ヘ調の揺らぎ
本日は「対斜」のお話。「non harmony」の訳語だ。
第三交響曲ヘ長調を解説した書物には必ず載っていることがある。冒頭3小節間の特異な和音進行のことだ。第1小節目は、もちろんヘ長調の主和音「F-C-A」だが、第2小節目には「F-As-H-D」の減七和音を挟んで、第3小節目にまたFの主和音に戻っている。AとAsが隣接している状況が「対斜」と呼ばれているという訳だ。この関係が、ソプラノ声部の「F→As→F」という進行、つまり交響曲全体のモットー「FAF」の土台になっている。この進行がどれほど異例かを強調し、この異例さと「FAF」とをもって第三交響曲全体を論じようとするニュアンスが充満している。
以前にも述べたとおりブラームスのヘ長調好きは有名である。ヘ長調の作品は多いのだから、こうした進行をさせている作品が他にもありはしないかと考えるのが自然だ。「F→Fdim7」で、すぐにわかるものとしては以下の4例が挙げられよう。
- ドイツレクイエムop45第一曲6小節目
- 「聖なる子守唄」op91-2 19小節目
- 「Abendlied」op92-3 20小節目
- チェロソナタ第2番op99第1楽章1小節目
上記の2番目以降は興味深い。作品90の第三交響曲と時期が重なっている。同じヘ長調でも作品86-2「野の寂しさ」や作品88の弦楽五重奏曲の第一楽章には見つからないから、作品90の第三交響曲がキッカケでということも想像に難くない。
特に4番目のチェロソナタは特筆物だ。何といっても作品冒頭の1小節目から発生しているのだ。4分の3拍子で数えて2拍分だけFの主和音が鳴って、3拍目でチェロが合流すると同時に減七和音に崩落している。その後恐らく、C→Esmaj7→F→Fisdim7→Gmと進んで5小節目冒頭でまたFに戻る。それも束の間で5小節目の3拍目にはまたも「Fdim7」という減七に引っ張り込まれるのだ。
紛れもなく「F」とそれに隣り合う「Fdim7」の摩擦エネルギーが作品の推進力になっているのが実感出来る。チェロソナタ第二番に関連する書物でもこの点における第三交響曲との類似には、あまり言及されていない・・・・・ような気がする。
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