです。いつもありがとうございます。
投稿: とらねこ | 2006年12月26日 (火) 07時50分
<Claris様
「こんなにあったか」という感じです。
それより今回は記事にするのに少々手こずりました。
たまには、気合を入れないといけませんから。
投稿: アルトのパパ | 2006年12月25日 (月) 19時41分
何とも言えず素晴らしい曲ですよね♪
私も大好きな曲です。
晩年のブラームスならではの作品だと思います。
この曲を聴いていると、とても清々しい気持ちになり、空気に溶けてしまいそうです。
アルトのパパさまのコレクションには圧倒されました!
数枚ですが、私も録音年代順に連続して聴いてみようかしら。。
投稿: Claris | 2006年12月25日 (月) 11時01分