音楽の中の無理数
「無理数」とは、「整数の比」の形で表わすことが出来ない数のことだという。これを習う頃から数学嫌いが加速した覚えがある。「分数にするのが無理な数」と覚えた。昔からこの手の語呂合わせが好きだ。「微分法」は「微かに分かる法」だし、「積分法」は「分かった積もりの法」だ。
さて無理数を無理やり小数で表わそうと思うと「循環しない無限小数」になってしまう。数と言えば「整数」ばかりが思い浮かぶのが自然だ。「負の数」は昨今温暖化の影響で温度計の上でもお目にかかりにくくなっている。それ以上お目にかかれないのはゴルフのスコアでの「負の数」だ。拍子やヴァイオリンのサイズで分数にも親しんでいる。小数は目の検査や体重測定、シャープペンの芯でおなじみだ。
無理数は音楽には無縁かと思うとそうでもない。平均率はオクターブを形成する12個の半音どれをとっても同じ幅に設定される。隣り合う半音の振動数の比は「2の12乗根」:1になる。「2の12乗根」とは「12回かけてあわされることで2になる数」だ。これが無理数なのだ。小数で表わすと約「1.059463」だ。電卓でこれを12回かけると2に近い数になる。平均率ではCのシャープからHまでこのように規定される音が並ぶ。一方で純正律を構成する各音の振動数は簡単な整数比で規定される。よって無理数の堆積である平均率と純正律では12回に1回しか協和しない。ぶっちゃけた話オクターブしか合わないということだ。
ピアノは多くの場合平均率で調律される。理屈の上ではオクターブ以外の音程は整数比ではないから、完全に協和しない。3度だろうと5度だろうと6度だろうと同様だ。ある種のうなりが生じていることになる。調律師と呼ばれる人たちは、このかすかなうなりを聞き分けていることになる。完全に協和してしまったら平均率にならぬのだ。
「平方根」ならともかく「12乗根」という概念は、実生活ではこれ以外には滅多に使わないと思われる。弦楽器の演奏においては、こうした理屈を知識として持っていることと、実際に音程が取れることとは、別問題であることが事態を難しくも楽しくもしている。
子供たちが最初に体験する無理数は円周率πである。直径と円周の長さの比である。私の頃は約「3.14」と習った。「えらく半端だなあ」と思った。何故「.14」なのか質問すると先生は「.14どころではなくて無限に続く」ということを教えてくれた。平方根を習うまでの間、唯一の無理数だった。昨今小学校では円周率を「およそ3」と教えているらしい。教育の見直しが必要だと直感する。「3」と教えたら子供は何も疑問を持たない。数万桁をそらんじろという気はないが、「.14」に戻すべきだ。むしろ整数の方が異例で、無限小数の砂漠に置かれたオアシスなのだ。円周率を「3」と教えてしまってはこれに気付くのが遅れる。
人間の脳は振動数が整数比になっている複数の音を耳で捉えると心地よいと感じる構造になっている。奇跡と思うべきだ。
今日3月14日は円周率の日だそうだ。
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