張力
弦楽器の弦の話だ。
ヴァイオリンの場合、楽器の胴長は35.5cmと決まっている。だから弦もその大きさの楽器に張られることを想定して制作されている。当たり前の話である。
しからば、楽器の大きさに決まりがないヴィオラの弦はどうなっているのだろう。弦楽器ショップに行ってヴィオラの弦売り場を見回しても、L、M、Sの表示は見当たらないから、ヴィオラの弦は、使用する楽器の大きさに関係なく一種類しかないのだと推定できる。懸賞に応募してプレゼントされるTシャツのサイズが大抵「F」つまり「フリーサイズ」になっているようなものだ。この「F」フリーサイズを「どんな体格の人間でも自在にフィットする」という意味に受け取っている奴はいない。大抵「L」あたりに作られているようだ。思うに「L」と表示してしまうと、「Sは無いのですか」という問い合わせが発生してしまう。無償で提供するTシャツの品揃えなどしたくもないという心理が見え隠れする。
ヴィオラの弦はどうも胴長で41~42cmあたりのヴィオラを想定して作られているらしい。弦楽器の弦は輸入物ばかり目に付くが、「日本人の体格に合わせて」などという微調整が施されている気配はない。日本の事情にあわせて右ハンドルを作ってくれている自動車業界とは違うようだ。
胴長で41~42cm、弦長でいうと37cm程度の楽器に張られることを前提に設計された弦を胴長39cmのヴィオラに張ったらどうなるか。張力が弱くなるということらしい。張力が弱くなると「音量」と「音の張り(明るさ)」が落ちるとされている。ガット弦がスチール弦やナイロンガットに取って代わってきたのは、より強い張力を求めてであるとも言えるらしい。だからこの部分を補うために小さな楽器に高張力の弦を張るニーズが存在するという訳だ。メーカーは「ハードテンション」「シュタルク」と称されるバリエーション仕様でこれに対応しているという訳だ。
張力が高いと言うことは良いことばかりかというとそうでもない。レスポンスが落ちるという副作用もあるという。つまり「弓のひっかかりが悪い」という状態を引き起こしかねないということだ。
私のヴィオラは胴長は45.5cmで弦長は40.5cmだ。「ライトテンション」の弦を薦めてくれたお店の人の考えがやっと呑み込めた。
弦の設計時想定よりも恐らくは大きな楽器なので、普通の弦を張ると張力が大き過ぎてしまう。弓の性能やテクニックにもよるが、楽器を鳴らすのが一苦労という状態が想定される。あるいは大き過ぎる張力が楽器本体に及ぼす悪影響も考えてのことかもしれない。楽器自体が大きいことで張力の確保は十分と考え、レスポンス重視に振ったセッティングと言うことが出来る。なんだかF1のタイヤの選択みたいだ。
おかげで今のところ私の楽器からレスポンスの悪さを感じることはない。音量にも満足している。残念なことに音程の良くなる弦はどこにも売っていない。
「ブラームス専用弦」でもあったら即買いなのだがいかがなものだろうか。
« 教科としての音楽 | トップページ | 著者冥利 »
コメント
« 教科としての音楽 | トップページ | 著者冥利 »
<SHUN様
貴重な情報をありがとうございます。「本国取り寄せ」ですか!!
ロングスケールで全部カバー出来るのかもしれませんね。「大は小を
かねる」ということでしょうか?ますますTシャツに似ています。
投稿: アルトのパパ | 2007年4月24日 (火) 05時38分
はじめまして。
ヴィオラ弦だと、ダダリオとかに
ショートスケール、ミディアムスケール、ロングスケールなど、
だいたいのおおきさにあわせてえらぶことが可能ですよ。
テンションも三段階ちゃんとラインナップされてます。
3*3の組み合わせが存在してますが、指定買いをしている人は少数派みたいです。このまえ、ミディアムスケール、ミディアムテンションを注文したら、問屋にもないみたいで、本国取り寄せって形になりました。
通常はロングスケールミディアムテンションしかおいてませんね。
投稿: SHUN | 2007年4月24日 (火) 02時57分